棚に残る番号札
御園と榊は、河井の時計店を訪れた。県境の町や印刷所で起きた事件と同じく、殺害方法は心臓への杭の一撃だけだった。ほかに外傷は認められず、店の品物が荒らされた様子もない。御園は現場の整理が終わるまで、時計の預かり票と客の出入りを記録した。店へ来た人の大半は修理の用事があり、それ以上の理由を示すものはなかった。
沙織は父の仕事について聞かれると、時計を預かるとき必ず修理内容を声に出して確かめたと話した。客が迷えば急がせず、直せないものは理由を説明して返す。榊はその話を記録し、店の営業日誌を確認した。犯人を探すために必要な情報と、父の人柄を知るための話が同じ時間に続いた。
捜査員の一人が店の裏口へ置かれた鉢植えに気づいた。河井が毎朝水をやっていたものだという。御園は写真を撮って位置を記録し、それ以上の意味を付けなかった。証拠は見つからず、植木鉢は植木鉢のままだった。捜査とは関係のないものも、亡くなった人の生活の中には残る。
店の壁には修理料金の一覧が貼ってあり、角が長年の湿気で丸くなっていた。榊はそこにも目を向けたが、写真に残したのは捜査に必要な位置関係だけだった。河井が毎日使っていた道具の多くは、これから娘が片づけることになる。捜査と遺品整理の時間は重なるが、同じものではなかった。
帰り際、沙織が「いつか分かるのでしょうか」と尋ねた。御園は必ず解決すると軽々しく約束しなかった。「調べ続けます」と答え、連絡方法を伝えた。沙織は頷き、父の使っていた丸椅子を見た。榊は扉を閉める前、奥の壁時計が鳴るのを聞いた。正しい時刻を知らせる音が、今は店主のいない店に響いていた。




