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治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


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舟に書いた一文字

病室で蒼は黄色い舟の紙を裏返し、鉛筆を握った。千尋が何を書きたいのか尋ねると、蒼はゆっくり「い」と一文字を書いた。続けようとした手が止まり、紙に薄い線が残る。言葉の障害が強くなってから、こうした途中で消える文字は増えていた。千尋は書き終えるまで待とうとして、息子が疲れていることに気づいた。


誠が来ると、蒼はまた鉛筆を持った。今度は「いく」と書けた。学校へ行くことか、手術へ行くことか。両親は勝手に意味を決めず、絵カードを並べた。蒼は「治る」を選び、それから「こわい」へ触れた。二つを交互に見せ、最後に「いく」と書いた紙を差し出した。誠は何度か読み返し、声を詰まらせた。


担当医は蒼の意思を記録し、理解の確認を続けることにした。両親の同意が必要なのはもちろん、蒼が強く拒む様子があれば進めない。久世も面談へ加わり、治療で言葉を取り戻せることと、術後の殺害を防ぐ保証はないことを改めて説明した。蒼は手を震わせながらも、同じカードを選んだ。


蒼が書いた「いく」の二文字は、途中で鉛筆を持ち替えたため濃さが違っていた。千尋はその紙を写真に撮ろうとして、手を止めた。記録に残すことより、今は息子が何を伝えたいかを聞く方が先だった。誠が鉛筆の芯を少し削り、蒼の手元へ戻した。蒼はゆっくり二人を見上げた。


夜、千尋は紙の舟を新しい透明な袋へ入れた。誠が「決めたんだな」と呟くと、千尋は「明日も聞いてあげたい」と答えた。子どもの一文字へすべての責任を負わせるわけにはいかない。蒼は寝る前、父親へ手を伸ばした。誠は椅子を寄せ、布団がずれていないか確かめた。窓の外で病院の救急入口の灯りが揺れ、廊下では夜勤の足音が続いていた。

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