登校日の約束
坂巻は千尋から、蒼が手術について考え始めたと連絡を受けた。学校では本人の意思をどう支えるか、担任と養護教諭、管理職が話し合った。手術を受けるよう勧めることはできない。けれど、蒼が戻ってきたときに居場所があることは伝えられる。坂巻は学級通信の余白に、近況を聞くための質問欄を作ることにした。
教室では児童たちが、蒼への手紙を書くか相談していた。心配という言葉を繰り返すと、読む蒼がつらくなるかもしれない。そこで、いつもの学校で起きた小さな出来事を書こうと決めた。給食の新しい献立、落とした消しゴム、図工で失敗した粘土。誰かが笑うと、別の子も思い出したことを話し始めた。
蒼への手紙をまとめた封筒には、登校日の予定も入れられた。参加できるかどうかを尋ねるためではなく、学校で何が行われているか知らせるためだ。千尋は受け取った紙を病室で読み上げた。蒼は図工の失敗談に声にならない笑いを漏らし、黄色い舟の絵を封筒へ戻した。
子どもたちが手紙を書いていると、一人が消しゴムを貸してほしいと頼んだ。蒼がいつも貸していた青い消しゴムのことを思い出し、教室が少し静かになった。坂巻は予備を渡し、いつもと同じ調子で次の授業を始めた。思い出して寂しくなることも、学校の一日の中にある。
坂巻は放課後、蒼の席の隣に座ってみた。黒板はよく見えるが、窓からの光で午後は少しまぶしい。蒼が戻ったら席を替えるべきか、本人に聞いてみようと思った。学校で決められることは、案外そんな細かなことばかりだ。だが細かなことを積み重ねる場所が、子どもには必要だった。坂巻は机の位置を戻し、教室の鍵を閉めた。




