返事を待つ午後
誠は病院の談話室で、蒼が描いたカードの並びをノートに写していた。前の面談で蒼は話の途中から泣き、眠ってしまった。千尋は自分たちが無理をさせたのではないかと落ち込んでいた。担当医は、怖いことを聞いて泣くのは自然な反応であり、言葉を理解していない証拠にも、すべて理解した証拠にもならないと説明した。
翌日の面談で、蒼は「学校」と「話す」のカードを選んだ。久世が治療を受けた場合の変化を伝えると、蒼は誠の顔を見て口を動かした。音にならない言葉を父親が当てようとすると、蒼は首を振った。千尋が紙と鉛筆を渡すと、蒼は少し時間をかけて「みんな」と書いた。友だちのことかと尋ねると、蒼は頷いた。
危険について改めて話すと、蒼は「こわい」のカードに指を置いた。誠は息子の恐怖を打ち消す言葉が思いつかなかった。「父さんも怖いよ」と言うと、蒼は少しだけ父に寄りかかった。千尋は泣かないように唇を噛んだ。怖いと言っても、選択の扉はすぐには閉じない。かといって怖い気持ちを押し切ってよいわけでもなかった。
誠は病院を出る前、受付へ翌週の面談日を確かめに行った。看護師は蒼が疲れやすい時間帯を避けて調整すると言った。誠は何度も礼を言い、手帳へ時刻を書き込んだ。仕事の会議なら変更を頼める。息子と話す時間を大切にするために、今はそちらを先に予定へ置きたかった。
面談のあと、千尋は病棟の窓から校庭に似た公園を眺めた。子どもたちが遊んでいる。蒼もかつて同じように走った。今も紙の上では遠くまで飛ぶ鳥を描ける。千尋はノートを閉じ、誠に「もう一度、本人の話を聞こう」と言った。誠は頷き、蒼の好きな水色の鉛筆を削った。次の返事がいつ出るか、二人は決めなかった。




