伝えたい言葉の形
千尋は蒼と向かい合い、手術について使う絵カードを新しく作った。「病気」「治る」「危ない」「選ぶ」。言葉をなるべく短くし、担当医に表現を確かめてもらった。蒼が理解できないまま頷くことは避けたい。一度にすべてを話さなくてもよいと言われ、千尋は四枚のうち二枚だけ机へ置いた。
蒼は「病気」の絵を指さすと、自分の頭へ手を当てた。千尋は「今は言葉が出にくいね」と伝え、「治る」のカードを見せた。久世の治療なら話せるようになることを、時間をかけて説明した。蒼は目を輝かせたが、次に示された「危ない」の絵には首をかしげた。千尋は返事を急がず、看護師を呼んで相談した。
午後、担当医が加わり、病気を治した人たちが殺されている事実を、蒼に分かる範囲で話した。年齢に合った言葉を選んでも、怖さは薄くならない。蒼は黄色い舟の紙を裏返し、しばらく動かなかった。誠が手を伸ばしかけると、蒼は父の指を握った。二人はそのまま黙り、千尋も窓の外を見た。
千尋は説明に使ったカードをしまう前、色の濃さが揃っていないことに気づいた。「こわい」の札だけ、何度も指で触れたため少し薄くなっている。新しく作り替えるべきか迷ったが、その日はやめた。蒼が自分で触った跡まで、急いで消す必要はないと思った。
話し合いを終えると、蒼はカードを箱へ戻した。最後に「学校」を一枚取り出し、机の端へ置いた。千尋は「今日はここまでにしよう」と言った。蒼は頷き、いつもの青い鳥を描き始めた。絵の羽が一枚ずつ増えるのを、両親は近くで見ていた。手術について蒼が何を理解し、何を恐れているか。次の面談でも確かめることは残っていた。




