母と娘の門限
澄江が園芸会から戻ると、娘の春菜が玄関で時計を見ていた。「遅かったね」。澄江は会のあと喫茶店へ寄ったと答え、友人と食べた菓子の話をした。春菜は予定の時刻を越えたことに苛立ったが、母が自分で電車に乗り、会話を楽しんで来たことも嬉しかった。怒る理由と喜ぶ理由が同時にあるのを、どう伝えればよいか分からなかった。
夕食の支度をしながら、春菜は帰宅予定を連絡してほしいと頼んだ。澄江は了承したが、以前のように一人で行動できるようになった以上、すべての外出を許可制にはしたくないと言った。春菜は反論しかけ、台所の水を止めた。母の病気のころは、安心して外出できる日を望んでいた。その日が来た今、自分が行動を制限しようとしている。
二人は食卓へ紙を置き、約束を三つだけ書いた。予定が大きく変われば連絡する。電話に出られなかったときは慌てて責めない。帰宅が遅くなる日は、一緒に夕食を食べる約束を改める。澄江は最後の一行を気に入り、「それなら守れる」と言った。
澄江は買い物袋から小さな鉢を取り出した。園芸会の友人が挿し木から育てたものだという。春菜は窓際の置き場所を探し、日差しの向きを確かめた。母が自分の暮らしを取り戻すほど、家の中には新しいものが増えていく。春菜は鉢の下に敷く皿を洗い、食卓へ戻った。
夜、春菜は玄関に置かれた園芸会の花を見つめた。枝には小さな蕾がついている。澄江は水を替えながら、次の会で苗を交換すると教えた。春菜は作業台の高さを直し、母が使いやすい位置へ置いた。明日のことを全部保証する方法はない。それでも二人は、同じ家で暮らすための約束を自分たちの言葉で作り直せた。




