修理工場の灯
藤倉は職場の修理工場へ顔を出した。復職の許可が出るまでは見学だけという約束だったが、後輩が外した部品を見せると自然に手が動いた。左手で金具を持ち、右手で角度を確かめる。数か月ぶりの感触だった。後輩たちは歓声を上げず、作業台を空けて藤倉のための椅子を持ってきた。
工場長の伊藤は休憩室で缶コーヒーを渡した。「戻ってきてほしい。でも、急ぐな」。藤倉は缶を握り、指の力を確かめた。かつてはその程度のことが難しく、家族に瓶の蓋を開けてもらっていた。伊藤は病院の事情を知っていたが、どう尋ねればよいか分からない。藤倉が口を開くまで、壁の作業予定表を見ていた。
工場では、藤倉が長く担当した設備の点検日が近づいていた。後輩は一人で対応できるよう準備をしてきたが、難しい箇所だけ先輩に尋ねたかった。藤倉は図面を見て説明し、自分で作業しないよう椅子へ戻った。できることと、今してよいことは違う。工場長がそれをはっきり言ってくれたおかげで、藤倉も身体を急かさずに済んだ。帰る前に後輩が図面を折り、次の約束をした。
「一年以内だってさ」。藤倉が言うと、伊藤は顔を上げた。「助からないのか」「俺には分からん。でも、手は戻った」。藤倉は工具の並んだ棚へ目を向けた。仕事に戻れることが、そんな結末と釣り合うとは思っていない。ただ、先に失ったものが戻った嬉しさだけは嘘ではなかった。伊藤は「今日は椅子に座っていけ」と言い、二人で黙って休憩した。
夕方、妻が迎えに来た。工場の入口から藤倉が歩いてくるのを見て、少しだけ足を止めた。夫は以前より背筋を伸ばしていた。帰りの車で、妻は買い物に寄るか尋ねた。藤倉は夕食の材料をいくつか挙げ、子どもに好物を食べさせたいと言った。信号が青になり、車はいつもの道を曲がった。




