父親の折り目
誠は自宅へ戻り、蒼が小さいころ作った工作を押し入れから出した。段ボールの電車には、曲がった色紙の窓が貼り付けられている。仕事から帰るのが遅い父親と遊ぶため、蒼が居間の床に線路を作って待っていたころのものだ。誠は埃を払い、壊れた車輪を指で回した。あのころは朝になればまた遊べると、疑う理由がなかった。
千尋から電話が入り、蒼が今日も病室で絵を描いたと聞いた。誠は工作の写真を送り、明日病院へ持って行ってよいか尋ねた。千尋は、荷物が増えすぎないならと笑った。二人は手術の話を避けているわけではない。毎回その話だけになれば、息子の好きなものが見えなくなる気がした。
夜、誠は父母に電話をかけた。祖父母は孫の声が戻る可能性を喜び、それと同じ強さで手術後を恐れた。祖母は「代わってやれるなら」と言い、言葉を詰まらせた。誠はそれ以上慰めを求めず、病院の説明を受けた範囲だけ伝えた。離れて暮らす家族が決められないことでも、考えてくれる人がいるのは救いだった。
段ボールの車輪を直すため、誠は近所の文具店で小さな留め具を買って来た。蒼が昔使ったものと形が違い、しばらく迷った。店員は子どもの工作だと聞いて、扱いやすいものを選んでくれた。誠は礼を言い、袋を鞄へ入れた。買い物をするあいだだけ、親として知っている仕事へ戻れた気がした。
翌朝、誠は段ボールの電車を病室へ持って行った。蒼はすぐ窓の色紙を指さし、笑いながら車輪を回した。欠けた部分には新しい紙を貼ることになった。誠が赤い色紙を渡すと、蒼は黄色を選んだ。二人で黙って貼り付ける間、千尋は机の端で折り目を押さえた。家族の手が同じ工作へ向かっている時間を、誰も急がせなかった。




