教室の三番目の窓
坂巻が学校へ戻ると、教室の子どもたちが蒼への返事を待っていた。すぐに元気になるのかと聞く子も、遠足の写真は届いたかと尋ねる子もいる。坂巻は病状を勝手に話さず、蒼が写真を見て喜んでいたことだけ伝えた。黒板の横には蒼の係の札が残っている。担任が外すか相談したとき、係の仲間が「戻ったらまた一緒にやる」と言ったのだ。
昼休み、子どもたちは窓際の机で新しい絵カードを作り始めた。遠くからでも分かるよう太い線で描き、言葉は短く添える。絵が上手な児童は船の形にこだわり、別の児童は給食の献立を描いた。坂巻は二人の意見を調整し、誰か一人が決めるのでなく使う蒼が選べるよう、複数のカードを作った。
放課後、保護者から問い合わせがあった。蒼に重い治療の話があると聞いたが、クラスの子にも説明すべきかという。坂巻は学校で扱える範囲と、家族の許可が必要な情報を分けて伝えた。子どもたちの優しさを守ることと、蒼の私生活を広めないことは両立させたい。保護者は少し安心したように礼を言った。
坂巻は絵カードの角が尖っていないか確かめ、透明なテープで補強した。何度も指で選ぶと、紙の端が傷んでしまう。蒼だけでなく、教室のほかの子が使う機会もあるかもしれない。教材を作る作業は地味だが、一枚を長く使えるようにするだけで助かることがある。
日直が帰り、教室に夕方の光が差し込んだ。蒼の机は磨かれ、引き出しには読みかけの本が一冊入っている。坂巻は本が傷まないよう確認してから、窓を閉めた。病院へ届けるカードは封筒へ入れ、翌日の連絡帳に記した。教室の席を空けておくことだけでは、蒼の帰る場所は守れない。皆が普段どおり学び続けることも、その一つだった。




