峠を越える資料
御園の机には、県境の町から届いた聞き取り記録が積まれていた。担当刑事は遺族への連絡と住民への聞き込みを続けているが、新しい目撃情報はない。榊は紙の地図を広げ、被害者が通っていた図書館と自宅の位置を確かめた。移動経路をつなぐことはできても、その上に犯人の姿を置く証拠はなかった。
「同じことを聞きに来たんですね」。町の図書館員は榊をそう迎えた。責めているのではない。別の警察官も同じ本棚の前で話を聞いたことがあるのだという。榊は重複している質問を避け、当日貸し出された本の扱いと防犯記録を確認した。図書館員は照会できる範囲を説明し、規則に沿って対応した。仕事場の秩序を守ることも大切だった。
亡くなった女性は、折り紙の会で子どもに本を薦めていたという。会の掲示板には今も色紙で折った鳥が貼ってある。榊が眺めていると、司書が「取り外すか迷っているんです」と話した。会員からは残してほしいという声が多い。榊は捜査とは関係ないと断りながら、鳥の折り目を見つめた。
図書館の返却口には、子どもが作った栞が何枚か飾られていた。亡くなった女性が配った色紙の残りを使ったものだという。榊は手を触れずに眺め、司書の話を聞いた。被害者の一日を調べるほど、そこにあったのは不審な行動ではなく、他の人と分け合った普通の時間だった。
帰りの車で、榊は聞き取った内容を御園へ伝えた。決め手になる情報はない。御園は「分かった」とだけ答え、記録へ印を付けた。峠道の先には夕焼けが広がり、道の駅へ向かう車が連なっていた。事件のためだけに存在している町ではない。翌日、図書館は予定どおり開き、折り紙の会も行われると司書は言っていた。




