ふたつの帰り道
御園は捜査本部を出る前、榊と翌日の予定を確かめた。別の県で行われた聞き込みの結果を受け取り、必要なら再度訪問することになっている。事件は増えているが、確かな手掛かりはまだ少ない。御園は資料を開き、各部署が同じ作業を繰り返さないよう担当を分けた。
榊は先日訪れた印刷所のことを思い出していた。仕事を続ける弟の姿と、壁へ掛けられた作業表。捜査は被害者の最後の日を追うが、残された人には次の日もある。榊は報告書へ必要な事実だけを書き、弟の悲しみを勝手に代弁する言葉は添えなかった。
帰り道、榊は駅前の売店へ寄った。会社員や学生が弁当を買い、次の電車の時刻を確認している。事件が起きた家の近くでも、こうした暮らしは続いていたはずだ。榊は自分の夕食を買い、列へ並んだ。仕事を終えれば一人の生活者に戻る。その当たり前が、最近は少し重く感じられた。
改札を通る前、榊は明日の集合時刻を携帯電話で確認した。生活へ戻る途中でも、仕事の予定は途切れない。返信を終え、ようやく鞄の内側へ端末をしまった。
御園はまだ捜査室に残り、過去の事件との照合を続けていた。杭による同じ傷、ほかに外傷のない遺体、久世の治療歴。犯人は固定されていると考えられるが、誰で、どう移動し、なぜ狙うのかは分からない。御園は資料の裏付けが取れていない部分へ印をつけた。
夜遅く、御園は窓を閉め、机の灯を消した。明日の資料はすでに鞄へ入っている。駅へ向かう人々の流れの中へ歩き出し、次の信号を待つ。犯人の姿が見えなくても、捜査は止められない。同時に、刑事の暮らしも明日へ続いていく。




