↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
治せます。ただし、あなたは一年以内に殺されます。――脳外科医・久世朔の診察室  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
116/240

引き出しの封筒

久世の診察室には、過去の患者から届いた手紙を保管する引き出しがあった。治療後に初めて海へ行けた人、仕事へ戻れた人、家族の声を聞き分けられるようになった人。手紙の文字や紙の色はさまざまで、どれも診療録とは別に慎重に管理されている。久世は整理のため一通ずつ取り出した。


手紙の中には、今はもう亡くなっている人のものもある。殺害の知らせが届くたび、病院では診療記録と照合が行われてきた。心臓へ杭を打たれ、ほかに外傷はない。治療が成功した事実と、殺人によって命を落とした事実は、どちらも消せない。久世は紙を破かず、日付を確認して元へ戻した。


井沢が検査結果を届けに来ると、机の上の手紙に気づいた。久世は内容を見せず、個人のものだからとだけ伝えた。井沢は頷き、次の患者の予定を確認した。病院の中では情報を必要な範囲で共有しなければならないが、誰かの感謝の言葉まで皆へ回す必要はない。


手紙を収めた封筒の一つには、小さな花の絵が描かれていた。久世はその面を上にして戻し、封を確かめた。紙が傷まないよう置き直すだけの、静かな作業だった。


夕方、久世は窓際へ立ち、駐車場を歩く人々を見た。手術を受けて退院する患者も、診断だけを受けて帰る患者もいる。久世の治療を選ばなかった人を、記録から消すことはしなかった。その人にも別の病院で続く生活がある。机の上には明日の診察予定が並んでいた。


最後の封筒を引き出しへ戻し、久世は鍵をかけた。廊下で清掃員が挨拶をすると、彼も短く返した。夜の病院では救急外来の灯りが消えない。久世は今日の診療録をもう一度確かめ、書類の端を揃えた。明日はまた新しい患者の話を聞く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。