待合室の時計
久世の外来は、朝から多くの患者で混み合っていた。受診する理由はさまざまで、誰もが手術を望んでいるわけではない。診断だけを受けたい人、他院の意見を聞きたい人、家族に付き添われて来た人。受付は番号順に案内を進め、職員が必要な手続きを確かめていた。
待合室の端で、若い女性が書類を握っていた。長く続く脳の異常で仕事を休み、久世の治療を知って来院したという。説明書を読んでから、まだ決められないと話した。井沢は今後の面談と他の治療について説明し、必要なら次回へ延期できると伝えた。女性は小さく礼を言い、紙を畳んだ。
隣の席には、術後検査を受ける男性が座っていた。男性は普通に歩き、病気で失っていた声も戻っている。若い女性はその姿を見て、少し身を乗り出した。しかし自分も同じ選択をすべきか、という問いに答えはない。二人は会話をせず、それぞれの番号が呼ばれるのを待っていた。
帰り際、若い女性は病院の案内板で相談室の位置をもう一度確かめた。次に来るとき迷わないためだった。今日は手術を決めなかったが、相談する場所は残っている。
診察室では久世が画像を見て、患者の困りごとを聞いた。医学的に説明できることと、術後の殺人について分からないことを分けて伝える。患者が質問を止めるまで待ち、次の受診について案内した。時計の針は昼を過ぎ、廊下では職員が椅子を整え始めた。
若い女性は予約を入れずに帰った。受付で次の相談先を書いた紙を受け取り、玄関から外へ出る。明日も病気は残る。それでも今日は、決めないという選択を持ち帰ることができた。病院の正面では花壇の手入れが続き、誰かが散水用のホースを巻いていた。




