証言の重さ
御園のもとへ、事件を目撃したかもしれないという連絡があった。榊は日時と場所を確かめ、まず話を聞くことにした。証言者は夜道で見知らぬ人物を見たという。しかし服装や背格好の記憶は曖昧で、報道を見てから思い出した部分もあるらしい。榊は相手を責めず、覚えていることを順番に尋ねた。
証言には重要そうに聞こえる言葉もあったが、当日の記録と照合すると時刻が合わなかった。御園は可能性を完全に捨てず、確かめるべき事実を絞った。新しい話を聞くたびに犯人の姿を決めてしまえば、捜査は誤った方向へ進む。榊もその難しさを理解していた。
午後、別の被害者の家族から連絡があった。事件の報道が増えるたび、故人の顔が知らない場所へ広まっているようでつらいという。御園は担当者を通じて話を聞き、必要な支援先を伝えた。警察が事件を追うことと、遺族が生活を続けることは、時々違う速さで進む。
聞き取りを終えた証言者は、役に立てず申し訳ないと話した。榊は協力への礼を伝えた。思い違いがあったことを責めるより、記憶と記録の差を明らかにできたことが大切だった。
捜査室では新しく届いた映像の確認が続いた。榊は同僚と交代しながら、映っている人々の動きを記録した。何時間も画面を見ても、確かな成果が得られない日がある。それでも記録を残すことで、後から別の資料と照らせるかもしれない。小さな確認を省かないことが、今できる仕事だった。
帰宅前、御園は机の上の証言票を揃えた。そこには確かな事実と曖昧な記憶が並んでいる。御園はどちらも消さず、区別して保管した。明日また別の情報が届くかもしれない。犯人の説明がないまま事件が続いても、捜査を止める理由にはならなかった。




