残り火の食堂
催しの翌朝、三橋は普段より遅く食堂へ入った。昨日使った鍋や台車を片づける仕事が残っている。妻は売上げを帳簿に記し、次の仕入れを調整していた。祭りの賑わいは終わったが、店はまたいつもの昼食を出さなければならない。三橋は包丁の刃を確かめ、野菜を切り始めた。
常連の老人が店へ来て、昨日の弁当が美味しかったと話した。三橋は礼を言い、いつもの定食を出した。老人は食べ終えてから、来年も出店してほしいと頼んだ。三橋は返事に迷った。来年のことを考えれば怖くなる。それでも「準備できたらね」と笑って答えた。
昼休み、妻は夫が疲れていないか尋ねた。三橋は体の調子は良いと答えたが、昨夜は少し眠れなかったと打ち明けた。催しが楽しかったほど、来年にはいないかもしれないことが気になったという。妻はすぐに慰めず、湯飲みに茶を注いだ。二人は静かに飲み終えてから、午後の仕事へ戻った。
帳簿には昨日の買い物客の数も書き残した。次の催しを約束できるわけではないが、記録があればほかの店主にも役立つ。妻は数字の横へ小さく感想を添えた。
午後、八百屋の主人が昨日の売れ行きを聞きに来た。三橋は帳簿を開き、仕入れの量がちょうどよかったと話した。八百屋は次回も協力すると言い、買い物客のところへ戻った。明日も仕入れが必要で、野菜の値段も変わる。商売は未来の不安だけでは動かない。
夜、三橋は食堂の戸を閉め、妻と並んで帰った。商店街の旗はすでに片づけられ、普段の街灯が通りを照らしている。二人は来週の休業日に何をするか相談した。祭りが終わっても日々の予定は続く。三橋は妻の歩幅に合わせ、少し遠回りして帰ることにした。




