並んだ椅子
地域の相談会には、久世の治療を受けた人とその家族が少人数ずつ集まっていた。市役所の田宮は、相談先を案内する担当として参加している。病院の面談とは違い、仕事や住まい、介護のことを話せる場だった。参加者が同じ結論を持っているわけではない。田宮はまず、聞きたい話題を一人ずつ確かめた。
治療を受けた男性は、仕事へ戻るための手続きについて尋ねた。隣の女性は、家族から外出を止められていることを話した。二人の悩みは違うが、暮らしを取り戻したいという気持ちは通じていた。田宮は利用できる制度と相談先を説明し、必要なら個別の面談へつなぐことにした。
一人の家族が、手術を受けた人は全員同じ行動を取るべきだと言いかけた。司会の相談員は意見を聞いたうえで、他人の選択を決める場ではないと静かに伝えた。安全への不安は共有できても、生活の形はそれぞれ違う。会場には小さな沈黙が流れたが、別の参加者が自分の仕事の話を始めると会話が戻った。
休憩中、田宮は案内票への意見を集めた。文字が大きくて助かるという声もあれば、福祉の窓口が遠いという不満もあった。田宮は手帳へ書き留め、対応できるものと検討が必要なものを分けた。一枚の紙だけですべてを解決できるとは考えていない。それでも相談の入口を分かりやすくしたかった。
会が終わると参加者たちはそれぞれの方向へ帰った。帰り際、ある男性が久しぶりに自分で電車に乗れたと嬉しそうに話した。田宮は礼を言われ、少し戸惑った。自分がしたのは必要な窓口を案内しただけだ。だが一人で帰れるようになった人には、その紙が確かな役割を果たしていた。




