祭りの仕込み
商店街の秋の催しが近づき、三橋の食堂では準備が進んでいた。妻は容器を数え、三橋は小さな弁当の試作を繰り返した。普段の店とは違う場所で料理を出すには、衛生管理や搬入の手順も確かめる必要がある。三橋は町の担当者と話し、無理のない量で参加すると決めた。
隣の八百屋が旬の野菜を届けに来た。三橋は材料を選び、子どもでも食べやすい味つけを考えた。八百屋の主人は「また一緒に祭りができる」と笑った。以前の催しでは、三橋の病気が重く店を閉じていた。商店街の人々はその間も準備を続け、三橋が戻る日を待っていた。
午後、妻は売上げの予想を帳簿へ書き、仕入れを少し減らすことを提案した。三橋は最初もっと作りたいと思ったが、売れ残りが出れば店の経営に響くと分かっていた。客を迎える喜びと、仕事を続けるための計算は別にできない。二人は相談し、必要な数を決めた。
保健所から届いた催しの注意事項にも目を通し、三橋は冷蔵設備の確認日を手帳へ記した。料理を売るには味だけでなく、客が安心して食べられる準備が欠かせなかった。
休憩中、三橋は病院からの検査案内を読み返した。体調は安定しており、脳の症状は消えている。一方で殺人の危険については、何も変わっていない。妻は夫が紙を見ていることに気づいたが、急いで片づけさせなかった。今の暮らしには料理を楽しむ時間も、怖さを確かめる時間もある。
閉店後、二人は会場へ運ぶ道具を並べた。台車、折り畳みの机、鍋を包む布。三橋は一つずつ確かめ、足りないものを手帳へ書いた。明日の朝にはまた通常の営業がある。催しの日まで少しずつ準備すればよい。妻は最後に明かりを消し、三橋と並んで家へ帰った。




