見落とした靴音
捜査一課の御園と榊は、最新の事件現場へ再び足を運んだ。近隣の防犯カメラは歩道の一部を映していたが、被害者宅への出入りを決定づける映像は得られない。榊は何度も同じ数分を再生した。映像には配達員、帰宅する会社員、犬を連れた女性が現れ、それぞれ画面の外へ消えた。
「犯人はここを通ったはずです」と榊が言うと、御園は頷きもしなかった。そうだと決める証拠がない。犯行の手順を推測することはできても、推測を積み上げれば見えるものまで見落とす。御園は被害者の家族に連絡し、事件当日の来訪者をもう一度尋ねた。家族は買い物の話なら覚えていたが、見知らぬ人のことは何も話せなかった。
近所の管理人は、被害者が毎朝決まった時刻にごみを出していたと語った。元気なころも、病気のころも、回復してからも、その習慣は続いていた。御園は話を聞きながら、事件前に生活が大きく変わった形跡がないか確かめた。管理人は首を振った。「いつもの人でしたよ」。その言葉を御園は記録した。ありふれた習慣は、変わらなかったこと自体が手掛かりになる。
昼過ぎ、鑑識から追加の報告が届いた。杭が心臓を貫いたこと以外に、身体の外側へ加えられた傷は認められない。爪や腕にも抵抗した痕はない。御園はその報告を紙で受け取った。画面で読むより重く感じたのは、文章が繰り返し過去の資料に現れるものと同じだったからかもしれない。
榊は書類を綴じ、次の聞き込み先を確認した。奇妙なところを探すほど、被害者の暮らしは普通だった。玄関には傘が二本並び、冷蔵庫には翌朝のためのパンが入っていた。御園は家族へ傘を返す手続きを進めるよう頼んだ。事件の真相が遠くても、遺された生活に必要な手続きだけは待ってくれなかった。




