9話 グエル商会のラーサン
ライアの予期せぬ従魔契約があったが、旅程は順調に進み、2日でファーランド王国王都に到着した。
フリーゲル王国の王都とは違い、人の出入りは少ないようで入場待ちの列もほとんどなく、すんなりと入場することが出来た。
当然だが身分証を持たないライアは警戒されたが、竜の牙と緑の目、そしてトルネが身元を保証すると伝えると門兵は特に気にすることも無く入場を許可してくれた。
ありがたい。
ファーランド王国の王都は、石作りで絢爛な雰囲気の建物が多いフリーゲル王国と比べると、木造住宅が立ち並びどこか温かみを感じる簡素な街並みだ。
木材以外の資源に乏しいというが、こういった落ち着いた雰囲気は悪くない。
街中を行きかう人の表情もどこか優しい顔をしているような気がする。
俺はフリーゲル王国よりファーランド王国の雰囲気の方が落ち着いていて好きだなぁ。
「俺らはこのまま馬車を届けるついでに傭兵ギルドに向かう。依頼の達成報告もあるしな」
アレクとガイはそういうと馬車を引いて傭兵ギルドへと向かっていった。
「我ら緑の目も傭兵ギルドに向かう。本当に世話になった。感謝する」
ガッシュ達は丁寧に頭を下げて去っていった。
二人とも本当に生真面目だな。
でも傭兵としてはそういったところが信用はできるからいいんだろうな。
「んで俺らは一旦トルネの店だな」
「はい!案内します!」
トルネに案内を任せ、俺とライア、それとエレナとマリアが同行した。
「着きました!こちらがフランゼ商会の王都本店です!」
木造の建物だが立派な造りの2階建て店舗だ。
中に入ると結構広く奥行きもあり、店内は雑貨を中心として生活用品が各種取り揃えられていた。
「へー。結構広いね。品揃えも豊富でいい感じ」
「ふふん!フランゼ商会は祖父の代から続く商会なのでこのくらい当然です!」
両手を腰に当て、無い胸を張りながら自慢げな様子のトルネ。
しかし、見たところまだ10代後半に見えるが、両親は居ないのだろうか。
「さて!ここに来た目的を果たしましょう!!ライアちゃんの肌着を選びます!エレナさん!マリアさん!お手伝いお願いします!」
「りょーかいっ!」
「任されました♪」
「主様、選ばない?」
「うーん。流石に女性用の肌着選びに俺は参加できないから、3人に選んでもらっておいで?」
「ん」
4人が2階の衣料品エリアに向かい、肌着選びでわいわいしている間は暇なので店内を見回り、この旅の中でほしいと思っていたものを買い足すために手に取って眺めていると、店の入り口からガラの悪そうな男二人を突き従えた無駄に派手な衣装の男が現れた。
「まったく、この店は店員のしつけもなっていないのか!?客が店に入ったらまず用件を伺うのが商店のマナーというものだろう!?」
何だそのマナー?
この人、主語がでかいマナー講師みたいで嫌な感じだなぁ。
「おいお前!この店の店員か?」
うわっ!?なんで俺に話しかけてくるの?
変なのと関わりたくないんですけど。
「いえ。ただの客です」
「ふんっ!この店の客か。道理で」
そう言って派手な男は俺の身なりを品定めするかのように目を動かすのが分かった。
うーん。
やっぱ嫌な感じ。
丁度その時、二階で下着と替えの服を選んでいた4人が階段を下りてきた。
「主様ー」
「終わったか」
「ん。見る?」
スカートをつまみながらライアがそう問いかけてくる。
「見ません」
こら!なんてことを言うんだ。
少女を侍らせてセクハラしてるおっさんと思われるじゃないか。
ってかそんなこと絶対許しません!
「お待たせしました。スズヤさ――」
ライアの後ろから階段を下りてきたトルネは、俺の前に立つ派手な男の姿を見るなり顔をこわばらせた。
男の態度からして何かしらの因縁があるんじゃないかとは思っていたけど。
トルネの表情を見る限り当たりらしい。
「ラーサン……」
「トルネさんお戻りになっていたんですね」
客の目もあるので奥の部屋に派手な男を案内し、来店した目的を聞くことに。
あちらも武装した護衛を二人連れていたので俺たちもトルネの護衛として同席した。
俺は戦力にならないけどライアがいるしね。
「それで、今日は何の御用ですか」
「いえね。私の商会も色々と入用になりまして、そろそろお貸ししてあるお金を返していただこうか」
「それについては毎月返済しているはずですが」
「ですが、それでは困るのです。ですので今回はいい提案をお持ちいたしました。この店の権利をお譲り頂ければ借金を帳消しにして差し上げましょう。上流階級の方々が以前から高級店をご所望でしてね。この店は貴族街からも近く立地もいい。さぞ期待に応えられるでしょう。ですので――」
「お断りします!このお店は祖父の代から守ってきたお店です。他に譲る気はありません。お帰りください」
「はぁ。私は貴方のためを思って互いに利のある提案をしてあげているというのに。貴族の後ろ盾もない貴方の力で何ができるというのです」
「商売は貴族のためだけにするものではありません。万人のためにあるべきです」
「綺麗ごとですね。それだけで商会の運営を賄える利益が見込めるのであればあなたの両親も無理をして命を落とすこともなかったでしょうに。貴族の後ろ盾もなく、国内だけで経営しているフランゼ商会に今後発展する目があるとは思えませんが」
「……」
「まぁいいでしょう。こたびの私の提案はヘイゼル侯爵家たっての希望ということだけは伝えておきます。それでは」
それだけ言い残してラーサンという商人は店を出ていった。
「何あの男!」
「貴族と内通する悪徳商人といったところでしょうかねぇ」
エレナとマリアはかなり怒り心頭に発しているご様子。
俺は少し元気のないトルネに声をかける。
「トルネさん?大丈夫ですか?」
「すみません。皆さんまで嫌な思いをさせてしまって」
「詳しい話を聞いてもいいですか?何か協力できることがあれば手を貸しますよ」
その時、部屋のドアが開いてアレクとガイも合流した。
微妙な空気を感じ取ったのかアレクが眉を顰める。
「おう。ギルドへの報告完了したぜ。ん?何だこの雰囲気?」
二人にも今あったことを話して状況を説明した。
「ラーサンか……」
「アレクさん知り合いなんです?」
「ああ、昔まだこっちをメインで傭兵活動してた時に、ラーサンの親父さんが経営するグエル商会の護衛依頼を受けることもあったからな。その時からあいつは色々難癖付けて依頼料をケチったりする意地汚い野郎だとは思ってたが」
「それで、トルネさん。借金というのは?」
詳しい話を聞くと。
10年程前、周辺各国の小競り合いが頻発していたころ、この国に多くの難民が避難してきたことがあったらしい。
その時、トルネの両親は私財を投げ打って商会をあげて炊き出しを行ったり、戦争で物価が高騰する中でも食材だけは安く提供しようと奮闘していたそう。
そして2年ほど前、コストを抑えようと両親自ら行商に赴いていたところ、野盗に襲われ命を落としたのだという。
その後、一人娘のトルネがフランゼ商会の後を継いだものの、まだ半人前のトルネにはどうすることも出来ず、両親と付き合いのあった、ラーサンの父が経営するグエル商会から手形を発行してもらい、お金を借りてどうにかフランゼ商会を立ち直らせることが出来たのだが、グエルさんが昨年亡くなり、ラーサンがその手形を引き継いで、今に至るらしい。
グエル商会を引き継いだラーサンは貴族と繋がり犯罪まがいの方法まで使って、一気にグエル商会を拡大しているとのこと。
前会頭はいい人だったけど、バカ息子が引き継いで、金にがめつい貴族とグルになって色々悪いこと考えてるって感じか。
「それで残りの借金はどのくらい?」
「利子込みでおよそ金貨2000枚ほど……。でも今は収益も安定していて、毎月の返済は問題なく行えているんです!!」
それでもそれほどの大金となると、小国の中だけで運営している商会にはすぐに返済するのは厳しい話なんだろうな。
俺がトルネのところでリンゴを売りに出せば一気に返せるんだろうが、それじゃこれまで正攻法で一人で頑張ってフランゼ商会を立て直してきたトルネの頑張りを無下にすることになるし、何よりリンゴを市場に流したりなんてしたらトルネの身に危険が迫りかねないか。
「何か大きな商機の当ては?」
「ファーランド王国で特産といっても精々木材や木工品ですし、国内需要はほとんど見込めず、他国に卸すにしても大した金額は見込めませんので……」
木材か。家具や雑貨はありきたりだしフランゼ商会で何か目玉になるものを作り出して売り出せれば。
そのとき、急にエレナが声を上げる。
「あっ!」
「ん?エレナさんどうしたの?」
「道中スズヤさんが出してくれたあれ出してよ!」
「あれって?ああ!あれか!スズヤさん!あれなら売れるぜ!」
エレナのいうあれにアレクと他の龍の牙の面々はピンと来たらしい。
一人分からないトルネは首をかしげていた。
俺は鞄からある娯楽商品を取り出した。
正方形の木の板に8×8のマス目が刻んであり、備え付けの収納部分には薄く小さな平たい丸い板の裏表を白と黒に塗られた物が沢山入っているものだ。
「スズヤさん。これは?」
「これはリバーシだ。トルネさんこれを見たことはある?」
「いえ、初めて見ました。これはどういったものですか?見ただけではまるで用途が分からないんですが」
俺はリバーシの遊び方をトルネに説明し、トルネにどんな遊び方になるかを実演するために、エレナとアレクにリバーシで遊んでもらった。
15分後――
「くそう!また負けたああ!」
「へへんっ!私に勝とうなんてまだまだ甘~い!」
「くそっ!もう一回だ!」
「受けて立つ!!」
ゲームの紹介のことなど忘れてリバーシに白熱するエレナとアレク。
その様子を見て目を輝かせるトルネ。
「この娯楽は売れます!!これはスズヤさんが発明を!?」
いや、俺は知ってるだけで。
そもそも馬車の旅があそこまで暇だと思わなくて、休憩中に遊べてルールもシンプルなリバーシを出しただけなんだけども。
「まぁ、そんな感じですかね……?」
歯切れの悪い俺の反応を見て若干眉を顰めて微妙な顔をしたトルネだったが、リバーシを見る目は輝いていた。
木材が豊富にあるなら端材でも作れるリバーシはいい商材になるだろう。
リバーシだけではあれなので、ここは3種用意してやろう。
将棋とチェスを【ふるさと納税】で追加購入し取り出す。
将棋は流石に文字があれかと思ったが、何故かみんなにも理解できる文字に変換されているらしい。
俺には普通に漢字に見えるんだけど。
これらのボードゲームの遊び方も皆に説明していく。
説明を聞き終えたトルネは、興奮気味に俺に訴えかけてきた。
「スズヤさん!!これらのぼーどげーむ?絶対売れますよ!」
「そ、そうですか」
「ええ!これらを世に出さないなんてもったいないです!!スズヤさん!!!これらのぼーどげーむ!予備はありますか!!」
1つずつしか購入してないから予備など持ってない。
でも購入すれば同じものを出すことはできる。
「まぁ出せなくはないけど?トルネも欲しいの?」
その返答を聞いた瞬間。
目を輝かせたトルネは、どこからか持ってきた紙束に猛烈な勢いで何かを書き記し始めた。
そして羽ペンを置き、何かを書き記した紙束を持つと立ち上がり俺の手を掴んだ。
「よし!出来ました!スズヤさん!すぐ登録しに行きましょう!!」
「えっ?登録って何!?」
「行けば分かります!!」
「あっ!ちょっと!自分で歩くから手を引っ張らないで!トルネさん!?」
興奮気味で止まる気配のないトルネに困り、竜の牙の面々に助けを求めようとしたが、皆ボードゲームに夢中で俺らのことなど気にも留めず。
「いってらー」
「ふふ!アレク!隙あり!王手です!!」
「あっ!その手待った!」
アレクとエレナは将棋で白熱してる。
どうやらエレナに軍配が上がったらしい。
「チェックメイト」
「えぇ!?ガイさん!強すぎます!」
こちらはチェスで白熱している。
寡黙だがガイが押しているようだ。
4人とも対局に夢中で、トルネに連行される俺は放置され、強制的に商業ギルドへ向かうこととなった。
慌ててライアもついてきた。
所持金 金貨253枚 銀貨5枚 赤銅貨4枚 青銅貨2枚
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価をいただけると励みになります。
誤字脱字等ありましたら、お気軽にご報告いただけると嬉しいです。




