8話 ドライアド
「あの?どちら様?」
「この森に、住んでる」
なるほど?ってことはこの少女はアレクたちと同郷か。
「ってことはアレクたちの仲間だね。リンゴが気に入ったの?もっと食べる?」
そう尋ねると、少女はコクリと首を縦に振った。
あんま食べさせたくないけど+1程度ならお腹いっぱい食べたところで誤差程度しか恩恵はないはず。
ないよね?
用意していた林檎を切り分け、ついでにミカンも載せたお皿を差し出した。
「これは?」
「そっちはミカンだよ。こうやって真ん中から皮をむいて、中の実を食べるんだ。甘酸っぱくて美味しいよ」
そういえばミカンも鑑定してないぞ。
まぁいいか。林檎と似たようなもんだろ。
継続して食い続けたりしない限りは誤差だ誤差。
「ん。どっちも、美味しい」
「それはよかった。アレク。この子、この森出身らしいけど知り合いだったりする?」
振り返ってそう尋ねると、アレクは青ざめた顔で小声で呟いた。
「ドライアド……」
「えっ?なんて?」
声が小さくてよく聞こえない。
「新緑の瞳に緑色の髪!そいつはドライアドだよ!!」
「ええ!?ドライアド!?って、えぇ!?」
皆どう見ても青ざめた顔をしてるってことはヤバイ存在なんだよね……?
森に入る前ドライアドの話も聞いたし……。
あれ?でもこの子からは全然敵意とか感じない。
意外と温厚な魔物だったりする?
「ドライアドさん?」
「なに?」
「どうしてここに来たの?」
「ん。美味しそうな匂いした」
美味しそうな匂いか。
流石に森の中でカレーは、やり過ぎか……。
「カレー食べたい?」
ドライアドは首を横に振る。
あれ?んじゃ美味しそうな匂いって。
「もしかしてリンゴとミカンの匂い?」
ドライアドはコクリとうなずいた。
「それならまだあるから好きなだけどうぞ。ドライアドさんは俺らを襲ったりしないよね?」
「美味しい物くれる人、なんで襲うの?」
やっぱり悪い魔物じゃないみたい。
「森を焼いたり、木を無駄に切る人は、養分にする。あなたは違う」
ひぃ!
前言撤回!!
やっぱ恐ろしい子だった!
でも、森に仇なす者には容赦ないってだけで、平和主義ってことか?
「この果物もっと欲しい」
「うーん。あげられなくはないけど」
「この果物、初めて食べる。もっと食べたい」
異世界の果物だもの。
そりゃ森の守り人みたいな存在でも初めてだよね。
「いいよ。今日は好きなだけ出してあげる」
「ん。いい人」
「ふふっ。どういたしまして」
その後、もう一箱ずつリンゴとミカンを出し、リンゴは食べやすいサイズに切り分け、皆でデザートとして食べながら、団らんしているとアレクが呆れたようにぼやいた。
「スズヤさんって只者じゃないと思ってたけど。伝説のドライアドと普通に会話して、こうして同じテーブルを囲んで一緒に食事することになるなんて思ってもみなかったわ」
「ふふふっ♪とてもいい経験になりましたね♪」
「森の守り主ドライアドと一緒に果物を食べたなんて言っても、絶対誰も信じてくれないよねぇー」
「うむ……」
「うそっ!?私いまドライアドと食事してる!?」
「おい、ガッシュ!今日俺はずっと夢でも見てるのか……?」
「言うなトレル。俺もスズヤさん達と会ってから信じがたいことの連続で驚き疲れているところだ……」
ドライアドが居たら森の魔物は近づいてこないということで、驚き疲れたので飲んで色々忘れたそうな緑の目のガッシュとトレル、それと酒好きのマリアとアレクはビールで酒盛りを始めていた。
ほんとは冷やしたビールが飲みたいけど、冷蔵庫とかないし【ふるさと納税】で購入したままの常温だ。
エレナは流石に不安だからと周囲の警戒をしている。
普段おちゃらけているようにみえるが、こういうところ真面目なんだな~。
ガイも酒は好きらしいが、依頼中は飲まないらしい。
こっちは見た目通りのまじめさだ。
ドライアドは黙々とリンゴとミカンを口にしている。
小さな体のどこにそんなに入ってるんだろう?
そんなに食べてお腹壊さない?大丈夫?
助けた商人の女性はトルネというそうで、トルネさんは黙々と果物を食べるドライアドを俺の体越しにじーっと観察していた。
まぁ滅多に会えない存在みたいだし、こういう機会でもなければこうして間近で見ることも無いだろうからな。
ドライアドは切り分けたリンゴと、提供したミカンをひと箱ずつ完食すると、ふぅと息を吐いて満足げに笑みを浮かべた。
「美味しかった。満足」
「それは何よりだ」
ん?なんでそんなにじっと俺の顔を見つめる?
ドライアドさん?
「俺の顔に何かついてる?」
「ついて行けば、また食べれる?」
「そうだなぁ。食べ過ぎても体に影響ないのであれば?」
鑑定で見た永続+って不穏なのが怖いから、できれば人にはあまり食べさせたくないけど、ドライアドさんなら元からやべー存在みたいだし、仮に元々1000あった強さが+1されて、1001になる程度って考えると誤差だろう。
「わかった」
そういうとドライアドは両手で俺の頭を抱えて、自分の額を俺の額に当ててきた。
「ちょっ!?急にどうしたの!?」
魔物とは言え見た目は普通の綺麗な少女。
見た目は10代前半くらいの若さ。
急にこんなことをされると流石におっさんとはいえ動揺するんだけど!?
高鳴る鼓動を必死で抑えようと、眼を横にそらすと、視界に入ったエレナとガイが呆然とした顔でこちらを見ていた。
え?なに?どういう表情?
俺は無実です!!
ロリコンじゃないよ!?
そして不意に、ドライアドと繋がる額から温かな力が繋がるような感覚を感じた。
「よし。終わり」
そういってドライアドがようやく俺の額から離れ、羞恥プレイから解放されホッとする。
だが、酒盛りをしていたはずの4人も完全に手を止めて、呆然とした顔で皆がこちらを見ていることに気が付いた。
「えっ?なに?や、やましいことはしてないからな!?ドライアドさんが勝手にやっただけで――」
「スズヤさん!今自分が何をしたか分かってないのかよ!?」
アレクが何とも言えない表情で叫ぶ。
えっ!?俺ロリコンじゃないし、やましいことはなにもしてないし!
ただ額を重ねられただけだよ!?
はっ!?もしかしてこの世界ではあれがキスの代わりだったりするのか!?
こういう説明をしてくれるのは……。
「えーっと。マリアさん。説明してもらえますか?」
「は、はい!ドライアドさん。確認なのですが、今スズヤさんと契約を交わしましたか……?」
ドライアドはコクリと頷いた。
「ごめん。マリアさん。契約って何の?」
「従魔契約です」
「それって……。ドライアドさんが俺の従魔になったってこと?」
そう問いかけると、ドライアドは再びコクリと頷いた。
次にゆっくりと周囲の者たちへ目を向けると、全員静かに頷いた。
これはもう逃げられない奴だ。
見た目的にはかわいい少女だし、養女をもらったみたいになるけど、従魔ってことはペットってことだよな?
「わかりました。責任をもって面倒を見ます。ドライアドさん、何かこれをしてほしいってことはある?」
養うとなった以上は責任をもっていい環境を用意してあげないとね。
「名前、つけて?」
「名前?ドライアドさんに?」
ドライアドはコクリと頷いた。
「うーん。ドライアド……。そうだ。ライアとかどう?」
「ライア……。ん。気にいった」
「んじゃこれからよろしくねライア。俺はスズヤミナトだから好きに呼んで」
「ん。契約主だから、主様」
うーん。堅いけどまぁいいか。
「ってなわけで、ライアが従魔になったんだけど、ライアを街に連れていったりしたらまずいかな?」
アレクにそう尋ねると微妙な顔をして答えてくれた。
「従魔を連れた人は数こそ少ないが、同伴は大抵の街で認められてるし、各種ギルドで従魔の登録もできるけど……」
なんだか歯切れの悪い言い方をするアレクの言葉に突っ込む。
「けど?」
「ライアさんの正体がドライアドだって知られると、間違いなくとんでもない大騒ぎになるのは避けられんと思うぞ」
ですよねー。
滅多に現れないドライアドだって話だし。
どうしたものか。
「いっそ人間ってことにしちゃえばいいんじゃない?」
「いや、流石に無理があんだろ!?緑の髪ってだけで目立つぞ!?」
「髪。目立つ?」
ライアは首を傾げた。
「ああ、ドライアドは深緑の瞳に緑の髪ってのは有名だからな」
「これなら?」
そういうとライアの髪が淡く発光し、髪色が緑色から徐々に紅葉色に変化していく。
「おー。紅葉させたってことか?その色も綺麗でいいね」
俺がそう言うとライアはコクリと頷いた。
「人前に出るときはその髪色なら問題ないと思うぜ」
「よかったね。アレクのお墨付きが出たぞ」
「ありがと。あれく」
「ははっ。まさか伝説のドライアドから礼を言われる日が来るとはな」
ライアに礼を言われて珍しく照れて頬を指で掻くアレク。ちょっと可愛いな。
もしかしてオラオラしてそうに見えるけど、アレクって初心なのかな?
「はい!はい!」
手を上げてぴょんぴょん跳ねながらトルネさんが何か言いたげな様子を示しているので、俺は確認した。
「トルネさんどうしたの?」
「私の馬車の積み荷に沢山の服があるので、ライアちゃんのコーディネートがしたいです!!」
「まぁ!いいわね♪私も手伝うわ♪」
トルネとマリアがライアの着せ替えにノリノリになっている。
「ってことだけど、ライアはどう?」
「人の服、着てみたい」
「決まりね♪早速馬車に向かいましょ♪」
マリアとトルネに手を引かれてライアはトルネの馬車に連行された。
その後、30分ほど馬車の中で、あーでもないこーでもないとキャッキャと楽しむ声が聞こえてきた。
そしてようやくライアの衣装が決まったらしく馬車から出てくる。
そこには可愛らしいシックな黒のゴスロリ系ワンピースに白いフリルのエプロンのようなものが付いたメイド服のような装いのライアの姿があった。
赤い髪に、白と黒の衣装が意外とマッチしている。
「主様。どう?」
「とっても似合ってると思うよ」
素直に感想を伝えると、あまり表情を変えないライアが微かに微笑んだ。
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