10話 ボードゲームの登録
商業ギルドに到着すると、トルネは俺の手を引いたまま窓口へ向かった。
受付の女性がトルネに気が付いて声をかける。
「あら?トルネさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「新商品の開発証明書と神聖契約書、それと取引契約書を各種3枚ずつお願いします!それと奥の商談室をお借りしたいです!!」
「か、かしこまりました。書類は用意しますので部屋でお待ちください」
鼻息荒く熱を帯びたトルネの圧に、受付の女性も若干たじたじになりつつ対応に当たってくれた。
証明書とか契約書とか何?
ボードゲームを登録したいんだろうけど、俺ついてくる必要なくない!?
著作権とやらがこの世界でもあるの?
商談室で待っていると受付を担当してくれた女性が書類を用意して部屋に入ってきた。
「お待たせいたしました。こちらご希望の書類になります」
「ありがとうございます!リーネさん!」
あ、受付の女性リーネさんって言うのね。
挨拶も無いまま、リーネさんもトルネさんに巻き込まれて大変そう。
受け取った書類にババババッと猛スピードで記入を済ませたかと思うと、こちらを振り向いてサインを求めてきた。
「スズヤさん!こことこことここにサインをください!」
「え、えぇ……」
何の書類なんだ?
これは開発証明書か。
開発者名の欄に名前を書けってことか。まぁこれはいい。
こっちは神聖契約書?
何々?試作品を神に奉納することで開発者の権利を守るもの?
ってことはこれはあっちの世界でいう著作権侵害から守るための契約ってことか?
盗作とかでトルネが損せずに商品の権利が守られるならこれもいいだろう。
最後のこれは?売買取引契約書か。
えっと、フランゼ商会は以下の商品の製作販売にあたり、独占契約を結ぶ対価として売り上げの3割を開発者に支払う?
「はぁ!?最初の2枚はいい。でも最後のはおかしいだろ!?3割って、俺が3割も貰うってことか!?」
「当然の権利だと思います!」
「いやいや!俺が開発者だとしても、製造ルートも販売ルートも持ってないただの行商人がそんなにもらえるか!」
リーネさんに助け船を求めてチラッと顔を見る。
しかし、リーネさんは小さく首を左右に振ったあとに口を開く。
「商品の開発者と独占契約を結ぶ場合、最低でも3割、多い場合は5割の対価を要求する場合がほとんどです。トルネさんは結構猪突猛進な方ですが、おかしなことは書いてませんよ」
うーん。この世界だと生産や運送コストも高くて、流通量も少ないから商品の単価を上げて、開発者も製造販売元も利益を出せる仕組みで経済は回ってるってことなのかな?
でもそんな価格設定だとリバーシ1セット金貨数枚とかになるんじゃ……?
ボードゲームは庶民にこそ遊んでほしいんだよなぁ。
俺の取り分を減らせば沢山の人に遊んでもらえるようになるよね?
「トルネさん。リバーシ1セット製造販売するとして単価はいくらくらいを想定していますか?」
「そうですね。材料費や加工費はほとんどかかりませんけど、運搬コストも含めて銀貨5枚でしょうか」
「高いですね。俺はできれば銀貨2枚で売りたいです」
ボードゲームは出来るだけ沢山の人に遊んでもらいたいし、庶民の子供も買って遊べる値段にしたい。
「そ、そんなのどう考えても赤字ですよ!」
うーん。トルネさんのフランゼ商会を助けるための商品開発で赤字を出しては意味がない。
でも余りに高価だと貴族の遊びになっちゃうしなぁ。
ん?貴族の遊び?高級品?
「だったらこうしませんか?一般販売用で銀貨2枚。こちらは端材で作った質素な商品にして利益は1割見込めばいいものにしましょう。そして貴族や富裕層をターゲットとして、金貨1枚で販売する高級仕様も同時に用意しましょう。質のいい木材を使用し、木工用の塗料で艶と光沢をもたせ、木彫りの装飾を施してもいいですね。こちらは嗜好品として利益を多めに取るように。価格は違いますが将棋とチェスも一般用と高級品の2種にしましょう。将棋もチェスも駒作りにリバーシより手間がかかるので倍くらいでどうでしょうか」
ハッとした顔をしてトルネは何やら手持ちの紙にバババババッ!と書き記し始めた。
「できました!確かにそれなら利益も十分見込めそうです!ですが、端材で作ったとしても一般用はどうしても利益を見込むのは厳しいです」
「だから私の取り分を売り上げの5%にしましょう」
「へ」
「それなら一般用でも十分利益が見込めますよね」
「いやいや!5%ってほとんど取り分ないじゃないですか!?」
「俺は別に商品開発で儲けようなんて思ってません。というか娯楽品なら数売れるから5%でもそれなりだと思うんだけど」
「……スズヤさん?本当に商人ですか?」
うっ。確かに商人にしては変な提案だったかな。
「そう言われると困りますけど、俺は誰かが損する商売をするつもりはありません。トルネさんが赤字になるのも嫌です。売り手も買い手も、みんなが幸せになる商売をしたほうが気持ちがいいでしょ?それにどうせ広めるのなら、ボードゲームは娯楽の少ない庶民の子供たちにこそ遊んでほしいんです」
「……」
あれ?トルネさんが下を向いてしまった。
商人として失格って言いたいのかな。
すると急に俺の両手をぎゅっと握りしめてトルネは顔を上げた。
「スズヤさん!私、借金を返すことばかり考えて利益だけしか考えていませんでした……。スズヤさんの言葉を聞いて、両親が私財を投げ打ってでも避難民や街の人の生活を優先していたことを思い出しました!!幼かったので私は当時両親の真意をわかりませんでしたが、今ならわかります!私もフランゼ商会を皆の生活に幸せを届けられるような商会にしたいと思います!!」
「はい。トルネさんならきっとできます」
最後に取り分を5%に直した販売契約書にサインし全ての書類が完成。
「スズヤさん。ボードゲームを出してもらえますか?」
ここで出すの?登録時にギルドに提出するのかな?
とりあえず【ふるさと納税】で3種をポチってその場にだす。
「ほい」
「それでは神聖契約書に血判を」
血判?
えぇ!?
ニコニコしながら何ナイフを取り出してるの!?
「いや、俺は血判はちょっと……」
「大丈夫です!ちょっと指先をプスッと刺すだけです!」
「いや!痛いのは無理!もういっそトルネさんが開発者ってことにしてください!!」
「リーネさん。ライアちゃん」
トルネに名前を呼ばれたリーネは、言いたいことを理解したと言わんばかりに頷き、俺の体を拘束した。
ライアはよくわかってないけど面白がって俺に抱きついてきて、自然と拘束する側に。
ちょ!ギルド職員がそんなこと!?横暴です!!
ライア!?これは遊んでるんじゃないよ!?ってか君は俺の従魔だよね!?なんで俺を拘束する側に!?
まってトルネさん!ナイフ持って笑みを浮かべないで!?
あ、あああああ!!
プスリ。
「よし!これでリバーシ、将棋、チェスの神聖契約は完了です!!」
「主様?」
「うう。痛いのはいやだ……」
「ん。治す」
心配したライアが俺の手を取り、血判を押した親指をいきなりパクリと咥えた。
「ふぁ!ライア!汚いからやめ!――って、あれ?痛みが消えて……?」
先ほどまでチクチクと痛みを感じていた親指の先から痛みがスーっと消えていく。
ライアが舐めた親指は、まるで元から傷などなかったかのように綺麗に完治していた。
「これは……?」
「平気?」
なるほど。
ライアは治癒魔法を使えるってことなのかな?
それにしても舐めなくても……。
ほら、事情を知らないリーネさんが汚物を見るような目でこっちを見てる……。
違うんです!少女に主呼びさせて変なことを仕込んでるとかじゃないですから!!
「ありがとうライア。でも今度から舐めるのは勘弁してね……」
「ん。今度は身体で治す」
どういうこと!?
もうこれ以上変なこと言わないで!?
「リーネさん!?違いますからね!?」
トルネさんも苦笑いしてないで弁解に協力して!?
「何が違うのか深くはお聞きしませんが……。スズヤさん。血判を押した神聖契約書と商品をこちらに」
リーネさんが冷たい顔のまま作業を進めようとしている。
誤解を解きたい。
言われるがままにテーブルの上に神聖契約書と対応するボードゲームを並べていく。
「では契約書に手を触れて魔力を流してください」
契約書に手を触れるのはいいけど。
魔力?
使ったことないんですけど。
よくわからないままとりあえずリバーシの契約書に手を触れる。
すると神聖契約書が光を帯び。
隣に置かれていたリバーシがフッと目の前から消失した。
「同じように手を触れていってください」
将棋とチェスも同じように手を触れると目の前から消えていった。
「はい。これでこれらの商品の権利の保護が完了しました」
「えっと、消えた商品はどこへ?」
「当然、権利を保障してくれる神の元です」
この世界、神が普通に存在するの!?
神様が著作権を守ってくれるとか、何そのファンタジー。
偽造対策あっちの世界より完璧すぎない?
「リーネさん。これらはリバーシと将棋とチェスの仕様書です。商業ギルドで保管してください。一般用と高級仕様の2種を書き記してあります!」
トルネが大量の紙束をリーネに手渡した。
「確かに。ではこちらは当ギルドでお預かりいたします」
ふぅ。とりあえずこれで商品登録は完了か。
なんか色々疲れた……。
「主様。お腹すいた」
「そうだね。もう日が暮れるし、宿で休もうか」
はっ!しまった!
ライアのことを知らないリーネさんは、再び汚物を見るような目でこちらを見てきた。
違うんです!!
そういう意味じゃないんです!!
トルネの店に戻ると、竜の牙の4人はまだボードゲームに夢中だった。
君たちずっとやってたの?
トルネにお勧めの宿の場所を聞き、一度解散することにした。
トルネはそのまま木工職人の店にボードゲームの売り込みに、竜の牙も馴染みの宿を手配しているということなのでその場で別れ、俺はライアと二人になった。
はぁ。なんだかんだ色々あったけど、こうして無事にファーランド王国に到着できて一安心だな。
トルネの商会絡みの問題はあるけど、なんだかんだこの国はゆったりした雰囲気で過ごしやすそうだからこの国に来て正解かな?
「ライア。宿に向かいながら屋台で食べ歩きしようと思うけどいいかな?」
「ん」
「ライアも何か食べたいものある?」
「んー、あの果物」
「はは。んじゃ宿に着いたらね」
ライアはコクリと頷いた。
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