11話 指名依頼
俺が戦ったわけじゃないけど、ここに来るまでの慣れない馬車の旅と、魔物との戦闘などに触れて疲れが溜まっていたらしく、2日程は宿の部屋でだらだら過ごしながら英気を養った。
先日小さな地震の揺れを感じたが、震度1~2といった感じ。
ライアも特に気にしていないし、この辺りではよくあることなのかな?
ライアはリンゴやミカンを出してあげるとそれだけで満足らしく、特に出歩くこともせずライアにもリバーシを教えて二人で遊んだりのんびり過ごしている。
そんなのんびりした生活を送っているが、一つだけ不安なことがある。
それは食費だ。
まだそれなりに金貨があるし、しばらくするとボードゲームの収入があるのに?と思うかもしれないが、問題なのはライアの食費だ。
ライアは毎日リンゴとミカンをひと箱ずつ平らげる。
つまり毎日最低でも金貨2枚程度の食費がかかるのだ。
今はまだある程度余裕があるけれど、ボードゲームの収入が入るようになったとしても消耗に追いつけるかあやしい。
かといって、毎日とても嬉しそうに果物を頬張るライアに金がないから果物の量を減らすとは言いづらい。
ライアが俺の従魔になったのは日本の果物が食べられるのを期待してだし。
俺はそんなライアを受け入れて養うと決めた以上、甲斐性なしにはなりたくない。
つまり、ある程度稼げる金策をする必要があるのだ。
そんなことを考えていると部屋のドアをコンコンッとノックする音が。
「はーい」
誰だろう?宿の宿泊費は前払いだし、夕飯の時間にはまだ早いけど?
おもむろにドアを開けると見慣れた顔が並んでいた。
そこにいたのは龍の牙の面々だった。
「アレクさん達ですか。どうしましたか?」
「ちょっと二人に頼みたいことがあるんだが、話を聞いてもらえないか?」
立ち話もなんだし、部屋に入ってもらった。
お茶は無いのでリンゴとミカンでおもてなし。
話を聞くと、竜の牙に傭兵ギルドからの指名依頼が来たそうで、その依頼のサポーターとして俺らも同行してもらえないかという相談だった。
「んー。特に予定も無いので構いませんけど、知っての通り荒事は苦手なのですが」
「それは重々理解していている。スズヤさんにはポーターとして同行してもらいたい。基本的に魔物との遭遇時、戦闘は俺ら龍の牙が請け負う。ライアさんは万が一、俺らの手に負えなかった場合の保険の戦力して居てもらえるだけで助かる。傭兵ギルドから依頼料が出ると思うが、出なかった場合にはその分俺らの依頼料から支払うことを約束する」
丁度金策を考えてたし、ある程度まとまった金額がもらえるなら特に断る理由もないか。
「まぁそういうことなら?ライアもいい?」
「ん。ついてく」
「それで依頼の内容は?」
「王都北東にある、龍の巣と呼ばれる火山の調査になる。龍の巣近辺は火山の影響もあり、昔から偶に大地の怒りによる被害が起こるんだが、最近になって間隔が狭くなり揺れも大きくなっているらしくてな」
そう言えば昨日少し揺れたな。
大地の怒りか。
地震ってこの世界では珍しいのか?
「火山帯で地震の原因調査かぁ。ライア大丈夫そう?」
「火は苦手。でも平気」
「なら問題ないかな。とはいっても、原因の調査ってあてがあるの?」
地震ってなるとプレート運動とかが原因だったらお手上げだよ。
「ああ、それなんだが、正確には原因の調査というよりも龍の巣の主の状況確認というのが本題だ」
「む。龍の巣の主?嫌な予感がするんだけど。もしかしてその主って――」
「ああ、獄炎龍と呼ばれる古くから生きる火竜種だ」
「むり!龍なんて出会ったら死ぬ!!」
龍と聞いて断固拒否モードの俺をなだめようとエレナとマリアが情報を補足する。
「まぁまぁ。龍といっても守り神に近い存在で、自分から人に危害を加えるような存在じゃないから大丈夫だって!」
「ええ、獄炎龍の鱗を狙って攻め入ったかつての王族は根絶やしにされたそうですが、こちらから手を出さない限りは温厚な龍という伝承なので大丈夫ですよ」
根絶やし!?
マリアさん。それフォローしてるつもり?
不安を煽ってない?
「ブレスがこようと俺の盾でスズヤさんは絶対守る」
おお、珍しくガイさんがしゃべった。
ガイさん、すごくありがたいけど、そもそも龍のブレスが来ない方向でお願いしたいです。
「とりあえず距離がある上に火山地帯ということもあって、今回は用意する物資が多いんだ。馬車で向かうわけにもいかないし、スズヤさんのマジックバッグが頼りなんだ!頼む!この通り!!」
う~ん。
龍の牙にはここに来るまでに世話になったし、龍の調査とかめちゃくちゃ不安だけど。
ライアの食費の為だ、仕方ない。
「わかりました。危険と思ったらすぐ撤退でいいですよね?」
「ああ、それで構わない。ではさっそく傭兵ギルドに一緒に来てもらえるか」
「へ?俺も?」
「ああ、龍の巣は禁足地に指定されていて、傭兵ギルドから正式な依頼を受けた傭兵しか立ち入りを許可されてないんだ」
「ってことはつまり?」
「スズヤさんとライアさんにも登録してもらう必要がある」
「うーん。傭兵登録かぁ……」
「別に傭兵登録しても、傭兵活動を強制されるわけじゃないぞ。登録料は俺らが払うし頼む!」
「はぁ。わかりました。では行きましょう」
傭兵ギルドに到着すると、受付でアレクが「ギルマスに用がある」と伝えると奥の部屋に案内された。
案内された部屋に入るとそこにいたのは大柄なスキンヘッドのいかつい顔をした男性。
「よう、ギルマス」
「おう、龍の牙か。俺のとこに来たってことは、公爵家の依頼は受けてもらえるってことでいいのか?」
「ああ、ただしこちらからも条件がある」
「条件?」
「ここにいるスズヤさんとライアさんも傭兵として同行するのが条件だ」
アレクの条件を聞き、眉を顰めて訝しげな顔で俺とライアの顔をギルマスは見てきた。
「見ねぇ顔だな?」
「初めまして。私は商人のスズヤと申します。こちらは従者のライア」
「ほう?商人か。俺はこの街の傭兵ギルドを取り仕切ってるトリスだ。よろしくな。で?なんで商人とその従者の同行を許可するのが条件なんだ?あそこが禁足地ってことはおめぇらも知ってんだろ?そんなとこに一般人を連れていく気か?」
「ああ、わかってる。でも二人の協力が叶わないというのであれば、俺らも危険な橋を渡るつもりはないからこの依頼は降りさせてもらう」
「おいおい。その言い方じゃ龍の牙のお前らよりこの二人の方が有能って聞こえるが?」
「ひとつ言うなら、ここにいるライアさんはこの街の冒険者が束になって掛かっても勝てないほどの強者だ」
「はぁ!?この嬢ちゃんがかぁ!?流石に信じられるか!!」
ギルマスは流石にアレクの言葉が荒唐無稽すぎると思ったのか、額に青筋を立てて机を両手で叩き立ち上がった。
そんなギルマスを信用させるべくアレクは俺に訴えかける。
「スズヤさん。ライアさんに戻の姿に戻るように言って貰えるか?」
「えーと、それは……流石に」
ドライアドって知られたらまずいんじゃ?
「ギルマスは信用できますわ」
マリアはそう告げ、エレナもガイも頷いた。
龍の牙のみんながそういうなら信じるしかないか……。
「わかりました。ライア。髪の色を元に戻してもらえるか」
「ん」
するとみるみるライアの髪の色が紅葉色から緑色に変わってゆく。
「おいおい……。深緑の瞳に緑の髪色って……。まさか」
元の髪色に戻ったライアを見てギルマスは驚愕した様子を浮かべた。
「ああ、ライアさんはファーランド王国の森に昔から住むとされる伝説のドライアド。そして今はスズヤさんの従魔になってる」
「マジか……」
「そしてスズヤさんの持っているマジックバッグはアーティファクト級の代物で、少なくとも龍の牙所有のマジックバッグの数十倍以上の容量がある」
「数十倍!?いやまて、そんなとんでもねぇ代物聞いたこともねぇぞ!?」
「だからアーティファクト級といっただろ?」
「はぁ……。ちょっとまて、そこの兄ちゃんがアーティファクト級の魔道具を持ってて、更に兄ちゃんは伝説のドライアドを従魔として従えてると?」
全員うなずいた。
「そしてスズヤさんの作る料理は王都の飯屋より遥かに美味しい!」
エレナが余計な追加情報を付与する。
「お、おう。そりゃ確かにすごいが、前の2つの情報のインパクトが強すぎて、頭に入ってこねぇよ!!」
あり得ない情報を耳にて頭を抱えるギルマス。
そんなギルマスにアレクは提案する。
「そこでスズヤさんも傭兵登録してポーターとして同行してもらいたくて協力を依頼した。ライアさんは飽くまでもスズヤさんの従魔だから戦闘には参加せず、基本的に戦闘は俺たちがこなして、危険な場合の保険として同行してもらうつもりだ」
「そういうことなら断る理由はない。しかしなぁ、マジックバッグは秘匿するにしても、ドライアドなんて従魔登録をおいそれと出来かねるぞ?」
「そこを何とかならないか?傭兵として登録するとか」
「バカ野郎!登録時の鑑定結果は保存されるからごまかしが気かねぇ。ってか今すぐその嬢ちゃんを登録する必要あるのか?」
「え?だって禁足地は誰であれ許可なく立ち入りは禁止って」
「それは人に対してな?まだ従魔登録されてねぇドライアドが、たまたま禁足地に現れても罪には問わん。その場に偶然居合わせた商人――ポーターが、偶然ドライアドを従魔にしたとしても何も問題ねぇ。正直、今従魔登録なんてしたら大騒動になって同行を許可できなくなる。だったら道中で従魔になったことにして、戻って来てから登録した方がいいってもんだ」
ギルマスはニヤリと笑ってそう告げた。
「流石ギルマス!ずる賢い!」
エレナがギルマスをほめた。
一応それは褒めてるよね?
「ずるは余計だ!」
「ってことなんで、申し訳ないけどライアさんは出発当日から数日だけ別行動で、禁足地に入ったところで合流ってことでもいいか?」
「?」
ライアは好物のリンゴを頬張っていたので、話を聞いておらず、アレクの問いかけに首をかしげていた。
後で俺から説明しておこう。
「あとで俺が説明しておきます」
ギルマスは頷いた。
「公爵家は民衆の支持も厚いまっとうな貴族だからな。ここで恩が売れるなら傭兵ギルドとしても助かる。それに異変については俺も気になってたからな。で?出立はいつにする?」
「俺らはいつでもいいぜ」
「同じく、俺とライアも特に予定はないのでいつでも構いません」
「んじゃ2日後の朝、ギルドに顔を出してくれ。それまでに必要物資は出来る限りこちらで用意しておく。それと依頼料についてだが、成功報酬は1人頭金貨100枚」
ライアの分は流石にもらえないか。
「ただし、ドライアドの協力をただで得ようなんてケチなことは言わん。依頼の可否問わず、サポーターとして参加する二人には金貨100枚の報酬を別途用意すると約束しよう」
ってことは失敗でも金貨100枚。成功したら追加で金貨100枚か。
金貨200枚もらえるなら当面の生活費は何とかなりそうだ。
「わかりました。協力させていただきます」
「決まりだな。スズヤって言ったか?あんたは帰る前に登録だけ済ませといてくれ。依頼受注についてはこっちで処理しておく」
所持金 金貨224枚 銀貨4枚 黄銅貨4枚 青銅貨2枚
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