68話 トルネへの報酬
屋敷に入ってきたのはクサツの湯に向かっていたトルネだった。
抱き合って涙を流す俺とシア、エル、そんな3人を慰めるように頭を撫でるライアを見て、そして微笑ましい様子でそれを見つめるクラリスとエン爺を見て、トルネは首をかしげる。
「これは、一体?どういう状況です……?」
俺が使い物にならないので、クラリスとエン爺がトルネに状況を説明してくれた。
「――なるほど。話は理解しました!私もシアちゃんとエルちゃんのために協力を惜しみませんよ!!何でも言ってください!!」
俺はトルネのその言葉を待っていましたと言わんばかりに、涙を拭って立ち上がり、トルネにある提案をする。
「それじゃ、トルネさんにはシアとエルと一緒に、この屋敷に住んでもらいたいです。俺の代わりにこの屋敷を管理してもらえませんか」
「えぇっ!?いや、何でも言ってとは言いましたが、こんな豪邸に住むのは流石に……」
流石に急な提案にトルネは及び腰になる。
「家は使わないと悪くなると言いますし、まだ子供のシアとエルだけで過ごすにはこの屋敷は流石に広すぎます。龍の牙にも声はかけておくつもりです。ただ、龍の牙はAランク傭兵ですし、ずっとこの屋敷に住んでもらうのは難しいでしょう。そこでトルネさんにお願いしたいんです。トルネさんならシアとエルも懐いていますし、俺も安心できます。それにクサツの湯のすぐ隣のこの屋敷であれば、トルネさんにとっても都合はいいのでは?」
「いや、確かに、便利ではありますけど……」
俺は知っている。
トルネさんは商会のために私生活を捨てて尽くしていたことを。
以前俺たちが宿なしになったとき、『うちに泊めて上げられれば良かったんですが、空いてる部屋は商会の倉庫代わりに使ってて荷物でいっぱいですし……』と言っていたことを俺は覚えている。
私生活を捨てて、狭い家に商材まで詰め込んで頑張ってきたトルネさんに、爵位やフランゼ商会の為の報酬だけでなく、個人的な報酬があってもいいよね?
ほんとは屋敷をそのまま権利ごと差し上げますって言いたかったけれど、真面目なトルネさんは、それだと絶対に拒否するはず。
だから俺がいない間の管理を任せるって形ならいいよね?
でもこれは別に、同情とかじゃなくて、ちゃんと頑張ってきたことへの、ただの正当な対価だ。
……なんて、柄にもないこと考えちゃったかな。
「わかりました。スズヤさんが留守の間、家の管理は私にお任せを!!シアちゃんとエルちゃんのことも任せてください!!」
「引き受けてくれて、ありがとうございます。ではさっそく、使う部屋を選びに行きましょうか。みんな好きな部屋を選ぶようにね」
「「「「おー!」」」」
その後、一番広い部屋は俺が使うようにと皆に言われたが、3部屋連なったスイートルームのような部屋は流石に落ち着かな過ぎるから俺はパスした。
屋敷の管理をするトルネさんこそ、この部屋を使ってというも、当然こちらも拒否される。
シア、エル、ライアは二階で同じ部屋が三部屋並んでいる場所を選択。
相変わらず仲がいいね。
エン爺は1階のワインセラーの隣の部屋を選択。
その様子を見てクラリスはピクリと眉を歪ませた。
エン爺?
その部屋って、本来は使用人用の部屋なんじゃない?
まぁいいけどね。
クラリス嬢も思うところはあったみたいだけど、何も言わないってことは、対外的にはエン爺は俺の従者ってことになるからギリセーフ?
結局、俺とトルネさんは客人用に作られた、狭い部屋を選ぼうとしたのだが、クラリスから流石にダメ出しが入る。
「お二人とも!スズヤ様は屋敷の正式な主。トルネさんはそのスズヤ様から屋敷を預かる主代理となるのですよ?そんな方々が客室で寝泊まりするなどありえません!!スズヤ様は一番大きな部屋に!トルネさんはその次に大きな部屋に!わかりましたね?その二部屋は客人が来た時にだけ使う部屋として用意しておき、普段使いとして別で小さな部屋を使えば済む話です」
「「はい……」」
エン爺はギリギリ許されたのか……。
解せぬ。
でも、めったに使わない部屋を用意だけしておくとか、掃除が大変になるだけなんじゃ?
家具とかも二倍必要になるし?
そんな俺の考えを見透かしたかのようにクラリスが続けて提案する。
「5日後の式が終わり次第、すぐに使用人をこちらの屋敷に雇い入れる準備を進めております。部屋のことや屋敷の掃除に関してはお気になさりませぬように。スズヤ様はライア様やエン爺様といった、秘密を抱えていることは、父上も陛下も知っておりますので、口が堅く秘密を守れる者たちを厳選してくれているとのことです」
ディラン陛下もエクレール公爵様も、そんなことにまで手を回してくれていたのか。
至れり尽くせりでありがたいです。
「スズヤさん!私もフランゼ商会の従業員から信頼のおける者を数名呼んでも構いませんか?」
「うん。トルネさんの好きにしていいよ。2~3部屋をクサツの湯で働くフランゼ商会の従業員宿舎として貸し出してもいいかもね」
「それは助かります!!商業地区にフランゼ商会の支店を設けましたけど、支店からクサツの湯までは距離があるので、貴族街の一角に夜勤用の従業員宿舎を設けるか検討していたので!!」
その後、トルネを交えて再び屋敷全体を見て回った。
先ほど見ていなかった地下に降りる階段の先も確認しに行ってみる。
階段を下りていくと地下には倉庫と牢があり何故かその先にも通路が続いていた。
「この通路長くない?どこまで続いているの……?」
明らかに長い通路で、ランプで照らしても突き当りすら見えない通路に俺は疑問を浮かべた。
するとクラリスが俺の疑問に返答する。
「この通路は私の領主館と繋がってます♪連絡路としても避難路としても機能するかと思いますよ♪あっ!安心してください。この壁の仕掛けを押すと……」
クラリスがそう言って壁の中のレンガを一つ押し込むと、ゴゴゴゴという音を立てて通路が塞がった。
へ?
いやいや!領主の館と繋がってるとかいいの?
クラリス嬢は5日後には叙爵して貴族になるんだよね!?
一般人の俺の家と繋がってたらまずいでしょ!?
「えっと、トルネさん。これってありなのかな?」
「どうでしょう……。しかし、既にこうして通路が存在する以上、諦めるしかないのでは?」
これはあれだ。
クラリス嬢が自由に行き来するために事前に仕込んでいおいたやつだ。
確かに緊急時に備えた連絡路や避難路の意味もあるのだろうけれど、クラリス嬢が仕事を抜け出して遊びに来るために用意してたな?
俺は微笑みを浮かべるクラリス嬢の顔へ視線を向けた。
すると両手を顔の横で合わせ、可愛らしいポーズでクラリス嬢は答えた。
「これでいつでも行き来できますね♪」
うん。間違いないな。
まぁクラリスが遊びに来るくらいなら特に問題ないか。
シアとエルを気にかけてもらうって意味でも、クラリス嬢と直ぐに連絡が取れるならありがたいか。
トルネさんの負担が心配だけど、トルネさんも法衣貴族とはいえ一応貴族になるわけだし、問題ないかな?
所持金 金貨35枚 銀貨7枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
ここまでお読みいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
誤字脱字等ありましたら、お気軽にご報告いただけると嬉しいです。




