65話 王宮へ 褒賞の相談
俺たちは王宮から来た豪華な馬車に揺られていた。
はぁ……。
マナーを失して、不敬罪だ!とか言われたらどうしよう。
不安だ……。
緊張する俺と反対に、シアとエルは高級な馬車にはしゃいでいた。
「すごい柔らかい!」
「あっ!シア!椅子の上で跳ねたらダメだよ!」
物怖じしない子供が羨ましい。
エン爺はいつもと変わらず落ち着いてるし。
トルネさんは緊張というより若干興奮してる?
このタイミング王宮へ呼び出しってなると、どう考えても温泉都市の件だろうし。
王族の覚えが良くなることは、商人にとっては何よりの褒美ってことか。
商人か。
俺は商人を名乗ってていいのかな?
「そういえば、スズヤさん」
「ん?」
「手土産は用意していますか?」
「え!?手土産!?」
「ええ。公的な謁見であれば不要でしょうけれど、先ほどの伝令の話では会食に招待とのことでしたので、私的な会になりますので、あちらから呼ばれたとはいえ目上の方の住居への訪問という形になりますので、手土産はあったほうがいいかと」
ああああ!
そういうことか!!
人の家で夕飯に招待されて手土産も無しとか貴族以前に人としてどうなのってなるよね!!
王宮ってなんか特別な場所って感じがして、完全にそんなこと考えていなかった!!
えーと、王様に献上できるもの?
栄養ドリンクとか?
いや、王様をジャンキーにするわけにはいかないし。
商人の体で、王様に差し出してもいいような手土産を送るとなると……。
手土産……?
あ、そういえば!
どうせ王宮に行くなら、この前鑑定したあのチョーカーの報告もしたほうがいいかな?
そんなことを考えいるとき、隣に座るライアが林檎を頬張る姿が目に入った。
これだ!!
王宮に入り馬車が停車し、綺麗な鎧を身に着けた騎士が扉を開けてくれたので馬車を降りる。
するとエクレール公爵様とディル様、クラリス嬢が俺たちを出迎えてくれた。
「やあ。待っていたよ。急に呼び出してすまないね。私としては明日でいいと思っていたんだけど、陛下がすぐにでもといって聞かなくて、ごめんね」
「いえいえ。トルネさんが色々準備してくれていたので礼服も間に合いましたし大丈夫ですよ」
「ふふ。みんな様になっているね。では陛下の元まで案内するよ」
エクレール公爵の案内で食堂へ。
案内に従いついていきながら内部を見渡すと、さすが王の住む場所と言った雰囲気で、建物の装飾や飾ってある壺や鎧と言った調度品、床に敷かれている絨毯まで、どれもこれも一級品といった絢爛具合。
エクレール公爵邸もかなりすごいと思っていたけど、流石王宮だなぁ。
シアとエル。そわそわしてるけど、絶対に触っちゃダメだからね?
何かを触った拍子に、万が一にでも壊したりしたら、俺じゃ弁償できる自信がないからね?
階段を上り、再び長い廊下を進んでいき、ようやくエクレール公爵様が足を止めた。
「ついたよ。では入ろうか」
そういってエクレール公爵が食堂の扉を開けた。
広い食堂の天井には豪華なシャンデリアが輝き、壁飾られた大きな額縁に飾られている絵画もとても綺麗で、正に王族のために用意された食堂と言った雰囲気を醸し出していた。
部屋の中央には長いテーブルが用意されており、椅子がいくつも並んでいる。
そして部屋の一番奥の上座にエクレール公爵に何処どなく雰囲気が似ている金髪の男性が座り、こちらを見て笑みを浮かべている。その隣の席にはディル様と同じくらいの年齢と思われる男性が座っていた。
俺たちが部屋に入ると二人は立ち上がり、挨拶を始めた。
「やぁ。よく来てくれたね。急な呼び出しに応じてくれてありがとう。私の名はディラン=フォン=ファーランド。いちおうこの国の王をさせてもらっている。隣は長男のハロルだ」
「第一王子のハロルだ」
「本当は次男も同席させようと思っていたんだけど、色々と事情があってね。今日は無礼講だ。マナーなど気にせず楽しんでいっておくれよ」
次男?っていうとクラリス嬢の策でなんかやられてたっぽい第二王子か。
ディラン陛下はエクレール公爵様と似た雰囲気で親しみやすいというか、かなり軽い雰囲気だなぁ。
それと比べてハロル殿下は厳格そうな雰囲気だ。
ジーっと二人を見てると、トルネさんが俺の腰を肘でつんつんとつついてきた。
えっ!?俺から挨拶するの!?トルネさんが先じゃないの!?
仕方ない……。
「まずは、招待いただきありがとうございます。お初にお目にかかります。私は商人のスズヤです。後ろに控えているのは護衛のエンとライアです。そして故あって私が保護しております二人、シアとエルです」
「私はフランゼ商会の会頭を務めさせていただいております。トルネと申します。本日はこのような席に私などをお招きいただき感謝いたします」
「うん。みんなよろしく。ささ、座って座って。食べながらでいいから話を聞かせてもらえるかい?」
使用人に案内され席に着く俺たち。
って、どうして俺が一番上座に案内されるの!?
この場所はエクレール公爵様かディル様でしょ!?それか最悪でもトルネさんじゃないの!?
隣は陛下、正面が殿下とか気まずすぎる……。
全員が席に着いたところで、メイドたちがグラスに飲み物を注ぎ始め、使用人たちが料理を運んできた。
テーブルの上がいっぱいになるほどの料理が並んだところで、陛下がグラスを持ち上げる。
「では早速いただくとしよう。自分の家だと思って楽しんでね。新たな出会いに感謝を。乾杯」
「「「「「「乾杯」」」」」」
俺は出来るだけ会話を避けようと食事に勤しもうとしたが、陛下は当然それを許してはくれなかった。
「ねぇねぇ。スズヤ君。温泉都市の立案は全て君がしたというのは本当かい?」
早速きた!
「全てというのは間違いです陛下。私は最初に案を出しただけでございます」
「うーん。堅いねぇ。私のことはディランと呼んでいいよ。堅苦しい話し方も無し。今日は公式の場ではないのだから気楽にいこうよ」
いや、笑顔でそんなこと言われても……。
困った俺は正面に座るハロル殿下とエクレール公爵様の顔へちらっと目を向けると、二人とも苦笑いをしつつ頷いた。
あー、これは言う通りにするしかないって反応ですね。
陛下は軽い雰囲気だけど、二人の反応から察するに、陛下は一度言い出したら聞かない人ってことか?
「わかりました。ディラン様」
「うん。それで、先ほどの話の続きなんだけど。クラリス、スズヤ君はこういってるけど?」
「確かに人員の手配や采配は私が、資材や工事の管理はフランゼ商会とトルネさんが行いました。ですが温泉を作る計画、ボードゲーム大会を開催する案。それらは全てスズヤ様の発案によるものです。都市内で無料公開されている足湯も素晴らしい発想ですし、スズヤ様の理想が体現されている都市になっています」
いや、物は言いようだけども!
理想が体現された都市って、それはクラリス嬢が俺の温泉の理想を拡大解釈した結果だからね?
確かにクラリス嬢の言う通りだし、嘘は言ってないよ!?
でもその言い方だと俺がめっちゃ仕事したみたいに聞こえるけど、こんな施設があればなぁって案を出しただけだからね!?あとは源泉掘って引いてきただけだから!!
「うんうん。すごい従者も連れてるみたいだし、聞きしに勝る人物のようだね」
そういってディラン陛下はエン爺とライアにチラッと視線を向けた。
これはエクレール公爵様に色々聞いて二人の正体を知っているな?
敢えて従者と言ってくれたってことはハロル殿下には内緒にしてくれているってことか?
「過大評価ですよ。二人は確かに俺なんかよりも凄いですが、俺はそれほど優れた人物ではありませんから」
「龍の巣の調査に同行して依頼達成。国内で大人気となり他国へも広がり始めた革新的な娯楽のボードゲームの開発。1000年禁足域となっていた地の解放に貢献したうえ、その地に温泉都市計画の立案。更に公爵家主催のボードゲーム公式大会の開催で温泉都市の名を国内中に広める手腕。スズヤ君。謙遜も過ぎると嫌味になるよ?」
スズヤに関する功績を言い連ねたディラン陛下は最後に鋭い目つきでこちらを見た。
うっ!
この人、俺がいろんな人を盾にして隠れてたのを全部知ってるのか。
うぅ、国王に目を付けられたらもう逃げれない……。
覚悟を決めるしかないのかな……。
「ふふ。そんなに怯えないでいいよ。取って食おうってんじゃないから。別にこの国のために働けとか、王家のために尽くせとか言わないから安心していいよ」
そうなの?よかったぁ……。
てっきりそういう流れになるかと思ってた。
「でね。そんな君とトルネ君、そしてクラリスには褒賞を与えようって話になったんだよね」
きた。
絶対に断れなそうな話。
せめて目立たない褒美でお願いします。
「スズヤ君には名誉男爵の爵位と領地、報奨金を、そして温泉都市に大きな屋敷を与えよう。トルネ君には報奨金、そしてフランゼ商会には王宮の立ち入り許可を出したうえで、王家のお墨付きの商会としての販売許可を。クラリスには男爵の爵位と領地を。どうかな?」
報奨金はまだしも、爵位と領地と屋敷!?
爵位と領地は流石に無理!
屋敷も貰ったって絶対持て余すから流石に……。
家って言えば、トルネさんって未だに狭い家で暮らしてるんだよな。
だったら……。
「すみません。褒賞について意見しても?」
「陛下の褒賞に意見するなど不遜だぞ?」
ここまで一言も口を利かなかったハロル殿下が、王からの褒賞に意見を述べようとしたことに対し、不満をあらわにした。
するとそれを見たディラン殿下はハロル殿下へ目を向けて首を振った。
「すまないスズヤ君。意見を聞かせてもらおうか」
「申し訳ありません。私は根無し草の商人です。爵位や領地を頂いても身に余ります。それに私一人ではこれほどの成果を上げることは出来ませんでした。ボードゲームの開発と布教はトルネさんに手伝ってもらっています。温泉都市もこれほど早く工事が進んだにも関わらず、大きな問題が起きなかったのは現地で休むことなく指示と管理をしてきたトルネさんあってのことです。私に与えるはずだった爵位をトルネさんに与えて欲しいのですが、可能ですか?」
俺がそう告げると、「爵位を賜る栄誉を断るなど何事だ!」と怒り、立ち上がるハロル。
そして同じく立ち上がり慌てて否定するトルネ。
「す、スズヤさん!!私に爵位だなんて!!いくら何でも!!」
「ふむ。いい案かも知れないね」
「「陛下!!」」
ハロル殿下とトルネが同時に叫ぶ。
しかし、二人のことは気にせずディラン陛下は続けた。
「王家御用達の国内最大の商会の会頭となるのだからね。他国と取引するときに爵位がある方が交渉がスムーズに進むようになるだろう。ただ、爵位を与えると領地もセットで与えることになるから、商会を運営するのに都合が悪いだろうと思っていたんだけど――」
トルネは爵位を拒否する気満々で、激しく陛下の言葉に頷いている。
絶対に領地は要らないという意思が見て取れる。
「領地を持たぬ法衣貴族であればトルネ君は今と同じ生活を送れるしいいんじゃないかな?位は男爵を授けよう」
トルネは全力で首を横に振っている。
俺は最後の一押しをするためにクラリス嬢の顔をじっと見つめた。
すると、わかりましたと言った様子でウインクを返してくれた。
「私も陛下の案に賛成です」
「く、クラリス様まで!?」
「トルネさん。法衣貴族であれば領地を持つ必要はありません。ですが貴族の特権を利用できます。トルネさんであれば、貴族の特権の一つに一部の税の免除があることはご存じのはず。フランゼ商会の会頭が貴族となれば、関税に一部免除が適応されるようになりますよ?」
「はっ!?法衣貴族となれる栄誉!謹んでお受けしたいと思います!!」
((((((ちょろい))))))
全員そう思った。
クラリスは俺の顔を見てニコッと微笑んだ。
うん。ありがとうクラリス嬢。
褒賞に関する話は俺の代わりにトルネが法衣貴族の男爵として叙爵するという話でなんとかまとまった。
これであとは屋敷の話をどうにかするだけと思っていた時、突然食堂のドアが開き、一人の男が入ってきた。
「陛下!!至急進言したい大事な話がございます!!」
そこにいたのはヘイゼル侯爵だった。
所持金 金貨40枚 銀貨2枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
ここまでお読みいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
誤字脱字等ありましたら、お気軽にご報告いただけると嬉しいです。




