59話 ボードゲーム大会1
昨日は久々の温泉を満喫し、そのまま温泉施設の一室に宿泊した俺は清々しい気持ちで朝を迎えた。
「ん~!やっぱ温泉って最高だなぁ」
まだ夜明け前だというのにエン爺は既に起きていた。
俺はまだ眠そうなライアとシア、エルをゆすって起こし、ボードゲーム大会へ向かう準備をする。
ロビーへ向かうと既にクラリスと龍の牙、そしてトルネも用意を済ませて集まっていた。
「いよいよ温泉都市最初のイベントですね。必ず成功させましょう!」
クラリスが声をかけ、皆意識を引き締める。
その後、会場予定地である中央広場へ向かうと既にかなりの人数が集まっていた。
あれ?もう数百人いる?
フランゼ商会の従業員じゃないよね?
その後、フランゼ商会の従業員と協力して、大量に用意したボードゲームと机、椅子を広場へと並べていく。
その間にも王都から集まって来てこの都市の宿に宿泊していた者、移住後初のイベントなので参加する者、イベントに合わせて馬車で到着した者たちが続々と集まり、トルネとフランゼ商会の従業員、そして俺とクラリス嬢は大会参加者の受付作業に追われることとなり、手が足りないので龍の牙にも参加者の対応へ回ってもらうこととなった。
はぁ。まだ始まってもないのにめっちゃ疲れた……。
参加者多すぎない!?
まだ都市は公式公開してないし、移住者とイベント参加者以外この都市に来れないはずだよね!?
「トルネさん。結局参加者は何人になったの……?」
「1844人ですね……。流石にそこまで増えることはないだろうと思っていましたが、念のために木札を想定では1000弱のところを、毎年開催予定なら使いまわせるのでと、倍の2000セット用意していたのにギリギリでした……。お断りせずに済んでよかったです……」
2000人弱……。
ほんとに今日中に終わる……?
木札とは、勝利した時にこれを集める仕組みにすることで出場者の管理を楽にするために用意したものだ。
参加者の数に応じて木札を集める枚数を調整したルールで開催し、一定人数まで減ったところでトーナメントにするのだ。
適当なものと勝負をし、勝ったものが負けたもののもつ木札を総取りできるという仕組み。
ただし、手持ちの木札の数が±1枚までの相手と勝負するというルール。
勝負が進んで手持ちの木札が近い相手が居なくなった場合、スタッフであるフランゼ商会の従業員と木札をかけて勝負をしてもらうことになっている。
ただし、大会スタッフとなったフランゼ商会の従業員は、ボードゲーム強者を集めたそうなので、厳しい戦いを強いられるという手筈だ。
トルネさん容赦ない。
今回の参加者内訳と決勝トーナメントに出場するために必要となる木札の枚数は以下の通りだった。
リバーシ:940人 木札ノルマ58枚
将棋 :322人 木札ノルマ20枚
チェス :582人 木札ノルマ36枚
ルールがちょっと複雑な分、将棋の参加者は少し少なめか。
将棋は4~5勝で決勝へ進めるが、リバーシは6勝以上が必須となる。
シアとエル、それにライア、更にクラリス嬢も参加予定だ。
俺は最近覚えたシアとエルにも負けるくらいで、そんなに強くないのでエン爺と酒でも飲みつつ応援を頑張ります。
因みに商品は以前トルネの打ち合わせた通りで
各種優勝者は温泉施設の年間フリーパス。
準優勝者は3か月のフリーパス。
3位は1か月のフリーパス。
16位以内入賞者は一日無料券だ。
これらはいつ使ってもいいことにしているが、温泉施設の開業は明後日を予定していて、今回の入賞者は特別に明日から利用できるようにしているので、出来れば公開プレオープンとして明日来てもらえると嬉しい。
俺は参加する皆に声をかけていく。
「シアはリバーシ。エルは将棋、ライアはチェスに参加か三人とも頑張ってこい!」
「うん!」
「頑張る!」
「ん!」
「私の応援はしてくださらないのですか?」
三人を激励していると、横からクラリスが上目遣いでそう告げてきた。
だからそういうのずるいぞ!
俺がおっさんじゃなかったら絶対勘違いしてるからね?
ストーカーが生まれるのはそういうところだよ!?
もっと自分が美人だって自覚もって!
クラリス嬢!
……いや、クラリス嬢のことだから自覚ある上でやってる可能性も……?
深く考えるのは止めておこう。
「えっと、因みにクラリス嬢は何に参加するのですか?」
「私は将棋です♪」
「おっ、ならエルのライバルだね」
「クラリス様と当たっても負けない!」
「ふふっ♪お手柔らかにお願いしますね♪」
「ではクラリス嬢も頑張って来てください」
「ありがとうございます♪」
ちょうど俺が皆の激励を終えたところで、雑踏をかき分けてこちらに進んできている人が声を発した。
「クラリス!」
クラリス嬢を呼び捨てにするということか、例のストーカーが来たか。
声のする方へ目を向けると、そこにいたのは護衛の騎士を二人連れたライナー殿下の姿だった。
※ ※ ※
ライナー王子はクラリスの招待に応じ、温泉都市を訪れていた。
何だこの人ごみは?
これが全てボードゲーム大会の参加者だというのか?
雑踏の中を進んでゆくと、長い金髪の美しい女性の姿が目に入った。
やっと見つけたぞ愛しのクラリス!
「クラリス!」
「これはライナー殿下。私の招待を受けていただき感謝しますわ」
まるで見本のように綺麗な所作で両手でスカートを軽く摘まみ、カーテシーをするクラリスに俺は見惚れて一瞬息をのんだ。
「た、他人行儀な呼び方はよせと言っているだろう!」
「ですが従兄とは言え、公爵家と王家では立場が違いますので」
恭しい様子で頭を軽く下げるクラリス。
そんな所作も美しい。
しかしその言葉は流石に他人行儀過ぎるのではないか!?
「そんなことはどうでもいい!ほら主賓席に行くぞ!」
そういってクラリスの手を掴もうとしたとき、俺の手が誰かに掴み止められた。
「私の手を取るなど不敬者め!!きさ――」
そう言いかけたが、振り返ると、見覚えのある男がそこの居た。
「これはこれはライナー殿下。お久しぶりです。従妹とはいえどクラリスは成人した身、成人した女性に簡単に手を触れようとするなど、はしたないですよ?」
「え、エクレール公爵……」
その後エクレール公爵に連れられて主賓席へ。
くそっ!エクレール公爵まで来ているとは!
自領に引きこもっているという話ではなかったのか!
クラリスから招待を受けたから俺はさして興味もないボードゲームの大会に態々足を運んだというのに!!
主賓席の壇上に登り、エクレール公爵が案内する席に座ると隣から声がかかる。
「お久しぶりですね。殿下」
その声を聞き、俺は嫌な予感がしてゆっくりと隣に座る男の方を向いた。
そこにいたのはクラリスの兄ディルだった。
なにいい!?こいつまで!?
何故エクレール公爵がボードゲームなどという娯楽の大会などに勢ぞろいしているんだ!?
ライナーが気まずさに気分が悪くなり下を向いていると、エクレール公爵が大会開催の宣言を始める。
「皆さん。我が公爵家が主催するボードゲーム公式大会へ国内各地から遠路はるばるお集まりいただき誠にありがとうございます。本日は主賓としてなんと王家よりライナー第二王子も我が家主催のボードゲーム大会を盛り上げるために足を運んでくださっております」
なにい!?あいつ何を言い出しているんだ!?俺を山車に使うつもりか!?
叔父上とはいえ、王家の俺を勝手に宣伝に使うなど不遜な――いや、賓客として招待すると手紙には書いてあったか。
くそっ!
適当に話せばいいんだろう!!
「あー。ファーランド王国第二王子のライナーである!私から一言いうとするなら、娯楽の大会ゆえ、勝ち負けにこだわらず楽しむように」
「娯楽の大会だからこそ、勝ち負けにこだわらず大会を楽しんで欲しいということですね。ありがとうございました。それでは大会のルールを説明しますリバーシの参加者は木札を――」
何がボードゲームだ!こんな児戯にうつつを抜かして何が面白い!
こんな席で一日過ごすなどやってられるか!
だが壇上の席は私の左にもう一つ空いている。
きっとクラリスの席に違いない。
クラリスが隣に戻ってくるまでの辛抱だ……。
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