58話 念願の温泉完成
次の日からシアとエルを連れて岩石地帯に出かけたり、クラリス嬢たちと完成した都市を確認して回ったり、温泉施設の完成を見に行ったり、居住区に移住してくる住民受け入れに立ち会ったりして過ごしていると、あっという間にボードゲーム大会の開催が前日まで迫っていた。
明日から開業する温泉施設の開店前リハーサルとして、従業員の訓練も兼ねて俺たちは温泉施設を体験することになった。
トルネは支配人として客を迎える側だ。
今日くらいはいいだろうと提案したが、支配人を任せられる人が居ないので、明日からの営業の予行演習がしたいそうだ。
俺たちはこの日を楽しみにしていたので、トルネからの温泉関連のちょっとした質問に答えたり、報告は聞いていたが、温泉施設に入るのは今日がはじめてだ。
今日は客として温泉を満喫させてもらうとしよう!
あぁ!ここまで長かった!!俺はほとんど何もしてないけど……。
異世界で本格的な日本風の温泉に入れるなんて!!
温泉施設の入り口をくぐると着物姿のトルネが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。本日は当温泉へ来店いただき誠にありがとうございます」
丁寧にお辞儀をして恭しく出迎えてくれたトルネは早速温泉へ案内してくれた。
「では当店自慢の温泉エリアへ案内させていただきます」
営業開始後は全ての客にここまで対応できる余裕はないので、実際にはここまで丁寧な案内をする予定はない。
トルネの気分だろう。
俺たちはトルネから1つずつ鍵を受け取り男湯と女湯に分かれ、早速脱衣所に入る。
そして脱衣所の光景を見て思わず俺は声を上げる。
「おぉ~」
案を出したのは俺だし、図面でも見ていたから知ってはいたとはいえ、沢山のロッカーが並ぶこの脱衣所の様子を見ると、向こうの世界を思い出して嬉しくなる。
流石にコイン式ロッカーは魔道具として再現すると途方もない時間とお金がかかるということだったので、事前に温泉エリアを利用するときに鍵を受け取って、そのカギに対応したロッカーを利用する形をとることになった。
これなら魔道具にする必要も無く、コストも抑えられるからだ。
脱衣を終えて俺は湯気で曇る引き戸を開き、小さな籠を持って中へ入る。
そこにはいくつもの洗い場が並んでいた。
俺とアレク、ガイ、エン爺は横並びに洗い場に座って体を洗う。
ちゃんと洗髪用の液体せっけんと体を洗う用の固形石鹸を用意してくれたようだが、今日は知らない人が居ないから特別にこれ!
マイ温泉セットだ!
シャンプー、トリートメント、ボディソープ、洗顔、それとボディタオルと洗顔ネットだ!
「スズヤさん。なんだそれ?」
となりからアレクが覗き込んできたので説明する。
当然、俺にも使わせてくれ!という流れになるので俺が使い終わったら全員に貸し出した。
「俺もこのセット欲し~」とアレクは言っていたからトルネに宣伝してここで販売してもいいかもしれないな。
ただ、ボトルを詰め替えたり、ボディタオルや洗顔ネットは近い素材を探して作るとこから始めてもらうことになりそうだから、すぐには無理かなぁ。
一応女湯に向かったシアとエルにも同じセットを渡しているからあっちでも似たことになっているんだろうな。
※ ※ ※
「なんですか!?この洗髪液は!?すごい泡立ちですし、とってもいい香りがしますね♪」
クラリスはシャンプーを使って感動を示していた。
「次私!私も使ってみたい!」
「ではその次は私もおねがいします♪」
その後、シャンプーとトリートメントを初めて体験した3人はサラサラになった自分の髪に触れて恍惚な表情を浮かべていた。
「流石スズヤ様が用意された品物♪素晴らしいですね♪」
「はぁ~。毎日使えたらなぁ~」
「スズヤさんがこれらを販売してくれたら嬉しいですね♪」
「あとでスズヤに伝えとくね!」
「私も!」
「「「是非お願いします!!」」」
クラリスとエレナとマリアは、シアとエルに顔を近づけ懇願した。
その後、用意されていたシャンプーハットを被ったシアの頭をエルが洗ってあげ、その横でライアはマイペースに冷水で体の泡を流していた。
※ ※ ※
「さて、洗い終わったことだし、まずは温泉に浸かるとするか~」
結局湯の温度がやや高かった問題は湯もみで処理しようとすると人手が足りないので、氷の魔石を使って湯自体の温度を下げることにしている。
湯に足を付け、そこからゆっくりと全身を湯に浸かっていき、肩まで湯に浸かったところで自然と声が出てしまう。
「はぁぁぁ~♪」
さいっこう!!異世界で源泉かけ流しの温泉に浸かれるとかまさに天国!!
俺の隣で湯に浸かるアレクもガイも蕩けそうな顔を浮かべている。
エン爺は若干物足りなそうだけど、ほどほどに満足しているようだ。
暫く湯に浸かったら、暑さに耐えれなくなったアレクが「次行ってみようぜ!」と言い出した。
「そうだね。んじゃサウナに行ってみるか」
「それ!気になってたんだよ!蒸気の風呂だろ!!」
ふふふ。果たしてアレクは何分耐えられるかな?
俺がサウナの扉へ近づき、扉を開けると中から熱気があふれてくる。
これこれ!この熱気懐かしい。
中へ入り、椅子に座り、深呼吸。
あぁ~。体のそこまであったまるこの感覚。懐かしぃ~。
アレクとガイは入った瞬間、初めて体験するサウナの熱気に驚き、声を上げる。
「うおっ!?まるで龍の巣じゃねぇか!?」
「うむ!!」
「ほう。これは心地よい温度。なかなかですな」
お、熱いのが好きなエン爺はサウナがお気に入りになりそうだな。
案の定、アレクは2~3分でサウナから撤退。
ガイも粘っていたが、5分もせずに撤退した。
俺はいつも通り10分で退出。
エン爺はまだしばらくサウナにいるとのこと。
外に出るとサウナの傍に用意してもらっていた寝そべられるベンチにアレクとガイは寝転がっていた。
「すげぇなスズヤさんもエン爺さんも……。そんなに長くあの部屋に籠ってられるなんて」
「まぁ俺は慣れてるし、エン爺はまぁ。元があれだしね?」
獄炎龍にとってはサウナの熱さなんて慣れっこだろう。
「ふっふっふ。そんなことより君たち。サウナで温まった体は、こうやって冷水に浸かって冷やすととっても気持ちいいのだよ」
そういって俺はサウナの傍に用意されている水風呂に一気に肩まで浸かった。
「ふはぁ~♪ととのう~♪」
俺の様子を見てアレク達も冷水に足を付けた瞬間、慌てて足を引っ込めた。
「めちゃくちゃつめてぇぞ!?」
「う、うむ」
「冷めた体で入ろうとするとそりゃね。サウナで温まったあとならとっても気持ちいいから試してみたら?」
アレクとガイは顔を見合わせ頷いた。
「やるか」
「うむ」
その後、5分間サウナに耐えて出てきた二人は冷水に浸かり、その心地よさを体験し蕩けていた。
※ ※ ※
女性陣もサウナを体験しに入っていた。
「はぁ~。熱いけれど体が芯からポカポカして心地よいですね~♪」
「私は火山にいるときみたいで落ち着かないかもぉ……」
「スズヤさんからお聞きしましたが、サウナに入ると体の老廃物が抜けて、肌がつやつやになるらしいですよ♪」
「えっ!?だからスズヤさんって私たちと同じくらいの年に見えるのかなっ!?」
「スズヤさんっておいくつなのでしょうか?27~28くらいかと思っておりましたけれど?」
スズヤの年齢を知らないクラリスは首を傾げた。
「35歳っていってたよー」
「えぇぇ!?35歳……。サウナに入ればスズヤさんのように若くあれるということでしょうか」
女性三人はスズヤが年下に見えるという日本人の特性だとは知らず、期待を込めてサウナの熱気に耐えぬいていた。
シアとエルはサウナを早々に離脱し温めの子供風呂へ。
お湯が嫌いなライアはサウナは意外にも1~2分程度なら大丈夫だったらしく、サウナと冷水を何度も行き来して楽しんでいた。
※ ※ ※
サウナと冷水を2往復した俺は満足して露天風呂に浸かっていた。
「ふぅ。やっぱ温泉は最高だなぁ~」
「サウナも冷水の心地よさを知ったら癖になるしな!」
「うむ!」
「冷水は流石に凍えるかと思ったが、サウナは暖かくて心地よかったな」
そりゃまぁ、エン爺はそうかもね。
ライアも熱い湯は苦手だろうし、やっぱ種族によっては同じように楽しめないか。
ちょっと悔しいな。
そんなことを考えながら、遮るものがない満天の星空をぼんやり眺めながら、露天風呂を満喫していると女風呂の方から賑やかな声が聞こえてきた。
「あっ!シア!走っちゃダメってトルネさんに言われたでしょ!」
「私が露天風呂いちばーん!」
「もう!」
「こらこら二人とも。危ないから気を付けなさい。スズヤさんに怒られちゃいますよ?」
「「はーい」」
ふふっ。相変わらずマリアさんはどこに行ってもお母さんキャラしてるなぁ~。
「スズヤさまー。聞こえますかー?」
ほほえましいやり取りが聞こえて、アレク達と笑みを浮かべていると、まさかのクラリスの声が響いてきた。
「クラリス嬢!?」
「あっ!いました!あちらも露天風呂いるみたいですよ。皆さん」
クラリスは女湯の皆にそう伝えた。
するとその直後、エレナの慌てた声が響いてくる。
「あっ!ちょっとライアちゃん!?そっちは男湯だから行っちゃダメ―!!みんな!ライアちゃんを止めるの手伝って!!」
なんかあっちで大事になってる。
「行っちゃだめ?」
うん。ライア。それは流石に温泉のタブーだ。
それにライアが暴走したらそっちのみんなは誰も止めれないし、可哀そうだから勘弁してあげて。
「ライアー!温泉は男女別で入るものだからエレナさんの言うことを聞くんだよー」
俺がそう叫ぶと。「ん。わかった」と小さな返事が聞こえてきた。
ライアの男湯乱入未遂も収まり、互いに落ち着いて露天風呂を満喫した。
「スズヤ様ー」
またクラリスの声が聞こえる。
「どうしましたかー?」
「私、温泉施設を作れて本当に良かったと思いました!」
「気持ち良かったでしょ?」
「ええ!とっても!ですがそれは温泉がただ心地よいというだけではなく、こうして皆と裸の付き合いをし、共に楽しめるところがとっても気に入りました!!本当にありがとうございます♪」
「礼を言うのは俺のほうですよー!俺は温泉の案を出しただけです。龍の牙やエン爺、ライアの協力が無ければ禁足域の解放も源泉の発掘も無しえませんでしたし、クラリス嬢やトルネさんの力が無ければ決してこの温泉は作りえませんでした。シアとエルのおかげで温泉に必要となりそうな商品も事前に用意することができましたし、この温泉は皆の力があってこそですよ。本当に感謝してます。みんなありがとー!」
「ふふっ♪スズヤ様のそういうところが、いろんな方を引き付けるのでしょうね♪」
クラリスの言葉を聞いて皆は笑みを浮かべて小さく頷いた。
※ ※ ※
その時、ヘイゼル侯爵は王都のエクレール公爵邸の門を訪れていた。
「貴家が獄炎龍と縁を結んでいることは知っている!エクレール公爵家の者と話をさせろ!!」
「ですからそんな与太話信じられるわけがないでしょう!!それに家人は不在ですと何度言えば――」
「うるさい!門兵ごときが私に口答えをするな!!」
捨て台詞を吐いてその場を後にするヘイゼル。
くそっ!エクレール公爵はまだ王都に戻らないのか!?
それにクラリスはここにいるはずではなかったのか!!
どうしてずっと不在なのだ!!
例の新都市お披露目として開催されるという公爵家主催のボードゲーム大会とやらに乗り込むか……?
いや、建設を初めてまだひと月ほどだ。
信じられない速度で建設がほぼ完了しているというが、そんな与太話私は真に受けるものか。
どうせイベントで使う会場と、温泉施設とやらだけ急ピッチで建設しただけで都市の体裁すら整っていないというのは関の山。
まともな施設すらろくに用意されてないような不便な場所とわかりきっているのに、わざわざ私が出向く理由はない。
くそっ!エクレール公爵か商人スズヤが獄炎龍とつながりがあるという証拠さえ得られれば、私がこんな無駄に疲弊する必要もなくなるというのに!
聖教会も役に立たなそうだし、こうなったら誰の力も借りずに私の力だけで真相を明らかにしてやる!!
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