51話 王子の真意と間者の正体
ここ最近慌ただしく温泉都市と王都を行き来していた俺たちは、特に急ぎの予定も無く、エクレール公爵邸のトレーラーハウスで久々にのんびりした時間を過ごしていた。
今日は俺たちも居るということでシアとエルは龍の牙との訓練もお休みしてのんびりエン爺とライアとボードゲームで遊んでいる。
「王手ー!」
「ふむ。これならどうだ?」
「あっ!?エン爺ずるい!!」
「ふっふっふ。シアよ。こういった絡めても覚えていくと良い。正面から突っ込むだけでは絡めとられることもある」
あれ?二人がしてるのって将棋だよね?
確かに将棋は元は軍を動かす想定から発展した娯楽って聞いたことがあるけど。
「チェックメイト!」
「んん…。参った。エル強い」
「やった!」
こちらはエルの完勝か。
ライアは考えるの苦手そうだしなぁ。
「なぁ。二人ともボードゲームが好きなら大会に出てみるか?」
「でる!」
「でたいです」
よしよし。娯楽の大会だしな。
シアとエルはまだ子供だし、戦闘以外のところにも興味を持ってくれるのは大事だ。
「んじゃ大会当日は温泉都市でボードゲーム大会に出て、そのあと温泉に行こうな」
「広いお風呂で泳いでみたい!」
「シア。昨日もお風呂で泳いだらダメってエレナさんに言われたでしょ!」
子供らしいけど、お風呂で泳ぐのは流石にダメかなぁ。
「ライアも当日は温泉どう?」
「んん……」
「温泉にはお湯に入らなくても温まれるサウナとか、冷たい水のお風呂もあるよ」
「それなら、行ってみる」
よし、ライアだけ仲間外れみたくならずに済みそうだ。
「スズヤ殿。温泉ではビールや日本酒も出るのか?」
「いやぁ。本当は出したいんだけど、俺の能力で出した商品は流石になぁ。トルネさんとクラリス嬢の方で店舗スペースに出店する商店を決めてるはずだから、その商店の出す食事とお酒を楽しもうか」
「ふむ。選りすぐりの飲食店の商品か。悪くない。珍しい酒を出す店があると期待しよう」
エン爺はワイン樽からワインをグラスに注ぎながらまるで水でも飲むかのようにガパガパとワインを飲みつつ温泉の商店に期待を馳せるかのように笑みを浮かべつつそう言った。
昼時になった頃、トレーラーハウスの玄関がガチャリと空いてアレクたちが入ってきた。
「よう!スズヤさん!今日の昼飯はなんだ!?」
あー、みんな俺の飯目当てで集まったのか。
「特にまだ決めてないけど。みんな希望はある?」
「お肉!」
「海老!」
「メロン」
「日本酒かの」
「何でもいい!」
まてまて、シアとエルの肉と海老、それとライアのメロンはまあいい。
エン爺のそれは飲みたい希望であって飯じゃないだろ。
そしてアレク。
それは用意する人のやる気をそぐから決して言ってならない一言だからな?
2度目だぞ?
とりあえず、シアとエルの希望を聞くとして、やはりBBQ?
いやいや。そんな頻繁にやるとBBQの特別感が薄れてしまう。
それに公爵家の中庭で煙と香りを垂れ流してのBBQは流石にない。
うーん。そうだ。
「よし。んじゃ肉も海老も一緒に食べれるように今日の昼は八宝菜!そして夜は鍋にするか!」
「はっぽーさい?エル知ってる?」
「ううん。知らない」
「鍋って。鍋で何作るんだ?」
あー、アレク達に鍋って言っても伝わらないのか?
鍋ってだけ言うと、鍋料理をしらなければ調理具を連想するか。
早速【ふるさと納税】で白菜、ニンジン、豚肉、海老、イカ、アサリ、ウズラの卵、きくらげ、そしてちょっとリッチにホタテを購入!八宝菜なのに9種あるって?いいんだよ。
野菜類と豚、海老は夜の分も含めて多めに購入してある。
ウズラの卵やきくらげは無くてもいいという人もいるが、食感のアクセントに俺は絶対入れたい派。
ホタテは普段は入れないけど、豪勢にしたいときに偶に入れている。
入れるといい出汁が出て美味いんだよなぁ。
シアとエルも手伝うというので、野菜皮むきとカットを女性陣に任せ。
俺は乾燥きくらげ水で戻している間に、ホタテから貝ひもを1つ1つ丁寧に取り除き、それが終わったら海老の殻とはらわたと背わたを取り除いていく。
海老を片栗粉で揉みこみ、綺麗に処理することも忘れないよ。
豚肉と海老は酒とショウガに付けて下処理は完了。
イカとアサリは処理が面倒なので切り身と殻無しの冷凍アサリをチョイスしている。
さて、そうこうしているうちに女性陣に任せておいた野菜も用意できたようなので、さっそく熱したフライパンに油を敷いて肉に火を通していく。
豚肉にいい具合に火が通ったら、白菜とニンジンときくらげを投入!
暫く炒め、少し野菜がしんなりしたところで海鮮各種も追加!
海老の色が赤く変わりホタテにも火が通ったところで、醤油、酒、そして赤い缶の中華だしで味付け。
俺はこの赤い缶の中華だしがお気に入り。青い缶の中華だしも海鮮出汁風味で美味しいけど今回は赤いほう。
そして煮立って酒のアルコール分が飛んだところでウズラの卵をイン!
全体を混ぜて味が絡んだところで水溶き片栗粉を入れてとろみをつけ、最後に風味付けにごま油を回しかけたら完成!
「「「「「おおおおお!!」」」」」
八宝菜を更に取り分けていく。
「うんめぇ!!こんな料理ありえるのか!?」
アレク。家庭では結構定番だし男料理としても簡単な部類だぞ。
全部処理済みの材料を揃えれば炒めるだけだしね。
「んまい!手が止まらない!小さな卵もおいしい!」
エレナ。急いで食べなくても料理は逃げないぞ。ウズラの卵を喉に詰めないようにゆっくり食べなさい。
「はぁ♪お肉と海産物と野菜を全て使っているのにこんなに味が纏まっているなんて♪」
全部混ぜ料理はいっぺんに色んな栄養も取れていいよね。
「うむ!」
ガイさんも満足してくれたみたいだね。
うちの子たちはどうかな?
「お肉少ないけど海老も野菜も美味しい!!」
「海老美味し~♪」
うんうん。シアもエルも満足してくれたみたいだね。
「ん。メロン至高」
ライアは。久々のメロンを堪能してるみたいだね。
「ほう。これは日本酒似合うのではないか?」
エン爺。確かに日本酒似合うかもしれないけど、それはまだあとの方がいいぞ?取って置きを作ってやる予定だからな。
俺は八宝菜を食べ終えると早速、先ほどホタテから取り分けた貝ひもを取り出した。
「む?それは先ほどの貝の肝か?」
「そうだね。ここは捨てるために取り分けたんじゃなくて取って置きのおつまみを作るために残しておいたんだよ」
「なぬ!?」
俺は、酒に付けておいた貝ひもを湯通しし、臭みを取っていく。
その後、フライパンで貝ひもを少し炒め、直ぐに弱火にし、醤油、砂糖、みりん、しょうが、水を投入。
そのままゆっくりと弱火で煮詰め、水分がなくなっていくまで火を通す。最後に七味を振りかけて完成!
「よし、完成!ホタテの貝ひもの佃煮だ!」
佃煮の香ばしい香りがトレーラーハウスの中に充満しているので、食事を終えて満腹のはずなのに全員何ができたのか興味津々な様子で覗き込んできた。
「エン爺。これを日本酒のつまみにしたら最高に美味いぞ」
「ほほう!」
俺は日本酒を取り出し徳利に入れてレンジで加熱。
酒好きのマリアを目を輝かせているけど、君たちは一応クラリス嬢の護衛の仕事中だよね?まだお昼過ぎだよ?お酒はあげないからね?
ビールもあげないよ?そんな悲しそうな顔をしてもだめです。
夜にクラリス嬢の許可が出れば酒は出してあげるといったら龍の牙の面々は庭の警備に戻っていった。
早速昼間からエン爺と二人で貝ひもの佃煮を摘まみに熱燗を飲む。
「くぅ~!うまい!甘辛くて濃い味の中にほんのり感じる海の香りと苦み。やっぱ熱燗に合うねぇ」
「これはうまい!貝ひもは我がこれまで食してきたどんなものよりも酒に合うぞ!」
いやいや……。
2000年近く過ごしてきたエン爺がそこまでいうほどなのか?
シアとエルには味が濃かったらしく、更に七味もかけているので1つ食べて微妙な顔を浮かべて「甘いけど苦くて辛いー」といっていた。
子供にはまだ早いよね。
※ ※ ※
黒ローブの女の傭兵は、ハロル殿下の元へ依頼の報告に訪れていた。
「報告にきたわよ」
「聞かせてもらおうか」
「未知の魔道具と強力な護衛のことは以前報告したわよね。その後も作業員に交じって近くで監視した結果。油断できない相手と確証を得たわ」
「それほどか。ではSランク傭兵相当であると?」
「どうかしらね。スズヤ個人の戦闘能力は見ることが出来なかったけれど、まだまだ未知の魔道具を持っていそうだし、建設現場でフランゼ商会が配ってる栄養ドリンクの効果を跳ねのけるほどの精神力か耐性も備えているわね。それに温泉開発はスズヤ主導の元で行われている可能性が高いわ。フランゼ商会会頭とクラリスが表で目立って陣頭指揮を取っているように見えるけれど、細かいところはスズヤがフランゼ商会の会頭に指示をだしていたわ」
「……なるほど。個人としての力も未知数で、強力な従者を従え、更に都市開発の知識でも大商会の会頭や才女と名高い公爵令嬢よりも上を行くか。わかった」
「それで、どうするの?」
「どうとは?」
「潰すのか、取り込むのか。それとも鎖につないで飼殺すとか?」
「俺は愚者や罪人には容赦しない。しかし、国に有益と判断した者へは敬意を払うことにしている」
「へぇ?案外優しいんだ。最初はフランゼ商会へグエル商会の会頭をたきつけるように指示したくせに?」
「あれはグエル商会を確実に追い込むためだ。叩くには丁度良かったからな。フランゼ商会の対応とスズヤの人となりと力量も図りたかったからな。まさかラーサンが直接襲い掛かるほど愚か者だとは思っていたかっただけだ」
「でも死者が出たらどうするつもりだったの?」
「お前には死者が出ないように見張らせていただろう。流石に予想外だったとはいえ反省はしている。フランゼ商会の会頭と対面する機会があれば頭を下げるつもりだ」
「まぁ、糞真面目で現実主義なのは結構だけど、やりすぎないようにね。母国の王が暗君として歴史に名を刻むとか私も嫌よ」
「ふっ。安心しろ。名君にはなれぬとしても、国ため、民のために非才の身ながらあがいて見せるつもりだ。暗君になどなりはせぬ。これは報酬の残りだ。受け取れ」
そういってハロルは残りの報酬をテーブルの上に置いた。
袋の中を女傭兵が確認する。中には金貨250枚が入っていた。
「たしかに」
「お前はこれからどうするんだ?もしよければ俺の元で密偵として今後も働く気はないか?」
「私は傭兵よ?一つ所に留まるなんて、ましてや堅苦しい王族の元なんて絶対ごめんだわ。そうね、そろそろオークションの時期だし、大金も得たことだしトレマ公国のシェラスコにでも行こうかしらね」
「オークションか。ラーヴァピスキスも出品されるらしいな」
「それなんだけど……」
龍の牙が本当に伝説のSSランクの魔物を討伐したのかしら?
龍の牙にスズヤが同行したって噂もあるし、もしかしたら……。
「どうした?」
「いえ、なんでもないわ。そろそろ私は行くわ。じゃあねハロル王子様♪」
「ああ、世話になった」
女傭兵は黒ローブのフードを被り姿を消して去っていく。
「Sランク傭兵エルザ=プリムローズが一目置くほどの商人……か。父が気に掛けるはずだ」
所持金 金貨252枚 銀貨2枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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