50話 温泉施設の従業員
俺は激しく揺れる馬車に揺られている。
正直移動に時間がかかり過ぎるのがこの世界で過ごすうえで一番しんどい。
電車や飛行機はおろか、蒸気機関すらまだこの世界では見たことすらない。
そのうえ馬車にはサスペンションなんてものは付いてないから揺れが酷いのなんの……。
なんとなく機構を知ってるけど、俺にそんなものの開発は無理だし。
かといって【ふるさと納税】でそんな画期的な機構をもつパーツを購入したとしても、それを見てこの世界の鍛冶師たちが同じものを作れるかといわれると疑問だ。
純金属を扱った道具がほとんどで、有用な合金とかってまだほとんど開発されてたりしないだろうしなぁ。
エン爺で毎度空を飛んで移動できれば楽だけど、人目が多い場所や、日中にそれをやるととんでもなく目立つしなぁ。
そんなことを考えつつ馬車に揺られること2日。
俺は王都に戻ってきた。
まずはフランゼ商会へ向かい、従業員にトルネから受け取った手紙と図面を差し出す。
内容を見たとたん従業員は目を光らせ、「すぐに職人に試作品の発注をかけてまいります!日が落ちる前には用意できると思います!」といってどこかへ走り去っていった。
うーん。会頭があんな感じだから、従業員も非常にアクティブ。
その後、俺たちは夕方まで暇になったのでシアとエルの様子を見にエクレール公爵邸へと向かった。
「やあああ!!」
門の前に着くとシアの元気な声が聞こえてきた。
柵の隙間から敷地内の様子を伺うと、シアもエルも真剣な顔つきで龍の牙の指導を受けているのが見える。
「お二人とも毎日元気に訓練に励まれておりますよ。我々も二人に刺激を受け、勤務外の時間にはお二人に負けないようにと訓練の時間を増やしております」
「あはは。あの二人の姿を見てると何だか俺らも負けてられないなって思わされるよな」
何度も顔を合わせているので門兵の男たちが気さくに話しかけてきた。
うんうん。二人は馴染んでいるみたいでなによりだ。
その後、門を開けてもらい敷地内に入ると俺らが戻ってきたのに気が付いてシアとエルが飛んできた。
「お帰り!」
「お帰りさない!」
「うん。ただいま」
「二人とも精が出ておるようだな」
「ん。楽しそう」
大剣を扱えるようになったことや、ヒールの魔法が使えるようになったことを嬉々として話すシアとエルの様子を見て、龍の牙に預けて正解だったなと思ったと同時に、二人の成長を感じて嬉しくなった俺とエン爺、ライアは顔を見合わせて微笑んだ。
「二人ともすごいな!よく頑張ってるみたいだね♪」
「スズヤさん。戻ったか」
「アレクさん。シアの指導ありがとうございます」
「いやいや、嬢ちゃんのセンスと身体能力は半端ないから教えるこっちも楽しませてもらってるよ」
「ええ♪エルちゃんは既にハイヒールも習得間近ですし、立派な回復の担い手になりますよ♪」
「マリアさん。それは頼もしいですね」
龍の牙の面々からこの4日の間に二人がどれほど成長したか、どれだけ二人に伸びしろがあるかを聞き、ちょっと嬉しくなった。
親ばかなのだろうか。
そして俺は小一時間皆との談笑を楽しんで、クラリス嬢の元へ顔を出しに向かった。
「スズヤ様。おかえりなさいませ。開発の方はいかがでしたか?」
「ただいまです。開発は早すぎて逆に問題かもしれませんが、それ以外は特に問題ありませんでした。そうそう。源泉も街へ引き込みが完了して足湯も使えるようになりましたよ」
「まぁ♪私も早く向かいたいです♪そうそう。従業員の件ですが、商売の知識と経験のある人材30名の手配が付きましたよ」
「おお、それはありがたいですね。フランゼ商会の従業員と合わせれば温泉施設の運営は問題なさそうですね。よくこの短期間にそんな人材が30名も確保できましたね」
俺がそう告げると、少し悪い顔をしつつクラリス嬢は微笑んだ。
「ええ♪ラーサンに協力してフランゼ商会へ嫌がらせや問題行動を起こしていたことが明るみとなり、ラーサンと共に捕縛されていた元グエル商会関係者達を犯罪奴隷として確保いたしました♪フランゼ商会の指示の元で、精々自分たちがしてきたことの償いをしていただこうかと思いまして♪」
久々に悪女モードのクラリス嬢を見た……。
なるほどね。奴隷か……。
未だに俺は奴隷って制度自体に引っかかりを覚えてしまうけれど。
こういった奴隷の活用方法を聞くと、奴隷として社会貢献を兼ね働かせつつ、即戦力の労働力としても機能する制度ならば忌避するものではないのかもしれないな。
「ではトルネさんにもそのことを伝えておきましょうか」
「ええ。スズヤ様の了承も得られたことですし、急いで手紙の用意を――」
「いえ、それには及びませんよ」
そういって俺はトランシーバーを取り出して指をさした。
「あっ!トルネさんにも、お一つお渡ししてきたのですね♪」
「はい。その方が急な状況での対応もしやすいと思いまして。これから完成に向かっていく中で予想してなかった問題もでてくるでしょうしね」
「先手を打って希少な魔道具を提供していただき感謝いたします」
「いえいえ。お気になさらずに。奴隷雇用の件はクラリス嬢から直接お伝えしますか?」
「はい!私もトランシーバーを使ってみたいですので♪」
ふふ。そうだよな。この世界では電話なんてものないだろうし。
通信の魔道具自体、王宮や大きなギルド本部などでしか扱っていないと聞いているし、通話してみたいと思うのは当然か。
通信するために中庭のトレーラーハウスへ向かう途中で、シアたち龍の牙たちも呼んでトルネさんと連絡を取ることに。
「ではさっそく……」
クラリス嬢がトランシーバーに触れる。
「もし?聞こえますか?トルネさん」
すると30秒ほど待つとトルネの声が返ってきた。
『すごいです!本当に王都にいるはずのクラリス様の声が!?あっ!すみません!何か御用でしょうか?』
クラリスは犯罪奴隷として元グエル商会関係者を買い上げ、不足する温泉施設の従業員に充てる準備があるということをトルネに説明した。
俺は流石に元グエル商会関係者はトルネにとって遺恨もある相手だろうから悩むだろうと思っていた。
だが返事は直ぐに返ってきた。
『えっ!元グエル商会関係者を確保できたのですか!?即戦力として使えるじゃないですか!もちろん大歓迎ですよ!!それにしてもよく30人もの犯罪奴隷を確保できましたね!元商人とか読み書き計算ができる奴隷ですし、引っ張りだこですよね!?』
「ふふ♪色々伝手があるのですよ♪」
クラリス嬢の笑みが怖い。
公爵家の色々なコネを使ったのか、それとも個人的に奴隷商の弱みを握っているのか……。
うん。深く突っ込まないでおこう。
「数日中には手配できると思いますので、奴隷商には奴隷と共にそちらへ向かってもらいますね。トルネさんと主従の契約を済ませてもらうように手配しておきます」
『ありがとうございます!4~5日中には温泉施設も完成予定なので、施設を使った接客の予行演習も始められそうです!』
「「えっ?」」
4~5日中に完成と聞いて、俺とクラリスは声を上げた。
あれ?着工開始したの数日前だよね?
「流石に早すぎませんかね?」
『あー……。実は作業員が予想以上に集まったことで。居住区、商業区、工業区といった一般区画の都市開発が既に9割ほど進んでしまい、手持ち無沙汰となっていた作業員の方に温泉施設と屋敷の建設も協力してもらっております』
「それはなんとまぁ……。フランゼ商会秘蔵の特製ドリンクは私も1つ体験してみましたが、あれはやはる規格外の性能ですね」
えっ?試したの!?
クラリス嬢って、ほんとチャレンジャーだよね。
『あっ!ちょっと呼ばれたので現場に戻りますね!では従業員のほうはよろしくおねがいします!』
トルネさん。まったく休んでないんじゃないか?
クラリス嬢もそうだけど、休んでいる姿を見たことが無い気がする。
この世界ではそれが普通なのかな?週休0日制なの?
俺はすべてが終わった後の慰労会のことでも考えておくとしますか。
※ ※ ※
「出てきなさい。お前の引き渡し先が決まった」
牢に捕らわれていたラーサンの元を奴隷商が訪れていた。
「どうして俺が奴隷など!?」
「犯罪を犯したのだから当然だろう?いいか?王家や公爵家の関わる新都市開発に御用商人として雇われているフランゼ商会の馬車を君は襲撃したそうだね?本来であれば即刻鉱山送り、又は戦場送りだよ?」
鉱山と戦場と聞いてラーサンは静かになった。
「……」
「クラリス嬢の恩情に感謝するんだね。方々に手を回して今回君に関わって捕縛された者達が鉱山や戦場送りになるのを止めていたそうだよ?犯罪奴隷なのに過酷な労役刑を受けずに済むんだ。主人となる方に精々尽くしなさい」
何故俺が奴隷などに!!
この程度のことは貴族なら皆やっていることではないのか!!
全部!全部!ヘイゼル侯爵とフランゼ商会のトルネのせいだ!!
グエル商会は散々侯爵家のために動いてきたというのに、いざとなったら切り捨てやがって!!
落ち目のフランゼ商会がボードゲームの利権を独占し、更には公爵家と縁を作って分不相応な仕事を任されているから仕置きして、代わりに私がやろうとしただけなのに!!!
商会を潰しかけていたあんな女よりも、商会を大きくした私の方が優秀なはずなのにどうして!!くそっ!くそぉ!!
所持金 金貨266枚 銀貨2枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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