45話 温泉施設の宣伝と従業員手配
再び2日かけて王都に戻ってきた俺は流石に馬車の移動続きで疲弊していた。
「いちち、お尻が割れる……」
「お尻痛い……」
「うん……」
俺もそうだけど、シアとエルも慣れない馬車移動の連続にかなり疲弊してるな。
暫く馬車移動は控えたいところだけど。
俺たちは貴族街に向かいエクレール公爵家へ。
すると屋敷の前で訓練をしている龍の牙に出会う。
アレクとガイ、エレナとマリアで互いに模擬戦を行っていた。
その様子を見てシアとエルが目を輝かせている。
そうだ。
シアはアレクに、エルはマリアに色々教えてもらえないかな?
模擬戦が終わるまで観戦していると、終了後にアレクたちが集まってきた。
「お疲れ様」
俺はマジックバッグから取り出したお茶を皆に手渡した。
「さんきゅー。すずやさんは最近あっちとこっちの行き来で忙しそうだな」
「まぁね。温泉の件を頼まれてるし、俺自身温泉は楽しみだからね」
「風呂ねぇ。熱い湯に入るのがそんなにいいものかねぇ。それで?今日もクラリス様に用なのか?」
「うん。そうだけど、その前に、この二人のことで相談があるんだけど」
アレク達にシアとエルが戦闘に興味があるので、稽古をつけてくれないかと相談する。
俺は論外だし、エン爺とライアは強すぎるからなぁ。
それに武器や魔法の扱い方について教わるなら慣れた人の方がいいしね。
「おう!そういうことなら俺らに任せとけ!嬢ちゃんたちの相手なら俺らもいい練習になるしな!」
「そうだねっ!いつも同じ相手とばかり訓練してても飽きるしねー」
そういえば先日、アレクとエレナは二人にちょっと手こずってたっけか。
俺らとずっと一緒に食事をしてるから、身体能力だけならアレク達に近しいだろうからね。
「見ての通りシアは大剣、エルは魔法に興味があるらしいんだ」
「まぁ♪だったら私とアレクさんの出番ですね♪」
「初級の魔法書はエルが持ってるの以外にも、全種用意してあるから渡しておくね」
そういってマリアに魔法書を預けた。
エルは回復魔法に一番興味があるらしく、回復魔法の本だけはずっと持ち歩いて暇さえあれば読んでいる。
「んじゃ俺はクラリス嬢と打ち合わせをしてくるから。二人を頼むよ」
「おう!」
「任せて!」
「任されました♪」
「うむ」
「二人とも、龍の牙のみんなの話をちゃんと聞くんだぞ?」
「わかった!」
「うん!」
二人を皆に任せて俺とエン爺とライアはクラリス嬢の元へと向かった。
「スズヤ様。度々往復させてしまい申し訳ありません」
「いえいえ。トルネさんとクラリス嬢が忙しくなって身動き取れなくなった原因は俺にありますんで……」
栄養ドリンクのせいで工事は爆速で進んでるみたいだけど、そのせいでやることが溢れかえって二人とも身動きが取れなくなって申し訳ない。
「向こうを離れる時点での工事の進捗状況をお聞きしてもよろしいですか?」
俺は見てきた内容を説明した。
往復する馬車の御者からクラリスも公示の進捗状況は聞いては居たそうだが、伝え聞く工事の進捗があまりにも早すぎるので半信半疑だったらしく、俺やエン爺の口から改めて聞かされ、クラリス嬢も流石に驚いていた。
「ということは既に都市防衛のための外壁工事は全て完了しているのですね。作業員は200名弱だったはずですし、現地の岩場で石切りと加工から始めているはずですのに……」
全ての作業員が朝から8時間のやる気みなぎる暴走モードになっちゃうからね……。
エナドリジャンキー集団にならないといいけど。
「そんなわけでトルネさんと進捗の目安を確認したところ、来月の頭にはすべてが完成予定で、そこに合わせてエクレール公爵家主催のボードゲーム公式大会を開催するってことになったよ。温泉施設もそこに間に合えばいいんだけど」
「来月頭というと、28日後ですか。わかりました。温泉施設の建設作業員は入れ違いで2日前にこちらを出立していますので。明日から着工するはずです。噂に聞くフランゼ商会秘蔵の特製ドリンクがあればギリギリですかね?」
栄養ドリンクの噂がもう王都まで?
「ドリンクの話って王都でも広まっているんですか?」
「もちろん。仮設住宅の建設を請け負っていた作業員たちが、戻って来てからトルネさんが配るドリンクのことを風潮していまして。どんなに疲労していても即時回復し、疲れ知らずで普段の何倍もの効率で仕事が出来るから、可能であれば買わせてほしいくらいだとか。それを耳にした者たちが自分たちも是非体験してみたいとなり、ちょっとした話題になってます」
作業員限定で朝に配り、その場で飲ませるようにして正解か……。
外に持ち出されたら効能を聞いて大騒ぎになりそうだ。
「効果が強いですし、作業のためにしか使わないようにしているので販売はしないみたいですよ」
飽くまでもフランゼ商会から配給されるってことにして、俺が提供したことは黙って置こう……。
俺の元に栄養ドリンクを求めるジャンキーが集まってこられても困るしね。
「残念です……。疲れ知らずになれるのであれば私もいざというときに1本欲しかったのですが……」
クラリス嬢?
俺が栄養ドリンクを持ってるに違いないと確信して言ってるな!?
チラッ?チラッ?って見て来ないで!?
「少しだけでいいのですが……?」
うっ!上目遣いはずるいぞ!!
「はぁ。……わかりました。こちらがそのドリンクです。本当に少しだけですよ?」
俺は10本入りの箱を差し出した。
「わぁ♪これがそうなのですね♪ありがとうございます♪」
「ですが用法は必ず守ってくださいね?飲むと8時間効果が持続します。なので使用する場合は朝か、遅くとも昼前までにしてください。それと俺から貰ったということは絶対に内緒でお願いしますね」
「心得ました♪」
「スズヤ殿は存外、女性に弱いな……」
その様子を見ていたエン爺がボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
う、うるさいぞエン爺!
俺は女に弱いんじゃない!
クラリス嬢のあざとさが強すぎるだけだ!
っと、そんなことよりも。
「ボードゲームと温泉施設の広告をトルネさんが作ってくれたので確認をお願いします。出来ればエクレール公爵様にも確認していただきたいのですが、公爵様はまだ領都に?今日はディル様の姿も見えませんが?」
「ええ、父は何やら調べることが出来たと連絡してきました。兄上も父の手伝いに呼ばれ、2日前から父の元へ向かいました。二人とも20日程は王都には来れないと聞いております。新領地のことは私に一任するとのことですので私が確認させていただいてもよろしいですか?」
ふむ。フリーゲル王国絡みだろうか?
戦争は回避されたと思ってただけど、まだ火種でもくすぶってるのかな?
俺が気にしたところで政治に関しては分からないから、俺は俺が任されていることだけに集中するとするか。
「こちらがその広告です」
俺はマジックバッグから2枚の広告を取り出した。
1枚はボードゲーム大会。
もう1枚は温泉施設の広告だ。
「ふむふむ。大会に参加するだけで一日温泉体験ができるようにするなんて、考えましたね。料金の設定もかなり安いですし、エリア毎に使用料で分けるというのも利用者への配慮が行き届いていて素晴らしいと思います」
「ではこのまま国内全体に告知しても?」
「ええ。問題ないかと。私の方で、うちの筆者師を使って複製させて各都市に告知しておきますね」
「助かります。それとクラリス嬢にもう一つ頼んでも大丈夫ですか?」
「なんでしょうか?」
「飲食エリアに出店する店舗の呼び込みです。既に1か月を切っているので、これは最初は抽選制でも先着順でも構いませんので飲食エリアの店舗スペースを温泉施設開業までに最低でも半分3店舗は埋めて置けたらなと」
「ふふっ♪半分と言わず6店舗すべてを埋めて見せますわ♪公爵家の伝手を使えば何とかなると思います♪」
おお、頼もしい。
これで想定以上に早まった弊害は、概ね取り除かれたかな?
あとは従業員の件か。
「最後に、温泉施設の従業員に関してですが、想定より数か月早まったので、フランゼ商会だけでは従業員の確保が間に合わないらしいです。クラリス様の伝手で客商売の経験がある方を集めることは可能ですか?」
「そうですね。来月頭となると流石に急すぎますので、他で既に働いている方を引き抜くにしても流石に厳しそうですが……。一つ心当たりがあります」
クラリスは若干悪い顔を浮かべ微笑みながらそう答えた。
その顔ちょっと怖いんですけど。
「では従業員の確保は任せても大丈夫ですか?」
「ええ、出来るだけ早く集められるようにして見せますのでお任せください。一つだけ確認ですが、温泉施設は身分や生まれを問わず楽しめる場所。ということでよろしいですよね」
ん?確かに気軽に楽しんでもらえるならとは思っているけど。
「そうだね。温泉施設に来る人はどんな身分でも平等に扱う場所にしたいと思っているよ」
貴族でも平民でも奴隷でも、温泉施設に来た人すべてに温泉を楽しんでもらって、好きになってもらえたら嬉しいしね。
「わかりました。では私にお任せください」
さっきの笑みが若干怖かったけど、任せて問題なさそうだな。
「クラリス嬢の方で何か気になっているところなどはありませんか?」
「そうですね。特製ドリンクの噂が広まったおかげで作業員志願者はすごい勢いで王都へ集まっておりますので、急ピッチの建設作業に対する作業員の人員不足は解消されましたし、資材もトルネさんが事前に尽力してくれていたおかげで不足は無さそうです。ただ、新都市計画とは直接関係はないのですが……」
ん?何かトラブルか?
「何か問題が?」
「いえ、問題というほどのことではないのですが……。父も兄も不在になったとたんに、私のいとこでもあり、第二王子でもあるライナー殿下から、執拗にお茶のお誘いを受けておりまして……」
あー、なるほど。
クラリス嬢は可愛いもんなぁ。
同世代の異性ならほっとかないのはわかる。
「いとことはいえ王族なら無下にも出来ない……と?」
「ええ、そうなんです……。新都市の代官としての仕事で忙しいとの理由でお断りを入れているのですが、なかなか諦めてもらえず。今朝も屋敷にまで訪れて、中に入れろと門の前でお騒ぎに……。ヴァンスと龍の牙の方々が追い返してくれたのでなんとかなりましたが、あの調子ですと簡単に諦めてくれるとは思えなくて」
ストーカーか。
いとこに粘着するとかちょっと引くぞ、第二王子よ。
これは確かに話を受け入れるまで粘着されそうだな。
……だったら誘いを逆手に取ればいいのでは?
「では、逆にこちらから誘ってみるのはどうでしょうか?」
「いえ、それは流石に……。昔から何度もしつこく交際を申し込まれておりまして、何度お断りしても諦めてもらえないので。こちらからお誘いなどしたらどうなることか……」
勘違いして暴走されかねないと。
でも暴走できない状況であればいいわけだよね。
「面倒事を避けるために敢えて、ですよ」
「どういうことでしょうか?」
「つまりこういうことです」
そういって俺はクラリス嬢の耳もとでごにょごにょとしつこいストーカー行為を暫く辞めさせ、上手く撃退できそうな策を伝授した。
「――それなら何とかなるかもしれません!」
「それと俺から個人的な相談、というかお願いがあるんだけど――」
※ ※ ※
第二王子のライナーは、クラリス嬢からのお誘いの手紙を受け取り歓喜していた。
「遂にクラリスが俺に誘いの手紙を!!厄介だった彼女の父も兄も居ないこの好機に迫った甲斐があったな!!新都市の除幕式に賓客として招待ということは、婚約者として考えてくれている!?」
クラリスからの手紙の終わりにはこう書かれていた。
――。
父も兄も領地に戻り、一人、新都市公開に向けて政務に勤しみ多忙の日々を極めており、殿下からのお茶のお誘いにお応えすることができず、申し訳なく思っております。
来月1日。
私が代官を務めます新都市で、都市のお披露目を兼ね、我が家が主催するボードゲーム大会を大々的に開催いたします。
その大会へライナー殿下を賓客としてご招待したいと思っております。
殿下も日ごろの政務で忙しい日々をお過ごしのことだとは存じておりますが、もし私のために時間を取っていただけるのでありましたら、お越しいただけると嬉しいです。
クラリス=フォン=エクレール。
所持金 金貨591枚 銀貨7枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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