44話 大会賞品と温泉施設
蜻蛉帰りで再び2日かけて新都市予定地に戻ってきた俺らは唖然とした。
先日ここを立ってから4日しか空けていないはずなのに、既に高さ15mほどの石壁が、半径5000mほどある都市部分の土地をぐるりと取り囲むように建設されていたからだ。
えぇ……。
なんか浦島太郎になった気分。
ほんとに4日しか経ってないよね?
呆然と街の入り口である大きな門を見上げて立ち尽くしていると、中からトルネさんが現れた。
「スズヤさん!お待ちしておりました!!」
「あ、ああ。とんでもない速度で壁の工事が進んでるみたいだね」
「ええ!明日中には外壁は完成できそうです!既に仮設住宅は完成し運用中で。フランゼ商会の大型倉庫も1つ完成。そして昨日からは居住区画の建設が始まり、1割ほど進んでおります」
この規模の外壁が5日で完成って、1000人規模の作業員が必要なレベルだよね?
見たところ200人弱しかいないように見えるけど?
居住区画って、図面で見たけど、7割ほどのエリアだったよね!?
それが一日で1割!?
「壁もそうなんだけどさ。色々と流石に早すぎない……?」
「それはスズヤさんが卸してくれた栄養ドリンクの賜物です!!私もスズヤさんが王都に戻られた日、限界を超えるために服用しましたが、素晴らしいです!!効果中は無限に体力が湧き続け、疲れを知らない体になれるのですから!!これさえあれば疲れ知らずです!」
うーん。エナドリジャンキーみたいな発言。
トルネさんが限界を超えざる得ない状況を作り出したのは俺だから反省してるけど、トルネさんはほんとにワーカホリック過ぎるから休んでほしい。
私生活と自分の時間をないがしろにし過ぎだよ?
「さっ!そんなことよりも!このペースだとおよそ1か月後には完成を迎えられそうですので、ボードゲーム大会について話を詰めましょうか!!」
俺もその話をしに戻ってきたわけだけども。
ただでさえ過重労働のトルネさんに、これ以上仕事を課すのは気が引けます……。
その後、ボードゲーム大会の会場は街の広場に仮設の会場を用意して行うこととし、開催予定日は今日から1か月後の来月の頭に開催することで決定。
そして重要な相談内容は賞品についてだ。
想定よりかなり前倒しになるので、急いで賞品を決めて用意する必要があるとのこと。
「うーん。参考までに。こういった大会の商品ってどんなものが主流なの?」
「そうですね。近しいイベントですと、大食い大会や剣術大会などは偶に興行として開催されてまして、そこで用意される商品は、その町の高級宿の宿泊権とか名産品、便利な魔道具、あとは無難に賞金とかですかね?」
宿の宿泊権か。
宣伝も兼ねるなら温泉施設の宿泊権はありかも?
あとは魔道具か。
【ふるさと納税】でそれっぽいのを用意するか?
でもどんな能力が付いているかは購入後に鑑定してみるまで分からないからなぁ。
副賞として俺の方で何か考えてみるか。
「トルネさんは何か案ある?」
「そうですね。娯楽の大会ですし、魔道具とかお金より娯楽に関する賞品の方が参加者には喜ばれそうかな?とは思いますねぇ」
街起こしの娯楽イベントだもんなぁ。
ん。街おこしか。
「優勝者には温泉施設のフリーパス権1年、準優勝者にはフリーパス権3か月、3位はフリーパス権1か月、16位以内入賞者全員に一日無料券なんてどう?それなら温泉の宣伝にもなるし、大会参加者全員に温泉を体験してもらうきっかけにもなるし。一応副賞で渡せそうな形あるものも俺の方で検討してみるよ」
「それです!それなら同じ賞品の使い回しで毎年大会を開催できますし、温泉とボードゲーム両方が互いに宣伝として機能します!!両実質無料でどちらの宣伝も兼ねるということですね!!商人らしい着眼点です!!」
うん。ごめんそこまで考えてなかった。
「んじゃ賞品についてはそれで決定かな?他には何かある?」
「そうですね。価格設定に少し迷っています」
「価格設定?」
「はい。ファーランド王国にはこのような施設はありませんし。温泉施設をエリア毎に区切ることで個別に利用してもらえるように別途利用料を取るべきなのか、一律で全ての利用料を取るべきなのか」
「うーん。それは別途がいいかな。娯楽の街を謡うなら自由にしてほしいから。温泉エリアだけを利用したい人、プレイエリアだけ利用したい人、リラクゼーションエリアだけ利用したい人もいるだろうし、安価で自分の目的の部分だけ楽しめる方が入りやすいと思うんだよね」
「確かに……。利用しない施設の分の料金まで取るってなると、興味ないエリアの利用を強制することになりますね」
「うん。だから温泉エリアだけの利用なら入り放題で銀貨1枚、プレイエリアなら1時間黄銅貨3枚、マッサージエリアは1回利用で銀貨2枚とか、個別に価格設定をした方が利用者は安価で楽しめると思うんだよ。あとから別エリアを利用したいと思えば別途支払うだけでいいしね。その分、従業員の手間は増えることになるけどね」
「利用者が満足して楽しんでもらえるために、手間を惜しむなってことですね!!」
「まぁそんな感じだね。あ、今言った価格設定は適当だからトルネさんが採算が取れると判断した設定で調整してね」
「了解しました!ではすぐに仕上げてしまいますね!!」
うん?何を?
トルネは鞄から紙を2枚取り出し、何かをすごい勢いで書き込んでいった。
「出来ました!!エクレール公爵家主催のボードゲーム大会の告知と温泉施設開業の告知です!!こちらをエクレール公爵様とクラリス様にも確認いただき、問題が無ければ直ぐに筆写師に依頼して複製増版してもらって各地に配布しましょう!」
筆写師?
コピー機とかないから手書きで複製する人ってことか?
この世界、ガリ版印刷とか、活版印刷とかまだないのかな?
「わかった。んじゃこれは俺が王都に戻って届けておくよ」
ほとんど全てトルネさんとクラリスさんがやってるから、俺がやることといえば、クラリス嬢やエクレール公爵へ確認と報告するために王都に話を持ち帰るくらいだからなぁ。
あれ?俺役に立たな過ぎて相談役というより伝令役になった?
あまり馬車での移動ばかりだと、エン爺とライアはともかく、まだ子供のシアとエルは大変だからどうしたものか。
「あ、スズヤさん。それと――」
「ん?」
「温泉施設の従業員に関して、クラリス様に相談しておいていただけますか?流石にフランゼ商会ではそこまで多くの人員を抱えて居らず。ですが目玉となる施設ですし客商売に慣れた人員を集められたらいいのですが」
そうか。もともと半年後までに集める予定だったから、温泉施設の従業員がほとんど決まってないのか。
「わかったクラリス嬢とエクレール公爵に相談してみるよ」
※ ※ ※
ヘイゼル侯爵は部下からスズヤに関する情報を確認していた。
「スズヤは頻繁に王都と新都市を馬車で往復しているとの報告が上がっております」
「そうか。わかった……」
はぁ。
既に私とグエル商会とのつながりも露見し、ライナー殿下とのつながりも消え、私を支持する貴族たちはエクレール公爵家との対立を恐れ、皆離れていってしまった。
私はどこで間違えたのだろうか……。
スズヤとエクレール公爵め!
せめて一泡吹かせてやらねば気が済まん。
※ ※ ※
「おい!出せ!俺はグエル商会の会頭ラーサンだぞ!!」
フランゼ商会襲撃犯として牢に捕らわれたラーサンは扉をたたき騒いでいた。
「うるさい。お前は既に罪人。ただのラーサンだ」
警備の兵士は淡々とした口調で事実を告げる。
「だまれ!いいからここから出せ!俺を出してくれれば金を払ってやる!」
「はぁ……」
毎日毎日懲りずにうるさい奴だな……。
近々犯罪奴隷として売り出されるそうだが、こんな奴に果たして買い手が付くのだろうか……。
所持金 金貨596枚 銀貨3枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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