41話 動き出す者達
1000年ぶりに解放された禁足域に、エクレール公爵家とフランゼ商会が協力して新都市開発に乗り出した初日に、フランゼ商会の馬車がグエル商会会頭ラーサンの指示で襲撃を受けたという情報は一晩で王都中に広まった。
そして捕縛されたグエル商会会頭のラーサンは、何を尋ねてもヘイゼル侯爵の名をしきりにだす上。
野盗に扮していた者たちはグエル商会子飼いの傭兵たちで、その傭兵を紹介したのはヘイゼル侯爵という情報まで調べ上げられ、ヘイゼル侯爵も追い込まれつつあった。
「くそっ!あのバカ者め!落ちるなら一人で落ちてしまえばいいものを!!」
しかしあのバカがこんな無謀な策を自分で実行するか?
誰かに何かを吹き込まれたか?
くそっ!何故こうも何もかもうまくいかない!!
各所に金を投じ、様々な段取りを踏んでいるのにどうしてこうも全てが狂うのだ!!
最初はフランゼ商会。
落ち目の紹介をラーサンを通じて手に入れて子飼いの商会にするはずがフランゼ商会はボードゲームの利権を得て復活を遂げ目論見は失敗した。
次に長女のクラリスがエクレール公爵領で代官をするタイミングを狙い、フリーゲル王国と内通して戦を仕掛ける予定が、禁足域の解放によりクラリスが新領地の代官に任命されたことで狂い。
軌道修正してエクレール公爵を領地に縛り付けるためにフリーゲル王国を動かしたにも関わらず、獄炎龍の奇行により報復を恐れたフリーゲル王国は完全撤退し、全てがパァに。
そしてここにきてラーサンが無茶をして捕縛されたことで、私にまで言及が及ぶだとぉ!!?
ハッ!?
ボードゲームの開発者はスズヤ。
フランゼ商会の立て直しに一役買っている。
禁足域へもスズヤらしき商人が龍の牙と同行したという目撃情報がある。
そして昨日、ラーサンを捕縛して王都の中を敢えて目立つように連行していたのもスズヤ。
獄炎龍の奇行を除けばほぼ全てスズヤが関わったことが原因で私の目論見が潰されている?
おのれ、スズヤめぇ!!
その時、ガチャリと部屋のドアが開き、ライナー殿下がヘイゼル侯爵の部屋に入ってきた。
「殿下?」
「君に任せたのは間違いだったらしいな」
「お待ちください!!全てスズヤが現れたせいです!スズヤさえいなくなれば!」
「娯楽品を開発したらしいが、商会すら持たず、パッとしない流れの商人に踊らされるとは。貴様が俺を次の王に押し上げ、クラリスと婚姻出来る段取りまで約束するというから協力したというのに!いったいどういうことなんだ!貴様を押していたことで俺の権威は失墜寸前だ!これ以上の援助は無理だ。貴様がスズヤという男にそれほど固執するというのなら、俺がスズヤを使ってやるまで!そうすれば俺の権威は回復する!!」
くそ、何がクラリスとの婚姻だ。
無能なこいつを王に擁立できれば、裏から実権を握れると思い協力したのが間違いだった!!
幼い頃からフラれ続けている癖に、あきらめが悪い無能な王子め。
ギリィとヘイゼル侯爵は歯をかみしめる。
「スズヤをどうやって操るおつもりですか……」
「俺は第二王子だぞ?御用商人に召し上げて、少し支援してやればすぐにでも尻尾をふるだろうさ。商人は金に目が無いからな」
いや……。
殿下の目論見は恐らく失敗するだろう。
これまでしてきたことを振り返って考えると大事の後にはスズヤが見え隠れしているように思う。
しかしスズヤという男の話題が一切に話題に上がらぬということは、フランゼ商会や龍の牙、エクレール公爵家の陰に隠れ、表に出ないように立ち回っている節が強い。
自らの功績を他者を目立たせることで隠せるほどの器用な男なのであれば、相当に狡猾で慎重な男に違いない。
悔しいが、この私でさえもこれまで謀られていたのだから……。
もっと早くに気が付いていれば……。
※ ※ ※
その頃、スズヤ一行はエクレール公爵家が手配した夕方発の馬車に揺られて新都市予定地に向かっていた。
はぁ。片道2日かぁ。
いつものようにエン爺の背に乗って飛んで向かえたらなぁ。
「王手!!」
「あっ!エルずるい!その手、待った!」
シアとエルは退屈な馬車の旅をボードゲームで時間をつぶしていた。
多くの作業員が乗る馬車を想定していたが、夕方出発の便は夜営が1回増える分、人気が無いのか馬車の中は意外とすいていた。
「へぇ。それが最近話題のボードゲームか。面白そうだな」
作業員として同乗していた男の一人が声をかけてきた。
他の者も、ただ馬車に揺られるだけの時間を潰せるならやってみようと思ったのか、身を乗り出して覗き込んでいた。
「やってみますか?リバーシと将棋、チェスの3種がありますのでお好きなのを。ルールは説明しますよ」
およそ2時間後――
完全に日も落ち辺りが闇に包まれたので馬車を止め、護衛の人だ地は夜営の準備を整え。
「チェックメイト!」
「あっ!お前!駒をずらしただろ!!」
「言いがかりだ!」
雇われ護衛の人たちはテントの設営と馬の世話で忙しく動き回り。
暇を持て余した作業員たちは、携帯食の堅いパンや干し肉を齧りながら焚火の明かりを頼りにボードゲームに興じている。
俺たちはその間にこっそりと【ふるさと納税】で購入したパンと果物を取り出し食事にした。
シアとエルが揺れる焚火を眺めながらうとうとと舟をこぎ始めたので、俺は用意してあるテントを1つ借り二人を寝かせた。
もちろん布団も4セット購入してちゃんと用意してあるし、テントの周りには虫よけもしてある。
・新生活応援布団セット 3万円
固綿の体圧分散で、腰や背中の負担を軽減。
肌ざわり滑らかな生地。
厳選された極上ランクの羊毛を使用してあるので調湿、保湿性抜群。
快適な眠りを保証します。
【環境調整】
【疲労回復】
・虫除けスプレー 3本入り 1万円
アルコールフリー。
天然素材だけを配合し、安心安全。
爽やかなミントの香りで清涼感も演出します。
【虫除け効果】8時間
よし、これで快適に眠れそうだな。
「んじゃみんなおやすみ~」
※ ※ ※
黒ローブの女性は依頼人の元へ戻り、見て来たことの報告をしていた。
「――ってなわけで、その後は呑気に娯楽品で遊んだ後は普通に夜営してたわよ」
「ご苦労様。もう一つの依頼の方はどうなってる?」
「ああ、そっちなら対象と接触してたわよ。どうする?私がやっちゃう?」
「いや、もう少し泳がせておくとしよう」
「ふーん。まぁいいけどね。依頼はもう完了ってことでいいのかしら?」
「いや、今しばらくスズヤの同行を調べてほしい」
「これ以上調べたとこで何も出てこないかもしれないわよ?確かに護衛の二人は強いけど、あんな平凡なおじさんにそれほど固執する理由が?」
「それを調べるのが君の仕事だろ?」
「いいわ。ひと月の調査で追加で500ね。前金で金貨250出すなら受けてあげる」
「あまり欲をかくと身を亡ぼすぞ?」
「ふふっ。ご忠告ありがと。んじゃまた報告に来るわ。王子様っ」
傭兵らしき女は黒ローブのフードを被り姿を消して去ってゆく。
傭兵と話していた相手の正体は、ファーランド王国第一王子、ハロル=フォン=ファーランドであった。
所持金 金貨1434枚 銀貨3枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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