40話 ラーサン捕縛
遂に始動した新都市計画。
昨晩は夜も遅いとのことでエクレール公爵邸に宿泊させてもらった。
目を覚ましてクラリス嬢の元に挨拶に向かうと、トルネさんは夜明けとともにフランゼ商会へ向かったと聞かされる。
「私もこれから龍の牙の方々と合流してから、設計を担当する方の元へ打ち合わせに行く予定です」
二人とも朝からメッチャアクティブ!
ディル様はクラリス嬢に同行するらしい。
エクレール公爵の代わりとして来てるんだったね。
アレク達も今日からクラリス嬢の護衛か。
俺はどうするかな?トルネさんが現地に来るのは早くても2日後か。
先に乗り込んで人目に付かないところを探してトレーラーハウスを設置できそうな場所でも探すかな?
エクレール公爵家を出て、クラリス嬢達と別れ俺達は街の北門へと向かった。
※ ※ ※
「ヘイゼル様!例の男が早朝にエクレール公爵家から出て、王都の北門から街を出たそうです!」
「この2日動きが無かったようだが、ようやく動き始めたか」
このタイミングで北門から出たのであれば、目的はただ一つ。
エクレール公爵家の新領地の都市開発地へ向かったのだろう。
ここ最近フランゼ商会とクラリスが協力して動いているのは耳にしていた。
フランゼ商会と関りのあるスズヤも一枚噛んでいるのではと踏んでいたが、やはりな!
王都を離れるのであればこの機会を逃す手はない!
「すぐに例の者たちへ連絡を。商人スズヤが連れる赤髪の少女を連れてくるように指示を出せ」
「はっ!ただちに!」
「ふふっ。いくら老兵が手練れであろうと、森の中で襲撃を受け、多勢に無勢の状況では雇い主のスズヤを守るので手一杯のはず。少女をこちらで確保してしまえば彼はこちらに従うほかあるまい。これで上手くいけばスズヤと繋がるフランゼ商会やクラリスも傀儡にできるだろう」
獄炎龍の気まぐれで計画は悉く失敗したが、最初からこうすればよかったのだ!手を汚すことを嫌って目立たないように手を動かしてきたが、街の外であれば人目も限りなく少ない上、証拠を残さぬ手段はいくらでもある!
その時、ガチャリと部屋の扉が開いた。
「ヘイゼル様。ライナー殿下がお目見えになられました。応接の間で待機していただいております」
「……わかりました。すぐに伺うと伝えてください」
くっ!もう殿下の耳にもフリーゲル王国の誘導が?
失敗した件の言及にでもきましたか……。
ヘイゼルは応接の間へと思い足を運んだ。
「ようこそおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「白々しい。私が昨日西の国境沿いに獄炎龍が来訪した件を知らないとでも思っているのか?」
「失礼しました……」
くっ!偉そうに!第二王子のくせに奔放で無能だったせいで王位継承レースから外されそうだったところを復権したのは誰のおかげだと思っているんだ?
「それで?どう責任を取るつもりなのだ?私に協力するというから貴家には支援をしていたのだが?」
「フランゼ商会とクラリスとも関係を持つスズヤを利用します。上手くいけばクラリスにも言うことを利かせられる可能性が高いかと」
「スズヤか。父も兄も彼を高く評価しているらしいが、ボードゲームを開発しただけのただの流れの商人だろうに。その男を利用してクラリスが本当に動かせると思うのか?」
「確証はありません。ですが、王都のエクレール公爵邸に度々スズヤが訪れているのを確認しております。今朝はエクレール公爵邸から出てきて笑顔でクラリスと挨拶を交わし別れるところを私の部下が確認済です。公爵家とも在ろう者が、価値のない一介の商人を家に泊め置くなどありえません」
ヘイゼル侯爵の話を聞き、ギリィ……とライナー殿下が歯をかみしめる音を立て、ゆっくりと口を開く。
「公爵家に一泊していたのか?」
「いえ、部下の報告によると2日程スズヤは屋敷から出てこなかったらしいです」
「わかった……。必ずスズヤを捕らえるようにしろ。捕えたら私にすぐに報告を」
「畏まりました。数日中には達成して見せましょう」
そこへ勢いよく扉を開けて入ってくるヘイゼル侯爵の部下の姿が。
「なんだ貴様!殿下も居られるのだぞ!?」
「も、申し訳ございません!火急の報告にて失礼します!」
火急の報告?こんな時になんだ!?
「……話せ」
「グエル商会のラーサンが王都北の森でフランゼ商会の馬車に略奪を仕掛けたところを通りがかりの商人に捕縛されたとのことです!!」
「はぁぁぁ!?」
あのバカ!何をやっているんだ!?
通りがかりの商人……?
まさかな?
※ ※ ※
「んで?こいつらこれからどうしたらいいの?」
俺の目の前にはライアのツタで縛り上げられた15名の傭兵とラーサンが居た。
3時間ほど前――
俺たちは新都市の建設予定地に向かうべく王都を出て北へ向かっていた。
するとエン爺とライアが何かに反応を示した。
「ふむ。この先か?」
「うん。戦ってる」
「え?誰かが魔物と戦ってるの?」
流石に助けた方がいいよな。
「違う。トルネが人に囲まれてる」
はぁ!?野党か!?
「エン爺!ライア!先行して助けてあげて!殺しちゃだめだよ!」
そして俺とシア、エルが息も切れ切れになりつつ追いついたころには、フランゼ商会の馬車を襲っていた集団は、二人に捕らわれ、簀巻きにされて地面に転がっていた。
「すずやさああああん!!」
トルネが抱き着いて来た。
どうどう。
「無事でよかったよ」
「私と馬車は無事なのですが、商会専属護衛の人たちが怪我を……。流石にこの状況では彼らに護衛はままなりませんので、悔しいですが今日は一度引き上げるしか……」
「それなら多分大丈夫。ライア」
「ん」
ライアは怪我した人々をツタで包むと、見る見る傷が回復していった。
いくらフランゼ商会従業員とはいえ、トルネ以外はライアの正体を知らないので。
「彼女は植物を操る魔法と治癒魔法が得意なんです。怪我をした人は彼女に診てもらってください」
そういってトルネにウインクする。
トルネはハッとした顔をして察してくれた。
「ええ!彼女はヒーラーなので診てもらいましょう。ありがとうございます!これで引き返さずにすみます!」
「それはよかったけど。こいつらどうする?」
「王都に戻って傭兵詰め所に、と言いたいところですが、ラーサンが居るということはヘイゼル侯爵の手の者の可能性もあるので、傭兵ギルドへ引き渡しましょう。馬車を一台空けるのでそこに詰め込んで王都へ向かわせます」
「いや、そこまでしなくてもいいよ。そっちはそのまま予定通り予定地に向かって。俺らがギルマスのところに連れていくから」
「いいんですか?」
「うん。俺は別に急いでないからね。あ、ただ証言はほしいから一人だけついて来てもらってもいいかな?」
「わかりました」
馬車を操る交替要員として同行していた職員が野盗とラーサンに襲われたという証人として来てくれることになった。
「ライア?どうした?いくぞー」
ぼーっと森の中を見てどうしたんだろ?
果物でも見つけたのかな?
「ん。なんでもない」
その後、野盗とラーサンを縄で縛りなおして全員の手足を繋いで簡単に逃げられないようにして、全員が目を覚ますのを待って歩かせようとすると、ラーサンが暴れ始めた。
「おい!貴様!縄を解け!!俺にこんなことをして済むと思っているのか!?ヘイゼル侯爵が黙ってないぞ!!!」
はぁー。
ほんとに他人の威を借るバカってどうしてこう傲慢なんだ。
「ラーサンさんだっけ?ヘイゼル侯爵が何と言って来ようと、フランゼ商会の馬車を襲撃した事実は消えません。あなた方には相応の罰を受けていただきます」
「うるさい!何故俺が罰を受ける必要がある!!罰を受けるなら貴様の方だろうが!!」
は?意味が分からない。
何を言っているんだこいつは?
「知っているぞ!貴様は幼女を不当に攫って違法奴隷として手籠めにしているのだろう!その3人をこんな危険な森にまで連れまわしているのがいい証拠だ!!奴隷でもない少女を手籠めにするなど立派な犯罪だ!!不埒ものめ!!」
あぁん!?
誰が幼女誘拐だ!
それに俺はロリコンじゃないからな!!
くそっ。ヘイゼルか?ヘイゼルだな?
ヘイゼルが吹き込んだのか?
いいだろう。名誉棄損の代償はいつか必ず支払ってもらうぞ。
ぎゃぎゃー騒ぐラーサンはうるさいので口に布を巻き、強制連行して3時間ほどかけてようやく王都に帰還した。
その後、16人の縄で繋がれた集団が傭兵ギルドに向かう様はかなり目立っていたそうで、目の当たりにした人々の声で街中がざわつき始める。
「グエル商会が遂に捕縛されたらしいぞ!」
「なんでも野盗を装って街道で馬車を襲撃して儲けてたって話らしいな」
「ラーサンの野郎は傲慢でいけすかねぇ奴だったからせいせいするぜ」
半日も経たずにラーサン捕縛の噂は王都中に広まった。
ギルマスのところに連れていくと。
「バカ野郎!!うちに連れてきてどうしろってんだ!」とどやされた。
ラーサンはヘイゼル侯爵が後ろ盾についているらしいから衛兵を通じて釈放されかねないから連れてきたと正直に伝える。
「にしても街中をその状態で連れ歩くのは流石にやり過ぎだ……。お前がここに来る前にラーサン捕縛の報告が俺の耳に入ってきたくらいだからな……」
「こいつらに襲われたフランゼ商会の方を一人証人として連れてきました。彼女とこいつらはおいて行くのであとはギルマスの方でうまいことやってもらえると助かります」
「まてまてまてまて!面倒だからって丸投げし過ぎだろう!!」
「だって他にこの街の偉い人を俺は知りませんし。俺は調査とオークションの件で協力したのでこれくらいのお願いは聞いてくれますよね?」
「ぐっ!……わかった。こいつらはこっちで処理しておこう……」
よし!勝った!!
※ ※ ※
森の中からスズヤたちを遠目で確認している黒いローブを纏う一人の女性姿があった。
「ふーん。彼がスズヤ=ミナトか。あの冴えないおじさんがねぇ……」
依頼人に言われた通り、酒場で後ろ盾の侯爵に切り捨てられそうになってやさぐれていたバカな商人を唆してみたら、簡単に動いてくれたけど。バカが用意した傭兵は精々C~Dランク程度の強さの奴ばかり。
そのせいで護衛の二人の力も少ししか見れなかった。
でも、力を抑えていたとはいえ、少なくともAランクと同等以上はありそうね。
それにあの赤い髪の少女、一瞬私と目が合ったような……?
気のせいよね。
「……もう少し調査を続けてみるとしますか」
女性はローブのフードを被ると、一瞬でその場から姿を消した。
所持金 金貨1449枚 銀貨5枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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