4話 傭兵ギルドと商業ギルド
翌日、市場で色々な食材や食器を買い込み、出立の準備を進めることにした。
どこに行くのか?って?
この『国以外の何処か』です。
勝手に召喚した挙句、王様に処刑されかけた上で追放を言い渡された国になんて居たくないし。
この鞄のことを考えると、変に目を付けられる可能性もあるし。
まだ【ふるさと納税】で購入したからかはわからないけど、異世界の品に付加価値付きの品を呼び出せる能力なんか持ってると知られたら、呼び戻されて飼い殺しにされ、戦争に利用される未来が見える。
……さっさと逃げるに越したことはないな。
早速市場をめぐり、最低限必要になりそうなものとして、食器や調理器具、カトラリー、着替え、そして保存食を購入へ向かう。
最初に見つけたのは肉屋。
干し肉を見つけたので、購入前に何の肉なのか聞いてみる。
「それはラウンドボアのお肉だよ!こっちはグラスワインダー。お兄さんの前にあるのがグランドシープの干し肉だねっ」
丁寧に説明をしてくれたけど、聞いてもさっぱりわからない!!
えっと、猪と蛇と羊ってことでいいのかな……?
蛇……?まぁ食えればいいか。
生肉は鶏肉っぽい物を数キロだけ購入。
ドライフルーツも同じで、聞いてもさっぱりだった。
干し肉やドライフルーツは見たことない肉や果物ばかりだけど、店で売ってるんだから問題ないだろう。
俺は考えるのを諦めた。
雑貨屋で食器類とカトラリー、そして調理器具を購入。
万が一の夜営に備えてテントや寝具、キャンプグッズもチェック。
これらは日本製の方がいいかとも思ったけど、【ふるさと納税】は謎の機能が付いてる可能性もあるし、何より収入がない今は流石にすべてが高価すぎる。
なんでもかんでも【ふるさと納税】で購入してるとすぐに破産するのが目に見えている。
それに、それらを使用しているところを人に見られた場合、絶対怪しまれるので念のため一式を雑貨屋で購入した。
使い勝手が悪かったら、バレない程度に【ふるさと納税】で買い足せばいいよね?
それにしてもこの鞄、どれだけ入るんだ……?
その後、自炊用に調味料や小麦粉、日持ちしそうな根菜と数日分くらいの葉野菜を購入。
調味料は塩と砂糖、胡椒しか売ってなかったけど、スパイスは高価だからあまり出回ってないのかな?
そう思って店内を見ていると、お茶としてハーブ類が少し売られていた。
勿論それらも購入。
会計を終えてから店員のおいちゃんに、どこの国が安定しているかそれとなく聞いてみる。
「なんだ?大量に買い付けたかと思ったら、あんたも他国に行くのかい?まぁ戦争の噂もあるしなぁ。安定という意味では小国だけど東のファーランド王国だろうな」
話を詳しく聞くと、ファーランド王国は国土のほとんどが森で、王都から北側へ向かうと有名な岩石地帯と活火山という具合で、隣国も戦争を仕掛けてまで奪おうとするほどメリットのない土地の国だという。
「その国に行こうかな」というと、「本気か!?ってか護衛も無しにか?やめとけやめとけ」と言われる。
「森や山には魔物も出る。護衛なしじゃひょろっちいお前なんて直ぐ死んじまうぞ」と。
色々と買い物をしたら金貨60枚以上消費してしまったけど、必要経費と自分に言い聞かせた。
護衛かぁ。と考えつつ街を歩いていると、人とぶつかった。
「いてっ!すみませ――」
前に目を向けると、明らかにガラの悪そうな眼付きの悪い青年がこちらをガン見していたので血の気が引いた。
いかにも戦闘を生業にしてます!といった恰好をした大剣を背負った青年。
ひっ!?
俺は不興を買わないように慌てて謝ろうとする。
「ごめんなさ――」
しかし、意外にも向こうからも詫びを入れて手を伸ばしてきた。
「わりいなおっさん。大丈夫か?」
顔つきのわりに意外と好青年だった。
人を見た目で判断するのは良くないね。うん。
青年の隣にいた軽装で小柄な女性は、俺にぶつかった青年の方を見つめつつ、やんわりと青年を非難する。
「アレク。昨日も人とぶつかってたよねー。ちゃんと前向いて歩いてる?」
「わりぃわりぃ、あそこの屋台の肉串の匂いがめっちゃ美味そうで気になってな」
「そんな注意散漫具合だからゴブリンの糞を踏んじゃうんだよ~」
「なんだと!?」
「なにさ!」
剣士の男と小柄な女が道の真ん中で言い合いを始めてしまった。
「全く……。すみません。うちのメンバーが」
白いローブを身にまとった優しそうな金髪の女性が周囲に頭を下げる。
そして背中に大きな金属の盾を背負った大柄の男が喧嘩する二人の頭を鷲掴みにして注意する。
「いい加減にしろ。またギルドから謹慎を食らう」
大男とローブの女性に青年と小柄な女性は引きずられる形で、その場を去っていった。
何だったんだ……。
でも4人とも強そうだったなぁ。
あれが冒険者とかなのかな?
護衛料って高そうだけど背に腹は代えられないし、ちょっと怖いけど、護衛を頼んでみるとするか。
その後、俺は行きゆく人に護衛を雇える場所を聞いて回った。
色々聞いたところ冒険者ではなく傭兵という職業がこの世界では何でも屋として一般的らしい。
教えてもらった場所へ向かうと石造りの大きな建物にたどり着いた。
「失礼しま~す……」
建物の中に入ると、見るからにガラの悪そうな風貌の者たちがちらほらいる。
そんな人たちの視線を一身に浴びつつ、びくびくしながら奥へと進む。
すると先ほど街中で遭遇した4人の姿を見つけた。
「あれ?おっさんも傭兵だったのか?」とアレクと呼ばれていた青年が声をかけてくる。
俺は傭兵を雇ってファーランド王国に向かおうと考えていて、ここに来れば傭兵を雇えると聞いて来たことを素直に伝える。
すると4人が顔を合わせ笑みを浮かべた。
「丁度いいな!俺らもファーランド王国に向かおうとしてたとこなんだ!その依頼俺らが受けるぜ!」
先ほどの雰囲気を見た感じ、この4人はいい人そうだし彼らを護衛に雇えるなら道中も楽しそうだ。
「それは助かりますけど、いいんですか?」
「護衛依頼があればラッキーと思ってここに来てみたけど、ファーランド王国へ向かう護衛依頼は無かったんだ。仕方がないからそのまま向かおうと思ってたところだったしな。ファーランド王国は田舎だし滅多に護衛依頼なんてないからダメ元で来てたけど、にいちゃんに会えたからツイてたぜ!」
そのまま俺は依頼を発注するため、青年に連れられカウンターへ向かう。
カウンターで待機していた受付嬢に青年が「この人がファーランド王国に向かう護衛依頼を出したいんだと!そしてその依頼、俺らが受けるからよろしく!」と伝えてくれた。
依頼の出し方もわからなかったので全部言ってくれてほんと助かります。
受付の女性はこちらを見てニコッと笑顔を見せ口を開く。
「龍の牙の方々が受けるなら安心ですね。貴方、とっても運がいいですよ♪ファーランド王国へ護衛で向かう冒険者はとっても少ないので、普段であれば数週間は待つところですからね」
「数週間……」
そんなにこの国で待ちぼうけを食らっていたら糞王に呼び戻されかねないからさっさと出国します!
「依頼料ですが、ファーランド王国の王都までの護衛であれば、ギルドの馬車手配込みで金貨50枚になります」
金貨50枚って50万!?
高い!と思ったが、戦闘が専業の傭兵を4人雇うのだから安いのか?と考えを改める。
野盗とかに全部奪われる可能性を考えたら、ここで50万払って安全を買うべきだよな……。
そこに追い打ちをかけるように受付嬢が追加情報を耳打ちで告げてくる。
「本来であれば、Bランクの龍の牙に指名依頼で護衛を依頼するとなると、金貨100枚は掛かりますよ?」
半額なら迷うことはない!
ささっと金貨50枚を支払い、依頼書を記入し、アレクがそのまま受注書にサインしてくれた。
「はい。これで依頼の発注と受注完了です♪明日の朝の出立ですね。馬車はこちらで手配しておきます。この札を明日の朝、街の東門広場で傭兵ギルドのマークの付いた馬車を用意している職員に提示ください」
傭兵ギルドのマークである狼の模様と数字が書かれた金属製の札を受け取った。
見たことない数字だけど何故かそこには3と書かれていると読み取れる。
書類を記入するときもそうだったけど、文字が理解できるのは召喚特典なのか?
ん?そういえば今更だけどこの世界の人と会話も普通にできてるな。
「いやぁ助かったぜ。これで旅費を浮かせられる!」
傭兵ギルドを出たところでアレクはご機嫌にそう言った。
自費で馬車を借りたりすることを考えると、予定地に護衛依頼で向かえば馬車代は掛からない上に依頼料も貰えるから渡りに船ということか。
「こちらこそ、直ぐに護衛を受けてもらえて助かりました。出来るだけ早くこの国を出ようと思っていたので」
王城を追放されたはいいけど、あの王のことだ。
連れ戻せ!といつ言い出すかわからない。
出来るだけ早くこの国を離れるに限る。
「んじゃ俺らは今日中に準備を済ませてくるから、明日の朝に東門前広場でな!」
そう言って龍の牙の面々は去っていった。
その後、午前中に既に買い物を済ませていた俺は特にやることもないので、大量のリンゴの処分について考えていた。
うーん。リンゴは傷みやすいからなぁ……。
美味しいけど流石に毎日食べるのは飽きるし、市場を見てもリンゴは売ってなかったけど、もしかしてこの世界では存在しない果実だったり、希少だったりするのか?
もしそうだったなら1個1000円(銀貨1枚)くらいで売れないかな?
思いつくままに商業ギルドへ向かったというのもあるが、これから生計を立てるなら傭兵は無理だから商業ギルドに登録しておくに越したことはないと思ったのもある。
「すみません。商業ギルドへの登録と、持ち込み品の買取をお願いしたいのですが」
「登録と買い取りですね。少量の取引であれば構いませんよ。まずは登録からいたしましょうか。こちらにご記入ください」
受付の女性に手渡された用紙に記入していく。
販売形態は、店舗もないし行商かな?
経験は一応ありになるのか?学生時代スーパーでバイトもしてたし。
スキルの記入欄もあるけど、空欄でもいいのかな……?
鑑定だけでも書いておくか。
「はい。確認いたします。行商ですね。既に経験もおありでしたか。えっ!?鑑定スキル持ちですか!?」
「え、ええ。鑑定って何か問題が?」
「鑑定スキルなんて、商人であれば喉から手が出るほど欲しいスキルですよ!!数千人に1人しかもっていない希少なスキルですし!!スズヤ様は大成されそうですね♪」
「へ、へー!らっきー」
あまり大きな声で言わないで!
この国であまり目立ちたくないんです!
それに、鑑定よりももっとやばいスキルがあるんです……。
「……もっと喜んでくださいよ?まぁとりあえず書類はこれで大丈夫ですね。登録料は金貨5枚になります」
登録だけで5万!?
商人だし販売登録の手数料ということかな?
ギルド証が身分証と販売許可証代わりになるんだろうし。
たった5万払うだけで、今後は営業許可とか販売許可とかいちいち取らなくていいのなら安いか。
俺は、そう納得して大金貨を1枚差し出す。
「はい。確かに。こちらがスズヤ様のギルド証になります」
ギルド証を受け取ると裏面に名前が浮かび上がった。
「おー。すごい!名前が勝手に」
「ふふっ。鑑定スキルの希少性について知ったときよりも楽しそうですね」
「え、いや、まぁ」
「登録時の情報はギルドに保管されますので、紛失や盗難にはくれぐれもご注意ください。再発行には金貨15枚が必要となりますので」
「おおう。お高いですね。絶対なくしません」
再発行の手数料が高いのはギルド証を不正に横流しされないためにかな?
戸籍とかも無いっぽいし、情報管理が難しそうな世界だしなぁ。
「それで、持ち込みの品物というのは?」
「ああ、これです」
鞄からリンゴを1つ取り出した。
すると、リンゴを見た瞬間から受付嬢の目の色が変わった。
先ほどまで微笑みを浮かべていた女性は急に真顔になり真剣で鋭い目つきを見せる。
そして目を見開きリンゴをじっと見つめてから口を開いた。
「……すみません。こちらの果実を一旦、お預かりしてもよろしいですか?」
「ええ、かまいませんが」
俺がそう答えると、受付の女性は白い手袋をつけ、リンゴをトレイの上にのせ、丁寧かつ慎重に奥へと運んで行った。
リンゴに1つにそれほど慎重になる必要があるのか?わざわざ手袋までして。
はっ!?もしかして、この世界の人にとってリンゴは毒だったりするのか!?
毒物を持ち込んだと思われた!?
それか禁制品だったとかか?
市場でもみかけなかったもんな……。
どうしよう。
うん。もういっそのこと逃げちゃうか!
そう思い、俺はゆっくりと入り口に体を向け、足を踏み出そうとした。
その瞬間。背後のカウンターの方から先ほど対応してくれていた女性の声が聞こえてくる。
「スズヤ様!お待たせいたしました。お手数ですが奥の部屋にお越しいただけますか?とても大事なお話がございます」
あ、逃げそびれた……。
所持金 金貨162枚 銀貨3枚 黄銅貨4枚 青銅貨2枚
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