37話 公爵領観光 慰労も兼ねて1
「ふざけるな!!」
ヘイゼル侯爵は獄炎龍がフリーゲル王国とファーランド王国の国境沿いに現れたという情報を聞き、両手で机をたたきながら立ち上がり怒りを露わにしていた。
「何故このタイミングで獄炎龍があんな場所に!!しかもフリーゲル王国の領土をブレスで焼き払っただと!?何故こうまでもエクレール公爵に都合よく事が運ぶのだ!!!私の計画の何もかもが獄炎龍の動きで狂わされてたまるものか!!」
はっ。
そうだ。
フリーゲル王国は獄炎龍の報復を恐れて攻撃を止めるはず。
つまり、エクレール公爵家の兵の中に密偵を潜ませ、獄炎龍に攻撃させれば……。
「くく。はははは!エクレール公爵が領土を獄炎龍に蹂躙される様が目に浮かぶ!!フリーゲル王国に潜伏していた兵に伝令を。エクレール公爵家の兵に扮して獄炎龍に攻撃を仕掛けるようにと」
「はっ!」
伝令役の兵は直ちに部屋を出ていった。
ヘイゼル侯爵は窓の外を見つめて笑みを浮かべた。
「獄炎龍の怒りを買うのは少々やり過ぎかも知れぬが、奴の領地も潰せるなら一石二鳥。これで殿下との約束も守られる。エクレール公爵。いやバリス=フォン=エクレール。我が積年の恨み、貴様の死をもって果たすとしよう。はははは!」
※ ※ ※
「おかえりエン爺。どうだった?」
「うむ。フリーゲル王国は平原に兵を集めていたようだったのでな。人に当たらぬように傍に何発かブレスを吐いて少し脅しておいたぞ。ファーランド王国側に戻り、近くの森にそのまま降りて人化して森の中を進んで戻ったので奴らは我がまだあの付近に居ると思ってることだろう」
うわぁ……。
脅かしてくるとか言ってたけど、近くにブレスとか流石にやり過ぎ。
ブレスの着弾を近くで目撃した兵士は立ち直れないんじゃないか?
「ご苦労様。はい。報酬のウイスキー。おまけでサラミセットね」
俺は角ばったガラス瓶に入った日本で一般的なウイスキーの6本セットをエン爺に差し出した。
「おおっ!これこれ!くぅ~!この芳醇な香り!たまらぬ!」
「よかったらエクレール公爵様とディル様もどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「すみません。いただきます」
「うむ!酒は皆で飲んだ方が美味いものよ!我に気にせず飲むがよかろう!」
公爵様達に昼から酒精の強い酒を進めていいのだろうか?
俺たちは夜の間にエン爺の背に乗ってファーランド王国西部の森にトレーラーハウスを設置している。
昨夜のこと――
エン爺に威嚇して戦争を止めてきたら報酬にウイスキーを箱で用意するといったら、「善は急げだ。すぐに向かうぞ」と急に張り切り出したので、エクレール公爵家の3人を含め全員で夜のうちにこの森に移動してきたのだ。
ヴァンスさんには明日の夜に戻ると伝え、夜には庭の人払いをしておいてもらうようにしておいた。
流石に公爵家で仕事している人が、庭に獄炎龍が着陸している姿を見たら卒倒しそうだしね。
トルネさんは、空を飛ぶのは絶対に嫌だといってヴァンスさんと屋敷に残った。
エレナさんと同じく高所恐怖症かな?
龍の牙と同じく、流石のエクレール公爵様とディル様、クラリス嬢も、初めての空の旅には放心し、更に着陸後にトレーラーハウスを出したときには理解の限界を超えたのか頭を抱えていたが、一晩休んだら落ち着いたらしい。
理解するのを諦めたともいうかもしれない。
就寝前に「スズヤ殿を自分の常識に当てはめて考えてはいけないからね」と二人に言い聞かせているエクレール公爵様の声が聞こえてきた。
失敬な!俺は常識人ですよ!
【ふるさと納税】で購入したアイテムが非常識なだけですからね。
そして俺たちは後のことはエン爺に任せ眠りについたのだった。
――そして今に至る。
「それにしても凄い魔道具ですね。深い森の中でこんな快適な空間を作り出せるとは……。これがあればダンジョン攻略や戦争の常識が覆りそうですね……」
ディル様がトレーラーハウスを壁や天井をキョロキョロと興味深く見渡しながら言った。
「発光する機能、浄化作用で常に清潔なトイレやお風呂、飲食物を冷却保存できる魔道具、快適な温度に維持できる機能、更に大量の水を生み出せる希少な水の魔石まで組み込まれているのだから、このトレーラーハウスだけでも城がいくつか建てられるほどの価値が在ると思うよ」
魔石ってのはよくわからないけど、たぶん違うと思います。
全部付与された能力による謎機構です。
いつか機構を解明できる日が来るのかな。
ってか城がいくつか建つ!?
トレーラーハウスが城数個分と等価なの!?
「あのー。このことは――」
「ああ、もちろん我々の胸にだけ秘めておくので安心してほしい。ディル、クラリス、いいな?」
二人は静かに頷いた。
「戦争が回避出来たのならこれからどうしますか?」
「私は一度領地に戻るよ。エン爺様のおかげでフリーゲル王国は落ち着いたと思いたいけど。動向を暫く見定めて、問題がなければクラリスの元に送る兵を集める必要もあるからね」
「だったら観光ついでに俺らも同行してもいいですか?ヴァンスさんも待っていると思いますし、夜にはお二人を王都の屋敷にお送りしますので」
丁度いいし、観光ついでに4人が欲しい物でも買ってあげよう。
シアとエルだけに言っても遠慮しそうだし、エン爺とライアにも買うって言えば遠慮しないだろう。
「もちろん構わないよ」
栄養ドリンクを配りつつ、森の中を歩き続けることおよそ3時間。
俺たちは無事にエクレール公爵領に到着した。
道中遭遇した魔物は、ライアがほぼ一人で制圧。
ライアの正体を伝え忘れていたのでディル様が「獄炎龍だけでなく、ドライアドまでも……」と絶句していた。
うん。その反応を見るのにも慣れてきたよ。
街に入るとエクレール公爵が歓迎してくれた。
「ようこそ我が領都フランシルへ。私は関所や兵の様子を確認しなきゃいけないから屋敷に戻るので、案内はディルとクラリスに任せるね」
「お任せください」
「スズヤ様方にフランシルの街を満足していただけるように案内して見せます」
エクレール公爵と別れたあと、みんなにどんなところを見たいか聞いてみた。
するとエン爺は酒屋、ライアは果物屋、シアは武器屋、エルは本屋だった。
エン爺とライアはぶれないけど、シアとエルは何故武器と本に?
「訓練たのしかった!」
「魔法を覚えてみたい」
とのことだった。
うちの子たちが戦闘狂になり始めてる……。
どこかで軌道修正できるかな?もう無理?
クラリス嬢は果物屋と本屋を知っているというので先に案内してもらった。
正直この世界の果物って俺はまだほとんど食べたことが無い。
ブルークリムだっけか?屋台で食べたフルーツ串が印象に残っているくらいだ。
案内されたお店に入ると様々な野菜と果物が並んでいた。
流石国境沿いの街。
王都では見かけなかった不思議な形をしたものも並んでいる。
「ライアどれが欲しい?」
「んー。これとこれ、食べたことない」
ライアが指さしたのは黄色い楕円形のラグビーボールのようなパパイヤっぽい果物と、トゲトゲした片手に収まるサイズのドリアンとドラゴンフルーツを混ぜ合わせたような赤い果物だった。
「すみません。これとこれいくつかもらえますか?」
「はいよー!」
「ちなみにこの2つはどんな果物なんですか?」
俺も食べてみたいけど、小心者の俺は情報なしで冒険するより、事前にどんな果物なのか少しでも知っておきたいのだ。
「こっちはバンカって言う果物で砂漠の国ルメーレ公国の特産だね。周りの皮は堅いけど穴を空けると中にほんのり甘い果汁がたっぷり詰まってるよ。こっちは果物じゃなくてタトナって野菜だね。蒸して食べるとホクホクして美味しいよ」
へー。ココナッツと里芋みたいな感じか?
「ありがとうございます。どっちもバンカを20個、タトナを50個程もらえますか?」
「沢山買ってくれるのはありがたいけど、そんなに持って帰れるのかい?」
「人数がいるので大丈夫です」
ということにしておこう。あとで路地とかでこっそりマジックバッグに入れればいい。
「全部で金貨1枚と銀貨6枚だけど、沢山買ってくれたから金貨1枚と銀貨5枚に負けとくよ!」
俺はお金を支払ってみんなで購入した物を受け取った。
人目に付かないところで購入した物をマジックバッグに入れて次はエルの希望した本屋へ向かう。
本屋はなかなかに年季の入った店だった。
棚に並ぶのは紙の本ではなく、羊皮紙を束ねた物ばかり。
クラリス嬢に確認すると、この世界ではまだ紙はそれなりに貴重なので防犯対策のこと。
そういやこの世界で本とかまだ読んだことないや。
マリアさんに聖女の物語を聞いてからちょっと興味が沸いたから、聖女関連の本でも集めてみるかな。
俺が召喚された原因が分かるかもしれないしね。
「すみませーん」
「はいよ。何かお探しかい?」
「魔法に関する本と聖女に関する本っておいてますか?」
「聖女に関する本はうちにはおいてないね。欲しけりゃ聖教会にでもいきな。魔法書はあるけどかなり高価だよ?あんたに払えるのかい?」
聖教会?聖女を崇めてる教会とかかな?
店員のおばあさんは俺の身なりを上から下までジーっと品定めするかのように見てきた。
金を持ってなさそうに見えるのかなぁ。
「多分大丈夫です。金貨100枚くらいまでなら支払えますので」
「ふんっ!で?どんな魔法書がほしいんだい?」
「うーん。初心者用?入門書みたいなのってあります?」
「初級の魔法書だね。元素魔法の書なら金貨15枚。光と闇なら金貨10枚。回復魔法なら金貨25枚。補助魔法なら金貨20枚だよ」
んなこと言われてもよくわからん。
「全部ください」
「は?全部?金貨125枚になるけどいいのかい?100枚までって言ってなかったかい?」
「いやぁ……よくわからないのでとりあえず全部持っておこうかなって」
「はんっ。あんたも物好きだね」
俺は大金貨12枚と金貨5枚を差し出した。
すると金貨5枚を返された。
「物好きなあんたにゃサービスしとくよ。んじゃ本を持ってくるから待っときな」
そういって店員のお婆さんは奥から本を8冊運んで持ってきた。
「はいよ。こっちが火、水、風、土の魔法書。これが光と闇。んでこれは回復魔法、こっちが補助魔法だよ」
「ありがとうございます」
エルは目の前に置かれた魔法書を興味津々に眺めていた。
「ふふっ。魔法に興味がおありなら、私が少しならお教えできますので今度一緒に勉強しましょうか♪」
「うん!」
クラリス嬢が教えてくれるというと、エルは満面の笑みを浮かべて返事をした。
普段は遠慮がちで、あまり自分を出さないエルだけど、興味を持つものが出来たのはいいことだね。
そう言えば、クラリス嬢って魔法の才があるとか以前聞いたっけか。
エルはクラリス嬢とマリアさんに教えてもらうか。
俺も興味はあるし、一緒に教えてもらおうかな?
その後、購入した本をマジックバッグに収納し武器屋向かった。
所持金 金貨1657枚 銀貨7枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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