35話 訓練
俺たちが龍の牙と王都に戻ると、王都はいつも以上の賑わいに包まれていた。
「おーおー。禁足域の解放の情報を聞いてみんな浮足立ってんなぁ」
「禁足域の解放はおよそ1000年ぶりですからね。無理もありませんよ。それに王家が正式に発表したことで獄炎龍の危険がなくなったと思う人も多いでしょうからね」
実際には、その獄炎龍はここにいるんだけどもね。
「アレクたちはこれからどうするんだ?」
「クラリス様の護衛を引き受けたけど。建設着工の日程が決まり次第、追って連絡するとしかギルマスも聞かされてなかったみたいだし、王都で暫くは待機かなぁ。スズヤさんはどうするんだ?」
「俺もクラリス嬢の連絡待ちかなぁ。一応トルネさんはクラリス嬢と密に連絡を取ってるだろうから何かあればそっちからも連絡があるだろうし。やることっていったら、ギルマスにラーヴァピスキス入りのマジックバッグを届けるくらいかな」
ラーヴァピスキスの詰め替え作業は、物が物だけにかなりの広さが無ければできない上に、人目に着くとシャレにならないので、王都の戻る前にトレーラーハウスを収納するついでに済ませてきた。
「そうか。暇だし俺もついていくかなー」
「私もやることないし一緒に行こうかな。マリアたちはどうするー?」
「私たちは一度孤児院に顔を出してきます」
「うむ」
へぇ。孤児院に顔をだすか。
マリアさんは聖職者っぽいし、教会とかあるのかわからないけど、関係者だったりするのかな?
マリアとガイと広場で別れ、俺たちは傭兵ギルドへ向かった。
傭兵ギルドの中に入ると、群がる傭兵たちでカウンターは埋め尽くされ、ロビーではパーティーの募集や共同探索可能なパーティーの呼びかけでにぎわっていた。
皆、解放された禁足域が目当てのようだ。
「禁足域に向かうパーティーはないか!俺らはDランクパーティ鷹の爪だ!Dランク以上のパーティーで共同で動ける奴らを募集!」
「禁足域に向かうやつら!俺らCランクパーティー森の狩人が到着までの護衛依頼なら請け負うぜ!」
「支援魔法を使える奴いないか?1名募集!こちらDランクパーティー!」
へー。ああやって直接募集かけるのか。
張り紙とかして面接とかやるのをイメージしてたや。
「スズヤさん。勘違いしないために言っておくけど、あれは普通の募集方法じゃないからな?」
「あ、そうなの?」
「本来であれば受付に募集内容を書いて提示したら掲示板に張り出してくれるから、パーティーを探してるやつらはそれを見て傭兵ギルドを介して引き合わせてもらう。じゃないと口約束だとあとで報酬でもめたりするからな」
個人間で適当な約束で動いて揉めるのを避けるために、間にギルドを挟んで条件をしっかり決めるってことか。
ガラの悪い人もちらほらいるし、口約束だといった言わない論争になるのは目に見えてるってことか。
「まぁ、緊急時には現地で共同戦線を張ったり、俺らが緑の目を助けたときのように善意の助け合いもあるにはあるけどな」
その言い方だと、緊急時以外は助け合うことはほとんどないってことか。
傭兵なんてやってるくらいだし、基本的に報酬が無ければ動かないのは当然ってことか。
善意で動く人が増え過ぎると、逆に善意を当てにして報酬をケチったりただで何とかしてもらおうって人が出かねないから、傭兵って仕事を守る上でも、報酬あってこそか。
俺らに気が付いたギルド職員が近寄ってきたのでギルマスに用があると伝えると笑みを浮かべて案内を引き受けてくれた。
これはあれか?
俺らを見つけたので、面倒な傭兵に絡まれるのを避けるために案内を買って出たな?
受付の男性が忙しい時に逃げ出すなと言わんばかりに君のことを睨んでるけど大丈夫?
賑やかなロビーを抜けて、ギルマスの執務室へ案内してもらう。
執務室に入るとギルマスは忙しそうに書類をチェックしていた。
「おはようギルマス。例の物を持ってきたよ」
俺らの事情を知らない職員が扉の前に待機しているので、マジックバッグやラーヴァピスキスのことは言わずにギルマスに革製の鞄を出しだした。
ギルマスも察したようで、鞄を空けて中のラーヴァピスキスを確認すると頷いた。
「たしかに受け取ったぜ」
「それにしても凄い量の書類ですね」
「ああ、まぁ予想よりは少ないな」
え?この量で?
ギルマスの顔が半分隠れて見えないくらい積みあがってるけど?
「スズヤはともかく、アレクとエレナは何の用だ?」
「ん?俺らは暇だからついて来ただけだ。この後スズヤさんに昼飯でもごちそうしてもらえたらラッキーって思ってな」
「右に同じく!」
なるほど?二人とも俺の飯目当てか。
ま、それくらいいいけどね。
「ほう?お前ら暇なのか」
ギルマスはゆっくりと立ち上がるとニヤリと笑みを浮かべた。
あっ。これ絶対面倒事頼まれるやつ。
俺、知ーらない。
「えっ!?いや、ひ、暇じゃないぞ!!」
「私、用事思い出した!!」
「まて」
ギルマスは二人の肩をガッシリと掴み逃がさないように抑え込んだ。
「今日の訓練教官を頼める中級~上級ランクの奴らがみんな禁足域に夢中で、捕まらなくて手が足りてねぇんだ。お前らが来てくれて助かったぜ。俺もこのありさまだし、ちょっと新人の指導を頼むわ。暇な現役Aランク様達がまさか可愛い新人の教官を断ったりしねぇよな?」
「ま、まさか。断るはずねぇじゃねぇか!」
「引き受けるのはいいけど、魔法系は私もアレクもほとんど才能ないから教えられないよ?」
「今日はEランク以下向けの訓練だ。基本的なことだけ教えてくれりゃいい。いやー、おかげで書類を勧められるから助かるぜ。依頼として報酬はつけとくから。じゃ、よろしく頼むぜ」
「では私が訓練場に案内いたしますね」
さらっと案内を買って出てくれたけど、君、カウンターに戻らなくていいの?
アレクとエレナは完全にいいように使われてるなぁ。
まぁ、あの強かなギルマスの前で暇とか口走る当たり、わきが甘いよ。うん。
「すずやさんも受けてくか?訓練。登録しただけならGランクだよな?」
「えぇー。俺は別にいいかなぁ。傭兵続けるつもりないし」
「じゃあさ!見ていくだけでもいいから!な!」
「いいね!」
んー?そのまま昼飯をたかろうって魂胆か。
「俺は予定もないし別にいいけど、みんなもそれでいい?」
「訓練見てみたい!」
「私も!」
あれ?
意外にもシアとエルが乗り気?
「わはは。二人が興味を持ったなら行くしかないな。どれ、アレク殿たちの訓練も我が付けてやろうか?」
「「……遠慮しておきます」」
エン爺の訓練とか人の身で耐えれるのか?
地下にある訓練場に向かうと、10代半ば~交換くらいの少年少女たちが10数名集まっていた。
「皆さん。本日の訓練教官のお二人をお連れしました。Aランクパーティー龍の牙のアレクさんとエレナさんです」
ギルド職員の女性が紹介すると新人たちがざわついた。
現役Aランクに教えてもらうなんてそうないだろうからね。
「俺はアレク。見ての通り剣士だ。よろしくな」
「私はエレナ。斥候だよ。よろしく」
「んじゃまずはお前らがどれくらい動けるか見せてもらう。俺とエレナ好きな方に並んで一人ずつ模擬戦だ」
新人たちは我先にと二人の元に並んだ。
あれ?なんでシアとエルも並んでるの?
まぁいいか。
新人たちは各々好きな木製の武器を手に取り、模擬戦を開始。
アレク達は手を抜いているのが俺にも見てわかるが、巧みに攻撃を捌き新人たちの武器をいなしてゆく。
そして一人一人いいところは褒め、ダメだったところのアドバイスも欠かさない。
「流石だなぁ」
「ああ。いい指導だな」
そしてシアとエルの番がやってきた。
「あれ?シアちゃん?」
「エルちゃんもやるの?」
「まぁいい。かかってこい」
「どこからでもいいよっ」
アレクとエレナがそう言うと二人は攻撃を開始した。
しかし二人の攻撃はアレクたちの予想より遥かに力強く、素早いものだったので、アレクもエレナも度肝を抜かれることになる。
あー、昨日のBBQのせいかもしれない。
忘れてた。
ってかアレクたちも忘れてたな?
必死な様子でアレクもエレナも二人の攻撃を躱し、辛うじて二人の喉元に木剣を突き立て模擬戦を終えた。
「「「「すげー!!」」」」
シアとエルに新人たちの注目が集まるのは当然だった。
シアとエルは皆に囲まれ称賛され照れつつも嬉しそうにしている。
二人がこのまま俺と食事を共にしていくとやばいことになりそうな気がしてきた。
「なぁ。エン爺。流石にこのまま俺の食事を二人に食べさせ続けるのはまずいかな?」
「二人が自分で自分の身を守れるようになるのは悪いことではなかろう?」
「それはそうなんだけど……。あれ?ライアはどこいった?」
エン爺と話していると、さっきまでエン爺の隣に座っていたはずのライアがいなくなっているのに気が付いた。
そして視線を前に戻すと、アレクたちの前にライアは立っていた。
「あー、二人の模擬戦を見ていて自分もやりたくなっちゃったとか?」
「だろうな。先輩はシアとエルと仲が良いからな」
「これ止めた方がいいか?アレクとエレナの顔が引きつってるぞ」
「能力を使わず訓練用の武器を使うようだし、あの二人であれば死ぬこともあるまい」
いや、そういうことじゃなくて。
「二人同時。やろ?いくよ」
あっ。始まった。
ライアは短めの木剣を低めに構えてアレクに一足飛びで近づき、鋭い切り上げを叩き込み、アレクは木剣を両手で握ったまま斜め後ろから来るライアの攻撃を肩越しに剣を構えることでガードした。
「つぅっ!!流石だな!エレナ!ライアさんなら遠慮は無しだ!二人がかりで全力で行くぞ!!」
「了解!!」
「えっ!?アレクさん!?エレナさん!?少女に龍の牙のお二人が全力で!?えぇぇっ!?」
事情を知らない女性職員はおろおろしはじめた。
知らない人が見ると、Aランク冒険者が二人がかりで12~13歳の少女を囲ってるように見えるので無理はない。
アレクとエレナはライアを挟み込むように常に連携し、攻撃を繰り出すも、ライアは淡々とした様子で、正面から来るアレクの攻撃を木剣で受け止めながら、背後から迫るエレナの攻撃をその場で身軽に飛び上がって回避する。
そのまま体重を乗せた振り下ろしをアレクに叩き込み、アレクは両手で剣を抑えつつガードするも力負けして、ひざを折りつつ、ギリギリで攻撃を押しとどめた。
「くあっ!重っ!!」
しかし、エレナは着地前に体を回転させながら、体勢を崩したアレクに容赦なく回し蹴りを叩き込み、アレクはわき腹にライアの蹴りを食らい壁まで吹き飛んだ。
ライアがアレクに蹴りをいれ、空中で隙ができた瞬間を狙い、エレナはライアの足元を狙い攻撃をしかける。
しかし、ライアはそのまま空中で前転するかのように身を翻し、逆立ちするかのような状態で木剣を地面に突き刺して体を止めつつ、同時にエレナの剣をガードした。
ライアの空中でのあまりに人離れした身のこなしに動揺したエレナは、一瞬距離を取るのが遅れ、後ろの飛びのこうとするも、ライアは地面に差した剣の軸にしてそのまま足を振り下ろし、エレナの剣を踏みつけた。
低い体勢のまま手に持った剣を勢いよく踏みつけられたエレナが地面手を着いたところで、ライアは手刀をエレナの首の後ろにチョンと当てた。
「おわり」
「「「「「すげえええええ!!」」」」」
「えっ!?ええぇっ!?この子何者!??」
その後、ライアは新人たちに囲まれて質問攻めにあい戸惑いを見せ、対応に困ったライアは俺の元に戻ってきたとおもったら俺の背後にスッと隠れた。
「いててっ。流石にライアさんには二人がかりでも1本取るのは無理だったか」
「だねぇー!アレクを蹴り飛ばした隙を狙えた時は、空中なら回避できないだろうから絶対取れた!って思ったんだけど、剣を地面に差して空中で体を反転して躱すとか流石に予想できないってー!」
わき腹を抑えながら戻ってきたアレクと、地面に座り両足を投げ出したエレナは、少し悔しそうにしていた。
「二人ともごめんね。ライアに付き合ってくれてありがとう」
「いやいや、いい訓練になったぞ!」
「うん!あと一歩届かなかったけど!」
「あの……。アレクさん?エレナさん?あの赤髪の少女は一体何ものなんでしょうか……?」
ギルド職員の女性は困惑ぎみな様子でライアについて二人に尋ねる。
「あー、なんていうか、スズヤさんの秘蔵っ子?多分並みのSランク傭兵よりも強いぞ」
「そんな感じだね」
「……なるほど?」
ギルド職員の女性は困惑したまま、疲れた顔をして「Sランクより強い少女?何者?さっきの動きは何……」と呟きつつ訓練場を出てカウンターに戻っていった。
「んじゃみんな疲れただろうし、軽食を配っていくから食べていってくれ」
見学している間にこっそりと【ふるさと納税】で購入した、バターデニッシュとフルーツサンド、コーヒー牛乳を振舞った。
それから傭兵ギルドでAランクを圧倒する謎の赤髪の少女と、ふわふわで絶品なパンを振舞う商人の噂が広まったのは言うまでもない。
所持金 金貨1773枚 銀貨6枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
ここまでお読みいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
誤字脱字等ありましたら、お気軽にご報告いただけると嬉しいです。




