32話 オークション出品
エクレール公爵様が王弟だという衝撃の事実を知り、気軽に話しかけていたことを思い出し俺は若干戸惑いを見せた。
公爵家っていうくらいだから王家の遠縁くらいだとは思っていたけど、まさか王弟だなんて……。
龍の牙は今後、開発予定地にクラリス嬢が赴く際は護衛として同行するらしい。
知らない仲じゃないし、龍の牙なら俺の秘密も知ってるから、知らない高ランク傭兵とか王家の近衛とかを護衛に付けられるより、俺は動きやすくてありがたい。
「あ、そうそう。ラーヴァピスキスなんだが。商業ギルドに話を振ったが全て買い取りたいの一点張りで収拾がつかなくなったから、トレマ公国のオークションに出品されることが決まった。いろいろと忙しいとは思うんだが輸送の協力を頼めるか?」
「トレマのオークションって、シェラスコの街で春と秋に開催されてるっていう、あの世界最大のオークションか?」
「ああ、そのオークションだ。2か月後のオークションに間に合うようならそこで出品したい。SSランクの魔物素材なんてめったに出てこないからな。目玉商品になるだろうよ」
世界最大のオークション?
なにそれ!行ってみたい!
「あんなデカぶつを収納できるマジックバッグなんて傭兵ギルドにもねぇから、マジックバッグごと貸してもらえるなら借りる期間の使用料を払って、こちらで高ランクの傭兵を手配して――」
「はい!はい!自分で運びます!」
「お、おう。それならこちらとしても助かるが」
「エン爺に乗っ――」
エン爺に乗っていけば多分すぐなので大丈夫です!と言おうとしたらギルマスにくぎを刺されてしまう。
「先に言っておくが獄炎龍で飛んで国境を超えるのは絶対にダメだぞ」
「えっ?」
「当たり前だろうか!!ファーランドの国内でさえ、一度姿が見えただけであの騒ぎなんだぞ。トレマ公国に大混乱をまき散らすつもりか?」
「むむむ」
オークションは見てみたい。
温泉建設とボードゲーム大会の件もあるし、馬車で何日もかけて往復するようなら流石に厳しい。
オークションは見てみたいけど、今回は諦めるかぁ。
ここで俺が抜けたらクラリス嬢にもトルネさんにも迷惑をかけることになるしなぁ。
「くっ!!今回は諦めます……。ラーヴァピスキスを入れたマジックバッグを用意して後日持ってきます……」
「お、おう……。そんなにオークションを見たかったのかよ。まぁオークションは半年毎にやってんだ。いつか行ってみるといいさ。大事なマジックバッグを借りてわりぃな」
でも今持ってるのを長いこと貸し出すとなると色々困る。
だったら、複数持ってることにして1個渡しちゃえば面倒くさくないのでは?
「いえ。ラーヴァピスキスをオークション会場まで傭兵ギルドで運んでもらえるならマジックバッグを1つ差し上げますよ」
俺の言葉を聞いてアレクは額に手を当て、他の面々は苦笑いを浮かべていた。
「……は?俺の聞き違いか?」
龍の牙の面々は首を横に振った。
「使用者指定機能がついたマジックバッグをギルマスに1つ差し上げます。これで盗難の心配もありませんよね?」
「まてまて!お前……。そんなとんでもねぇマジックバッグをもう一つ持ってるのか……?」
「え。えぇまぁ……。ちょっと伝手がありまして……」
もう一つどころか、既にアレクたちやトルネさんにも渡してるし、いくらでも購入できるとか言ったら卒倒しそうだから黙っていよう。
「……わかった。そんなものを傭兵ギルドでも所持して使えるようになるってんなら、願ったりかなったりだ。ただし、流石にタダでもらうつもりはねぇ。商業ギルドの見立てじゃ、ラーヴァピスキスは金貨1万5千枚は下らないという話だったから、マジックバッグをもらえるってんなら、代わりに今回の手数料を全額免除にしてやる。少なくとも金貨2000枚分はお前に利益がある。それでどうだ?」
ギルマスにはこれからも色々と世話になりそうだから、別にタダでもいいんだけど、誰も損しないみたいだしそれでいいか。
「わかりました。それでおねがいします。ただ、出所だけは内緒でお願いします」
「ああ、それくらいはわきまえてるから安心しろ」
「あ!」
「なんだ?まだ何かあるのか?」
「いえ、ラーヴァピスキスをちょっと食べてみたいので少しだけ切り身を残してもらうってのは可能ですか?」
「む?スズヤ殿、食ってみたいのか?だったら我がまだとって来てやろう。あれほどの大物は居らぬだろうが、スズヤ殿が食す程度なら問題なかろう」
「……ってことなのでやっぱいいです」
「「「「「……」」」」」
エン爺の気軽な一言で場が静寂に包まれてしまった。
「俺はもう何も言わん……」
話もまとまったので俺たちは傭兵ギルドを出て、アレクたちが久々に俺の飯を食いたいというので、都市建設予定地の下見を兼ねて現地でBBQとキャンプをすることとなった。
シアとエルを連れて街の外に出るのは少しためらったが、エン爺とライア、それに龍の牙がいたら二人を守る戦力は十分以上。
これからも行動を共にするのであればエン爺やライアの正体についても話しておきたいのでちょうどいい。
暫く森の中を北に進み、シアとエル、そして俺の体力が限界に来たので栄養ドリンクで回復する。
うーん。ここまで旅をしたり先日の調査依頼で少しは体力が付いたと思っていたけど、俺の体力は子供と同じくらいか……。
龍の牙の面々も栄養ドリンクを欲しがったが断固拒否。
先日あれを飲んで暴走したのを俺はまだ許してないからな?
栄養ドリンクを飲ませたら、シアとエルにまで無理強いをする可能性があるから絶対に渡さないぞ。
俺はノーと言える日本人なのだ。
俺ら一般人3人に合わせて森を進むこと数時間。
王都からもだいぶ離れ、少し開けた場所に出たのでシアとエルに注意を促してエン爺に声をかける。
「この辺りまでくればいいかな?シア。エル。少し驚くかもしれないけど、怖くないから心配しないでね。エン爺」
シアとエルは俺が何に事前注意を促したのか分からず首をかしげていた。
「うむ」
エン爺は返事をすると人化を解き、本来の姿に戻ってゆく。
みるみる巨大になっていくエン爺の姿を見て、見上げていきながら身を寄せ合うシアとエル。
「「……」」
流石に初めて見ると怖いよな。
「シア。エル。姿は違うけど、中身はエン爺のままだから怖がらないでね?」
『これが我の本来の姿だ』
「「……かっこいいーーー!!」」
二人はエン爺の本来の姿を見て、恐怖するかと思っていたが、目を輝かせて興奮していた。
あれ?まったく怖がってない?
意外と二人とも、俺なんかよりもたくましいかもしれない。
『ははは!かっこいいか!我に乗れ。予定地まで運んでやろうぞ』
「わーい!!」
「乗っていいの……?」
「ああ、乗っていいぞー。エン爺がみんなを乗せてこれから空を飛んでくれるからね」
「空!!」
「すごい!」
シアとエルは興奮してぴょんぴょんはしゃいでいた。
そんな様子を見てマリアとガイは微笑んでいる。
「ふふっ♪とっても楽しそうですね♪」
「うむ」
逆にアレクとエレナは若干引きつった顔をしている。
「うわぁ……。また空を飛ぶのか……」
「私、高いところ苦手……」
先日の絶叫体験を思い出したのだろう。
「ほらほらみんな。乗った乗った。アレクとエレナは飛ぶのが怖ければ走って追いかけてきてもいいぞ?」
「ぐっ!乗る!」
「うぅっ。乗りますぅ」
二人とも覚悟を決めてエン爺の背中に乗り、全員が乗ったところでライアがツタで皆の体をエン爺の背中に固定する。
『ではゆくぞ』
エン爺はそう言うと大きく羽を羽ばたかせ、空へと舞いあがった。
王都の民に極力見つからないように低空飛行を意識してはいるが、それでも20mほどの高さまで舞い上がると、森の木々よりも高い位置になるので、上空から見る景色は格別だ。
アレクとエレナはまだ青い顔をしている。
「ほ、ほんとにゆっくり飛ぶんだよな!?」
「下を見ない。下を見ない。下を見ない」
うーん。
最初の空の旅がやば過ぎたからトラウマになってそう。
一方、シアとエルは初めて見る空からの景色に興奮し、テンションが上がっていた。
「すごい!ほんとに飛んでる!」
「うわー、綺麗♪」
シアとエルは大物になりそうだ。
そこから数十分の空の旅を終えて、都市建設予定地である森と岩石地帯の境界あたりに到着した。
※ ※ ※
その頃フランゼ商会にて
トルネは従業員に指示を出しつつ、慌ただしく駆け回っていた。
「木材は予定量なんとか確保できそうです」
「木材了解!食料は?」
「食料は他の街の商店と連携して定期的に王都に運べる用意が整いそうです」
「よし!んじゃあとは道具類ね!鍛冶屋の方はどうなってる!?」
「はい!鍛冶屋は材料の鉱石が不足しているので今以上の速さは厳しいとの報告が――」
「多少足が出てもいいから鉱石の確保を優先させて!」
ああ、忙しい!!
マジックバッグを前報酬として頂いたので何とか回せてるけど、無かったらと思うとぞっとします……。
新都市開発の資材は何としても、このトルネが過不足なくそろえて見せます!
見ててくださいねスズヤさん!!
あっ!もうこんな時間!!クラリス様のところに打ち合わせに行かないと!!
「あとは任せますね!!私はエクレール公爵邸での打ち合わせに行ってきます!!」
スズヤがのんびりBBQキャンプを楽しもうとしている時、トルネは馬車馬のように働いていた。
所持金 金貨5142枚 銀貨4枚 黄銅貨7枚 青銅貨3枚
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