28話 源泉確保
俺はショッキングな情報を得て、現在なんとも言えない表情でエクレール公爵家の馬車に揺られている。
「スズヤさん元気ないですね?やはり公爵家に行くのは緊張しますか?」
トルネが若干緊張気味にそわそわしつつ俺に話しかけてきた。
公爵家の招待に若干緊張しているようだ。
「いやまぁ。それも少しはあるけど。ちょっとね……。トルネさんから見て俺とライアの関係ってどう見えてる?」
「えっと、主人と従魔の仲ですよね?関係は至って良好に見えますけど?」
うーん。確かにトルネの言う通りなんだけど。
そういう意味じゃないんだよなぁ……。
昨日、ライアにラーサンが向かった先の会話の内容を植物を通じて確認してもらい、ラーサンとヘイゼル侯爵の会話を盗み聞きしてもらったところ。
ライアは俺の奴隷と思われて、俺が少女を買ってると思われたらしいことがショックだったとトルネに伝える。
「あー……。ライアちゃんが実はドライアドでスズヤさんの従魔だと知らない人からすると、ライアちゃんはかなり淡白な反応ですし、そう見えるかもしれませんねぇ……」
「俺はライアを保護者として可愛がってるけど、周りからそう思われているかと思ったらショックで!!」
「んー。だったらライアちゃんを従魔登録して公表しちゃえばいいんじゃないですか?そしたら誤解も解けますよ」
「それはそれで目立つしヤダ」
「スズヤさんって意外と面倒な性格してますよね……。ってか盗聴!?ライアちゃん凄くないですか?そんなことまで出来るんですか!?」
「ん。地面や植物があるなら簡単」
「はぇー。諜報活動とかメッチャ向いてそう!他国の産業スパイとか!密偵みたいなことも出来そう!」
「今回は興味本位でライアに盗聴してもらったけど、今後はうちの子にそんな危険なことはさせません!」
俺はライアの頭を抱きかかえてトルネの言葉を否定する。
「うわぁ……。スズヤさん親ばかまで拗らせてるんですか?ライアちゃんが危険になるレベルのやばいことがあったらぶっちゃけ国が滅びますよ?ってかそういうとこですよ!少女愛好家と勘違いされるところは!」
トルネと下らない話――俺にとっては大事な話、をしていると馬車が止まり、エクレール公爵家に到着した。
馬車を降りると先日と同じくヴァンスさんが玄関のドアを開けて部屋まで案内してくれた。
今日は部屋にはクラリス嬢だけでエクレール公爵は居なかった。
「スズヤ様、トルネ様、エン爺様とライア様も、本日はお越しいただきありがとうございます。私はクラリス=フォン=エクレールです」
「わ、私はフランゼ商会会頭のトルネです!お招きいただきありがとうございます!以後お見知りおきを!!」
緊張でガチガチになり挨拶するトルネを見てクラリスは微笑みを浮かべる。
「ふふ。そんなに緊張なさらないでください。私は公爵家の娘ですが、公爵は父だけです。私自身は爵位も持たないただの貴族の娘ですので、気軽に接してもらえると嬉しいです」
「ほっ。そういって貰えると助かります。それで、大体の話はスズヤさんから伺っていますが、私はまず何をすれば?」
「フランゼ商会には都市の新設計画に大々的に協力していただければと考えております」
「ボードゲームの公式大会の件ですね。たしか我が商会で会場の用意までしてほしいとか?」
「いえ、それもありますが、フランゼ商会には新たな都市に支店を置き、ついてはエクレール公爵家の御用商人として街を一緒に盛り立てていただければと考えております」
御用商人って専属商人みたいなやつだっけか?
「ご、御用商人ですか!?」
「ええ。父からもお聞きしております。フランゼ商会は先代の頃には難民の受け入れと食料の流通に尽力した素晴らしい商会であると。当時は難民の受け入れに反対する貴族も多く、それらの貴族を抑えるのに父は手一杯で、フランゼ商会を後押しできなかったことを悔やんでおりました。その商会を一人で支えておられるトルネさんであれば私は共に歩んでいけると考えております。当然、御用商人の件は父も了承済です」
「うぅ。公爵様にフランゼ商会をそこまで評価していただけていたなんて。その言葉だけで、亡き父と母も報われます。ありがとうございます。信用に恥じぬよう新規都市始動に当たり、必要な物は御用商人としてフランゼ商会が責任をもって用意させていただきますので何なりとお申し付けくださいませ」
「助かります。これからよろしくおねがいしますね。トルネさん♪」
「はい!よろしくおねがいします。クラリス様」
うん。フランゼ商会はこれで公爵家の後ろ盾を得るどころか御用商人となったわけだ。
これでグエル商会からの嫌がらせも減るといいな。
でも、ヘイゼル侯爵は俺のことを探ってたみたいだし、ボードゲーム絡みで介入の余地を探っているのだとすると、新規都市に何かしらの形で介入してきそうだよなぁ。
「それでは具体的な話に入らせていただきます」
その後、クラリス嬢からエクレール公爵が記した都市計画の図面を見せてもらいつつ詳細を説明してもらい、トルネは大まかな必要物資の数量を拾い上げていった。
俺はというと、流石に都市計画など専門外なので二人の打ち合わせを聞きつつ、俺が案を出せそうな温泉についての構想にふけっていた。
岩石地帯からメインとなる天然温泉を引けたとして。
温泉にほしいものと言えば、サウナと岩盤浴だよなぁ。
娯楽室とかも欲しいけど、そこはボードゲームを置けばいいか。
少しルールは複雑だけど、麻雀とかを置いてもいいかもしれないな。
【ふるさと納税】にテレビゲームもあったけど、流石にそれはやりすぎか。
そういえば、【ふるさと納税】のリストにサウナがあったような……?
リストを開いて探してみるといくつものサウナがあった。
当然のようにどれもかなりの高額商品だ。
キューブ型のサウナや倒した円柱型のバレルサウナ、球状のサウナまである。
しかし、アイテム系はとんでもない能力のおまけがついてる可能性が高い。
サウナは絶対ほしい。
ほしいけど、果たしてこれらを俺が購入して設置していいものか……。
お試しで購入するには高額過ぎるしなぁ。
「――様。スズヤ様?」
サウナについて考えているとクラリス嬢が俺を呼んでいるのに気が付いた。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてた。どうしたの?」
「温泉についてなのですが、源泉の場所を調べることは可能でしょうか?わが国には温泉に関する資料や知識がありませんので、スズヤ様の知恵を拝借できればと思いまして」
源泉の場所かぁ。
たしか水を通さない岩盤の中にあるんだっけかな?
岩盤を地熱が温めることで温泉になるとかなんとか。
あとはガイガーカウンターとかPH測定器とか使って汚染度とかPHを調べるとか聞いたことあるけど。
「エン爺、ライア。温泉が湧きそうな場所とか探知できない?」
「温泉とは熱い地下水のことか?」
「うん」
「我は蒸気のように噴き出している場所で体を洗ったことはあるが、あれではだめなのか?なかなかに心地よいぞ」
「エン爺はともかく、俺らがそんなのに触れたら火傷どころじゃすまないよ」
間欠泉の温度って百度以上じゃないっけ?
シャワー感覚で間欠泉を浴びるって、流石獄炎龍。
ここ数日飯食って酒飲んでる姿しか見てないから忘れそうになるけど、やっぱエン爺は規格外だなぁ。
「ライアは?」
「地下水ならわかる。でも熱い水は苦手」
いくらドライアドが強くて優秀だといっても植物の魔物だからお湯は苦手なのか。
火山窟でも大人しかったしな。
「うーん。適当に掘ってみるしかないかなぁ」
「湯が沸きそうな地面を掘るだけでよいのか?それならば我のブレスで一発よ。適当に数か所穴を開ければよいのであろう?」
「あ、その手があったか。数うちゃあたる作戦で掘ってみるか。ってことで源泉探しは俺の方でやってみます」
「た、頼りになります。流石獄炎龍様ですね」
「クラリス嬢というたか?我のことはエン爺と呼んでくれ」
「失礼。エン爺様。よろしくおねがいします」
「うむ」
後日。早速エン爺とライアを連れて岩石地帯にやってきた。
今回は王都からある程度離れた場所まで移動してからエン爺に元の大きさに戻ってもらい、低空飛行でゆっくり飛んでもらった。
これなら騒ぎにもならないだろうし、振り落とされる心配もないだろう。
もちろん万が一にも落ちないようにライアにツタで縛ってもらってる。
安全対策は大事だ。どこかの猫のようにヨシッ!とするほど俺の肝は据わってない。
「さてと。温泉探しを始めますか」
「うむ。どのあたりから始めるのだ?」
「そうだな。先日ここを通った時に間欠泉が噴出してる場所をいくつか見つけたから、その付近から始めて見ようか。案内するからゆっくり飛んでくれると助かる」
「うむ」
エン爺にゆっくり飛んでもらいながら地上を注視していると早速間欠泉が噴出しているところを発見した。
「エン爺。右前方に間欠泉。あの手前の岩場にブレスを頼む」
「あいわかった」
エン爺は口元に青白い炎を収束させ始めた。
「まったまった!!本気ブレスはだめ!!」
「む?」
「本気ブレスだと源泉を掘り当てるどころか周囲一帯を吹き飛ばしちゃうでしょ」
「安心せよ。ブレスを集約させて一点を貫いて見せようぞ」
そんな器用なことも出来るんだ。
あのときそんな収束レーザーのようなブレスを向けられてたら俺ら消し飛んでたんじゃ……。
広範囲ブレスで命拾いしたかもしれない……。
エン爺が間欠泉の手前の岩場に本気ブレスを一点集中で吐きつけると岩場の大地に直径1mほどの穴が開いた。
穴の底が見えないほどの真っ黒な穴だ。
どれだけ深い穴が開いたんだ……?
エン爺にホバリングしてもらい、暫く待ってみるが温泉は噴き出してこない。
「出ないな。ハズレかな?もう少し離れたところで――」
そう言いかけたところでライアは口を開いた。
「ん。熱いの来る」
それだけいってライアはツタで自分の体を覆い始めた。
「え?」
その瞬間。10mほどの高さをホバリングしていた俺たちの真横に15mほどの湯柱が沸き上がった。
「あつっ!?あっつい!!エン爺!離れて!!」
すぐさまエン爺に避難してもらい、地面に降りて温泉を確認。
【ふるさと納税】で空間線量計と温度計を購入し水質をチェック。
残念ながらPH測定器は【ふるさと納税】のリストに載っていなかった。
アサガオか紫キャベツがあればPH試験液を作れるけど、この世界にそれらの植物って生えてるのかなぁ……。
・空間線量計 12万円
高感度で耐久性の高いシンチレータ方式を採用しています
リアルタイム測定が可能です
999時間まで放射線量を積算できます
【空間識別】
・温度計 5千円
-50℃~300℃まで測定でき、設定した温度になるとアラームで知らせてくれます。
【熱感知】
どちらの機器もよくわからない能力が追加されてるけど、今は水質調査するだけだし、使ってヤバソウな字面の能力じゃないから問題なし!
うん。放射能は問題なし。
温度は90℃か。
かなり高温だな。
このまま引いて来ても熱すぎて入れたもんじゃないけど、湯畑を作ったり湯もみしたらいけるか?
うーん。
温泉は硫黄成分つよいし、酸性が強かったら怖いからPHをどうにかして調べてみたいけど、何かいい方法あるかな。
「ライア。紫色したキャベツとか知らない?」
「んー。知らない」
ライアは首を横に振る。
「ダメかぁ」
「スズヤ殿。その紫キャベツとやらを【ふるさと納税】で購入は出来ぬのか?」
「あ」
【ふるさと納税】のリストで野菜を検索すると紫キャベツが普通にリストに並んでいた。
「ありました……」
早速紫キャベツを購入して刻んで水につけ、煮詰めて布でろ過する。
懐かしい、小学生の頃にこうしてPH試験の実験をやったなぁ。
試験液を作っていると俺の腕の裾をライアがツンツンと引っ張ってきた。
「ん?どうしたの?」
「あまった野菜、食べていい?」
「今度料理に使おうと思ってたけど、いいよ。でも色は違うけど味は普通のキャベツだよ?」
「ん。キャベツ好き」
ライアは嬉しそうな顔を浮かべ、パリパリと紫キャベツを食べ始めた。
そうこうしている間に試験液が完成したので、早速源泉を試験液に垂らしてみる。
すると試験液は薄い青色に変化した。
えっと、酸性なら赤、塩基性なら黄色になるんだっけかな?
ってことは薄い青は弱塩基性ってことか?
触れても問題なさそうなので、源泉を少し汲んで冷ましてから指で触れてみる。
すると指をこすり合わせると微かにぬめりを感じた。
うん。アルカリ温泉に浸かったときの感覚だな。
これなら温度さえどうにかしたら温泉として使えそうだ。
「エン爺、ライアありがとう。安全確認もとれたし、この源泉でいけそうだ。帰ろうか」
早速戻ってクラリス嬢に源泉を確保したことを伝えに行くと、「えっ!?昨日の今日でもうですか!?」と驚かれた。
所持金 金貨5172枚 銀貨6枚 黄銅貨2枚 青銅貨8枚
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