26話 グエル商会とヘイゼル侯爵
トルネにボードゲームのイベント開催計画を伝えて話もまとまり、何やら応接室の外が騒がしくなっているので確認するために俺たちは部屋を出た。
すると以前もこの店を訪れていた派手な男の姿がそこにあった。
そして何やら店の従業員ともめていた。
「勝手に入られては困ります!」
「ええい!うるさい!従業員ごときが私に指図するな!!」
「きゃっ!!」
勝手に応接室に向かおうとする派手な男を止めようとしていた従業員の女性は、ラーサンの護衛に突き飛ばされ床に尻もちをついて倒れた。
「ふんっ!私に逆らうから痛い目をみることになるんだ。これだから分をわきまえぬ者は――」
騒ぎの原因はグエル商会のラーサンだった。
相変わらず後ろ盾である侯爵家の権力を笠に着た下種な立ち居振る舞いをしており、見るに堪えない。
「わきまえるのは貴方の方です。これ以上私の店で横暴を働くと言うなら衛兵を呼びますよ!」
「私の商会にまだ借金が残っているというのに偉く不遜な態度ですね?トルネさん?」
「それとこれとは関係ありません!それに借金は来月までに完済するとお伝えしたはずです」
「ふん!ボードゲームとやらで偉く儲かっているそうだな?開発者と独占販売契約を結んだらしいが、落ち目のフランゼ商会には荷が重いのではないだろうか?」
「……何が言いたいのですか?」
「各国にも多くの販路をもつ我がグエル商会のほうが、ボードゲームをより普及できるという話さ。どうだ?独占販売契約の権利を我が商会に譲渡するというなら、ヘイゼル侯爵家と顔を繋ぐ機会を作ってやらんでもないぞ?」
「断固お断りします」
「……私の提案を断るということは、グエル商会だけでなくヘイゼル侯爵家をも敵に回すということを理解しているのか?この国で商売を続けるつもりなら、この話がどういうことかくらい理解できるはずだが?」
「私は、我がフランゼ商会は、身分や権力を排した誠実な商売を行うことを心情としています!不当な圧力や権力には決して屈しません!」
「はんっ。私に、いや、ヘイゼル侯爵家にたてついたことを後悔するなよ!商売とは物が売れて利益を得てこそだ!ふふふ。……ボードゲームとやらが今後も売れるといいな」
そう言い残してラーサンは店を去っていった。
「ほんと、嫌味な奴だな。あんなやつ衛兵を呼んでつまみ出せばいいのに」
「ヘイゼル侯爵は王都の警備を取りまとめている方なので、ヘイゼル侯爵家と伝手をもつラーサンを衛兵に突き出したところで……。それに明確な実害を出されているわけでもないので――」
「逮捕することもできないってわけか。面倒だな。でもいいの?あの口ぶりから察するに、ボードゲームの販売に関しても、いやがらせをしてきそうだけど?」
「せっかく軌道に乗り始めたボードゲームの販売を止めるわけにはいきませんので、何とかして見せます!」
「私の方でも旦那様とお嬢様の耳に入れておきましょう」
「ヴァンスさん。よろしくお願いします」
※ ※ ※
ヴァンスはエクレール公爵家の王都邸に戻ると早速、フランゼ商会で見聞きしたことを報告した。
「――なるほど。ヘイゼル侯爵家が」
「ええ。ラーサン殿のあの様子ですと、ヘイゼル侯爵が利権を得るために動いているようです。このまま放っておくとボードゲームの利権を乗っ取るために、グエル商会を通じてヘイゼル侯爵家もフランゼ商会の妨害に動き出す可能性が高いかと」
「全く、金と権力にしか目が無い貴族はこれだから頭が痛い……」
その中でもヘイゼル侯爵は最もたちが悪い……。
自分では決して手を汚そうとせず、人の弱みを握り操ったり、篭絡して傀儡にしていると耳にする。
殿下との繫がりがあるという噂もあるし、陛下にも報告すべきか……?
最も厄介なのはフランゼ商会を通じて、ヘイゼル侯爵がスズヤ殿に興味を持った場合だ。
最悪の場合、この国が滅びかねないぞ……。
「どうなさいますか?」
「出来ることならすぐにでもフランゼ商会の後ろ盾となって守ってやりたいが、下手につつけば禁足地の開放の件でヘイゼル侯爵の不興を買い、代官であるクラリスが標的にされかねん。どうしたものか……」
こんなことになるのであれば、もっと早くにフランゼ商会の後ろ盾となっておくべきだったか……。
※ ※ ※
その頃、ラーサンはフランゼ商会を出た足で、ヘイゼル侯爵家を訪れていた。
「それで?ボードゲームの独占販売権はグエル商会で確保できそうなのか?」
「それが、トルネの奴が強情でして……」
「ふむ。まぁいい。出来れば穏便に済ませたかったのだが、やりようならいくらでもある。あの娯楽は間違いなく売れる。あの利権を手に入れることが出来れば巨万の富を築けるのは明白。何としても販売権を手に入れるぞ」
「私もボードゲームは目にしましたが、それほどの商材ですか?一般用の品など銀貨数枚程度の娯楽品ですよ?高級仕様でも金貨1~2枚やそこらですし」
「はぁ……。ラーサン。お前は何も分かってない。あの商品は一般用のものでも普通に作って売れば金貨1枚の価格でも十分売れる。それだけの価値があの商品にはある。フランゼ商会は価格を抑えるために安価な端材や木材を使って商品を作って出来る限り安く流通させようとしているようだが、売れると分かっている物をわざわざ価格を限界まで抑えて安く流通させるなど商売をまるで理解してない。私ならもっと有効にあの商品を扱って見せるというのに」
「あんなただの木製の娯楽品が金貨1枚ですか!?」
「ラーサン。ボードゲームを見たといったが、実際に触れて見なかったのか?」
「いえ、私はあのような児戯には流石に興味がありませんので」
「はぁ……」
児戯と決めつけて実際に触れてみようともせぬとはなんと愚かな。
こいつがこれでも商会の会頭だというのだから頭が痛い。
グエル商会の先代は優秀な商人だったのだがな……。
それにしても、ラーサンもバカだが、トルネとかいう女も理解しかねる大馬鹿だ。
価格競争をする競合相手がいるわけでもなしに、何の意図があって利益を限界まで価格を下げるというのだ?
それでは独占販売の契約を結んだ意味がまるでないではないか。
薄利多売など経済を停滞させる原因になることを理解しているのか?
商品の価値を理解しているのであれば、価値に見合った価格で世に流すべきだというのに。
いや……。
フランゼ商会はもともと難民や庶民の為とのたまい、私財を投げうち商会を縮小するような愚かな商会だったな。
そのせいで借金を背負っているのだったか。
他人のために自分が不幸になる道を選ぶなど理解しかねる。
……一度、ボードゲームの開発者と直接会って話してみる必要があるかもしれんな。
「ラーサン」
「はっ」
「ボードゲームの開発者を調べ上げて私の元まで連れてこい。一度会って話がしたい」
「トルネではなく開発者ですか……?」
「なんだ?」
「いえ、既に独占販売の契約を開発者はフランゼ商会と締結しておりますので、開発者を篭絡しても契約を交わすことは……」
「そんなことは貴様に言われずともわかっておるわ!!」
全く、バカと話してると疲れて仕方ない。
開発者が取り分を大幅に下げていなければ、フランゼ商会の販売する価格で利益を出すのは不可能に近い。
つまりフランゼ商会よりも開発者の方がボードゲームの利権を狙う上で厄介な相手ということがこいつにはわからんのか。
下手に圧力をかければ、仮に利権を得られたところで開発者の一言で製造販売を止められかねんのだぞ。
神聖契約がある以上、開発者の権利は絶対だ。
「……すぐに調べて連れてまいります」
そういってラーサンは部屋を出ていった。
「はぁ。ひとまずボードゲームの件についてはラーサンに任せるとして。先日の獄炎龍の王都襲来の件は傭兵ギルドが対応したそうだが、獄炎龍がどこかに飛び去ったという情報も無い。王城は何やら慌ただしく動いているとの情報も入ってきているし、一体この王都で何が起こっているんだ?……一度殿下とも情報のすり合わせが必要だな」
※ ※ ※
その夜。
宿の部屋に戻った俺は【ふるさと納税】でとあるマッサージ器具を購入した。
筋膜リリースのマッサージガンだ!
龍の巣調査で体のあちこちが筋肉痛でガタが来たので向こうでもお世話になっていたマッサージ器具を購入した。
これを肩や脹脛に当てるとたまらなく効く。
「あぁぁ~♪これこれ!はぁ~。気持ちいい~♪」
暫くマッサージガンを使用していると、先ほどまでパクパクと果物を口に運んでいたライアが手を止めてジーっとこちらを見ていた。
「ライアもやってみる?」
「ん」
ライアにマッサージガンを貸してあげると、手に取って俺の真似をして肩に当てた。
「アアアアアアア」
マッサージガンの振動に合わせて小刻みに声が震えている。
分かるよ。一度は試してみたくなるよね。
あれ?もういいの?
やはり子供にはマッサージは早かったか。
ライアは厳密には子供かどうかわからないけど。
「エン爺もやってみる?」
「む?どれ?」
エン爺も手に取って、肩にマッサージガンをあてる。
「おぉ!なんだこれは!!不思議な感覚がするぞ!ただ力が弱いな。この数十倍の強さがあれば丁度よさそうだ」
マッサージガンの数十倍の振動って、そんなのもう超音波破砕機だよ。
体をほぐすどころか体を壊すから。
エン爺はマッサージガンに物足りなさは感じつつもそれなりに気に入ったらしく、それからはたまに俺が使ったあとにマッサージガンを借りるようになるのであった。
※ ※ ※
ファーランド王国王城にて。
謁見の間で現王ディラン=フォン=ファーランドは二人の王子を呼び出していた。
「お呼びですか陛下」
謁見の間という公式の場に呼ばれたので床に片膝を付き口を開くのは第一次王子。
慌てて兄のそれにならって同じように膝を付く第二王子。
「ああ。ひとつ気になることがある。龍の巣の調査が達成されたことは二人とも知っているね?」
二人の王子は静かに頷いた。
「調査には龍の牙という傭兵パーティーとポーターの商人が向かったそうだ。龍の牙はわが国出身の傭兵パーティーで傭兵ギルドでの評価も高い。さて、ポーターのほうはどうかと思ってね。お前たちでポーターの男を見極めてみなさい」
所持金 金貨5189枚 銀貨9枚 黄銅貨2枚 青銅貨8枚
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