24話 開拓協力
龍の巣調査の一件が解決して数日。
日中は「人の街の変化を見てみたい」というエン爺の希望に合わせ街をぶらつき、屋台で食べ歩きしたり、雑貨を購入したり、夜は宿でのんびりしながらエクレール公爵家から迎えが来るのを待っていた。
夕飯の時間になりエン爺と二人で食堂へ向かう。
ライアは基本果物以外口にしないので宿の食堂には顔を出さず、俺たちが食事をしている間は部屋で過ごしている。
本当は俺らも食堂で食事をとらずとも部屋で【ふるさと納税】で購入した物をとってもいいのだけれど、エン爺が1000年ぶりの人の世の食事に興味を持っているというのもあり、朝晩は二人で食堂へ向かい食事をとっている。
ちょっといい宿だから一食銀貨1枚するけど【ふるさと納税】を使うよりコスパもいいしね。
エン爺曰く、町の建物は1000年前より技術力が上がって見えるし、以前よりは格段に食事が美味しくなっているが、食材自体の質は落ちているとのこと。
昔はもっと高位の魔物食材が流通していたので、肉も魚も今より素材の質は良かったらしい。
たしかに、シチューみたいな煮込み料理は、いろんな具材が入ってるからそれなりに美味しいとは思うんだけど。
俺には塩コショウの味だけの料理はちょっと物足りなく思える。
そういえばラーヴァピスキスを火山窟の中まで狩りに来ている人が居たんだっけか?
あの煮えるような暑さの洞窟に1人で狩りに来られる人って考えるだけでもかなりの強者ってことだよね。
それも溶岩の中を泳ぐ高ランクの魔物を。
ただ、食材の質は落ちた代わりに、それなりの食材でも味を高める技術が発達したのだろうと、エン爺は時代の流れを感じて少し嬉しそうにしていた。
暫く引きこもってる間に世の中が発展してるのを見て、ワクワクしているように見える。
ちょっとしたタイムトリップ気分を味わえるとか長寿種っていいな。
朝晩食堂で食事をとっているが、やはりギルマスの言う通りエン爺は目立っているみたいだ。
傭兵らしき人達や兵士らしき人たちが、時折エン爺を目で追っているのを目にすることがある。
竜人という種族もいて、珍しいがこの国にもエン爺と同じような見た目の人もいるが、目立っているのはそれだけが理由ではないらしい。
エン爺は鎧もつけてないし服装はこの世界の普通の傭兵風だけど、立ち居振る舞いや風格は熟練の武人って雰囲気だしなぁ……。
うーん。
やっぱ人目に付くところはできるだけ避けるべきなのか?
いろんなところに行ってみたいし、この国にずっといるつもりはないけど、エクレール公爵様の相談事を解決するまでの間はどこかに家を借りるのが無難かな。
夕食を終えて部屋に戻り、ライアにいつもの林檎とエン爺にビールとおつまみセットを出してあげて寛いでいると、コンコンと部屋のドアをノックする音がする。
ドアを開けると宿の従業員の若い男性が少し戸惑った様子で用件を告げた。
「お客様。エクレール公爵家の使いという方がお迎えに来られております」
宿の宿泊客を公爵家の使いが訪ねてくるなんて、めったにあることじゃないから戸惑っているらしい。
なんかごめんね。
俺は公爵家ゆかりの者でもなくて、ただの一般人だからそんな緊張しなくていいよ?
宿の外に出ると老齢の執事風の男が、丁寧に会釈しつつ出迎えてくれた。
「スズヤ様とその従者の方々ですね。お初にお目にかかります。私はエクレール公爵家の家令を務めておりますヴァンスと申します。皆様をお迎えする準備が整いましたのでお迎えにあがりました」
「どうも。スズヤです。よろしくおねがいします」
挨拶が済むと、待機していた豪華な馬車の中に案内される。
流石侯爵家の馬車。
この国に来るときに借りた幌馬車とは別格だ。
あまり厚遇されるのも慣れてないからちょっと緊張する。
俺たちが乗り込むとヴァンスは馬車の扉を閉め御者台に乗り、エクレール公爵家へ向けて馬車を進めた。
馬車はそのまま王都南側にある貴族街に入る。
公爵家の馬車は貴族街の入り口にある検問すら素通りらしい。
検問所にいた兵士は、御者台の上のヴァンスと馬車紋章を確認し、そのまま素通りさせていた。
公爵家の家令ともなると顔も知られているんだな。
貴族街に入ると綺麗に敷き詰められた石畳で舗装された道に変わり、馬車の揺れがとても小さくなった。
一般区画とはインフラの整備具合もまるで違う。
馬車の窓から外を眺めると、とても広い庭付きの豪華な屋敷が綺麗に立ち並んでおり、高級住宅地なのが見て取れる。
その中でもひときわ大きな敷地、周囲の屋敷より二回りほど大きな大豪邸の門の前で馬車は停車した。
門兵がヴァンスの姿と馬車を確認すると、大きな門が開き、再び馬車が動き出す。
そして屋敷の前でようやく馬車が停車する。
ヴァンスが扉を開けてくれたので、馬車を降りて見ると、自分とは住む世界が違うと言わざるを得ない立派な建物に俺は息をのんだ。
呆然と立ち尽くしていると、ヴァンスが玄関の大扉を開け中へ案内してくれた。
「どうぞお入りください」
ここがエクレール公爵家の屋敷か。
絨毯や飾ってある装飾品はどれをとっても一流品に見える。
こういった高貴な空間は慣れていないので、そわそわしつつヴァンスの後をついていく。
屋敷ですれ違うメイドや執事は、立ち止まり丁寧に頭を下げ、俺たちが通り過ぎるまで動かない。
俺のことなんて気にしなくていいから普通にしててほしいなぁ……。
廊下を暫く進み、一つの部屋の前までたどり着きようやくヴァンスが足を止めた。
そして部屋のドアをコンコンとノックしつつ口を開く。
「旦那様。スズヤ様御一行をお連れ致しました」
すると部屋の中からメイドが扉を開き、頭を下げ、部屋の中に俺たちを案内する。
「失礼いたします。皆様、中へどうぞ」
ヴァンスが会釈をしつつ手を差し出す。その先にはエクレール公爵と見知らぬ少女の姿があった。
「スズヤ殿。掛けてくれ。私の呼びかけに応じていただき感謝するよ」
二人が座る正面のソファに俺は腰を下ろした。
俺の両隣にライアとエン爺も腰を下ろす。
「招待いただき光栄です。それで、早速ですが相談事の内容をお聞きしても?」
「ああ、その前に私の娘を紹介させてほしい。今回の相談事は娘にも関係することなのでね。この子は長女のクラリスだ」
エクレール公爵が紹介すると、クラリス嬢は軽く頭を下げて自己紹介をはじめた。
「お初にお目にかかります、スズヤ様。私はクラリス=フォン=エクレールと申します」
「私はスズヤ=ミナトです。一応商人をしております」
クラリス嬢は年のころは15歳前後ってところかな?
綺麗だし落ち着いているように見えるけど、まだどこか幼さが残るように見える。
「それで、相談事についてなんだけど――」
話を聞くと、エクレール公爵家は今回の地震の原因を私財を投じて傭兵を雇って排除し、国に安寧をもたらした褒賞として新たに領地を得られることになったらしい。
本来この功績は俺が貰うべきものだって言われたけど、そんな大それたもの俺は絶対要らない。
俺がそういう性格と分かっていたので、俺や龍の牙に追及が行かないように、獄炎龍は長い眠りから目を覚まし、火山窟から去ったのを確認しているとだけ国には報告してくれたらしい。
なるほど、長い眠りから目を覚ましい火山窟を去ったか。
確かに嘘は言ってないな。
実際にはその後、一商人の従魔になって王都の中で人に扮してのんびり過ごしているわけども。
「エン爺のことを伏せてくれたのは助かります」
「この国にも良からぬことを企む者は少なからずいるからね。獄炎龍が従魔になって国内で普通に生活しているなんて、流石においそれと公開出来る話じゃないよ」
「ははは……」
「それでね。獄炎龍が不在となったことで、禁足地の規制を緩め、竜の巣の手前の岩石地帯までを国土として解禁することを陛下が認めてくれてね。今回その先駆けとして私に領地として与えられるのが王都北部の森林地帯の一部とその先の土地なんだよ」
解放に貢献した公爵様へ褒賞として、解禁した土地を領地として与えるか。
他の人が管理している土地を与えるよりも波風経たないし、禁足地を開拓する先駆けとしても公爵家が手を付けるならいい模範例になるってことかな?
王様も公爵様と同じくらい強かなんだろうなぁ。
「森林地帯はともかく、岩石地帯は農作には適していませんし、土地としては使い辛そうですね」
「まぁね。でもクラリスの為を思えば、多少厳しくても私はこの場所が欲しかったんだ」
ん?クラリス嬢の為?
どういうこと?
岩石地帯はそこそこ強い魔物も居るし、あの土地を貰っても管理に困りそうだけども。
「それはどういう?」
詳しく話を聞くと、ファーランド王国の貴族は15歳で成人を迎え、成人した貴族の子は代官として領地経営を学ぶために寄り親の領地で2年の実地訓練のようなことを行うらしい。
この場合エクレール公爵様が持つ領地の中から領地を選んで代官をするそうだが、エクレール公爵家の領地のほとんどはフリーゲル王国との国境に面した、ファーランド王国西側から北西エリアにあり、フリーゲル王国に戦争の機運が高まっている今の状況で、娘を危険な国境付近の領地へ向かわせたくなかったということらしい。
「なるほど。そんな時に都合よく表れたのがエン爺を従魔にした俺で、俺が目立つのを避けているから、代わりに公爵様の手柄にして、国境よりも安全な王都近郊に新たな領地を得たと」
「君の手柄をかすめて、都合よく利用してしない済まないと思っている」
「いえいえ、俺は目立ちたくないのは本当ですし、むしろ功績を代わりに請け負ってくれるなら大歓迎です」
「そういってもらえると助かるよ」
「相談事というのはそのことですか?でしたらもうお互いに益があったということで終わりですかね?」
「いや、ここまでは誠意として伝えておかねばいけないと思った内容で、相談の本題はこの先にあるよ」
なるほど。
ここからが相談の本題か。
解放された未開の禁足域の領地を得る以上の厄介事なんてあるのかな?
「スズヤ殿はボードゲームの開発者だそうですね?私も娘と触れてみましたが、どれもシンプルでありながら画期的で娯楽として大変すばらしいものでした」
「おほめ頂き光栄です」
うっ。
俺が発案した物じゃなくて向こうの世界から持ち込んだだけだから、褒められるとちょっと気まずい。
「そんな物を作り上げる知性、そして商人でありながら今回の危険な依頼をも達成する手腕、更にドライアドと獄炎龍までをも従えることができる人望。それらを見込んでスズヤ殿に是非お願いしたことがあります。此度得た領地を開拓するにあたって知恵をお貸しいただけませんか」
いや、勘違いされてるみたいだけど、その知性も手腕も人望も全部違うよ!?
どれも【ふるさと納税】で購入した物の力なんです!!
ボードゲームはただ購入しただけだし。
依頼を達成できたのも冷却グッズありきだし。
ライアとエン爺は俺の人望じゃなくて果物とお酒目当てだし。
こら!両脇の二人!「流石我が主」とか「ん、主すごい」とか言ってるけど、俺はそんな万能人間じゃないからな!?
過大評価され困り、頭を掻きながら正面に目を向けると、目を輝かせて期待の目をこちらに向けるエクレール公爵とクラリス嬢の姿。
うっ!いくらエクレール公爵が信頼できるといっても【ふるさと納税】のことは流石に言えないし、二人の期待が眩しい!!!
「はぁ……。わかりました。どこまで役に立てるかはわかりませんが、私に出来る限りの範囲でよければ協力させていただきます」
俺が協力を受け入れる発言をすると、二人の顔がパァっと明るくなった。
「ありがとうございます!早速領地運営計画について話を進めましょう!!」
所持金 金貨5207枚 銀貨6枚 黄銅貨2枚 青銅貨8枚
ようやく2章突入しました!
1章よりボリュームのある内容になりますが、その分盛りだくさんでお届けできればと思います。
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