23話 一件落着
傭兵ギルドが保有する素材用倉庫を一つ空けてもらい、人払いをしたうえでラーヴァピスキスを取り出した。
ギリギリ倉庫に収まって俺は一安心。
倉庫を壊さなくてよかった。
改めて見るととんでもなくデカイ……。
この岩みたいに堅い外殻って普通の刃物で切れるのかな?
解体とかどうやるんだろ?
「こりゃ想像以上だな……。こいつが地揺れの原因だったのか」
「これほど巨大な魔物が存在するとは……。解決していただき感謝します」
まさか公爵様が頭を下げるとは思っていなかったので俺らは慌てた。
「あ、頭を上げてください!」
「あなた方が解決していなければ大きな被害が出ていた可能性もあります。民の安寧を守る立場にある者として礼を述べるのは当然です」
うーん。
俺らが行かなくても、あのまま放って置いたら安眠を妨害されたエン爺が怒って討伐してた気がするけど、今は黙っておいた方がいいか。
「それで、ラーヴァピスキスはギルドで買い取ってもらえるんですか?」
「いやぁ……。こいつは未知過ぎて、正直どう値を付ければいいのかわからん!身は食えるのか?」
「うむ。1000年程前に我の元に訪れておった人種は、この魚の身をうまそうに食っておったぞ。我も分けてもらったことがあるが、淡白な身はなかなか酒に合う味をしておった」
「ほう?獄炎龍様のお墨付きなら味は間違いなさそうだな。外殻の強度もかなりのものだし、加工したら武器にも防具にも使えそうだな」
「我のことはエン爺と呼べ」
「お、おう。悪かった。エン爺様」
「うむ」
エン爺、初めて名前をもらったからなのか、名前を呼んでもらうことにすごくこだわってるなぁ。
結局ラーヴァピスキスは後日、公開解体をしつつオークション形式で出品されることとなった。
仮の買取金額として同じSSランクで数十年前に市場に流れたベヒーモスの買取価格を参考にして、半額程度の金貨5000枚を支払ってもらうこととなった。
最低でもこの額は下らないであろうというギルマスの判断だ。
ラーヴァピスキスの買取金額は山分けにしようとアレクに持ち掛けたが、俺たちは何もしていないから受け取れないとの一点張りで断固拒否されてしまった。
そんなこと言ったら俺もなんもしてないよ!?
エン爺の手柄だし!?
エン爺に渡そうとするも、「我の手柄なら主であるスズヤ殿の手柄の同然。それに我は人の貨幣を持っていても使い道がない」と言われる。
金貨5000枚って日本円に換算すると5000万だよね!?
一気に小金持ち!?
でもライアとエン爺の果物代と酒代を考えると数年でなくなりそうだなぁ。
一通り依頼関係の処理も落ち着いたので俺は公爵様に気になっていたことを確認してみた。
「エクレール公爵様。一つ確認してもよろしいですか?」
「ん?なんだい?」
「エクレール公爵様は、何故今回の依頼を傭兵ギルドに発注したのですか?公爵様であれば国の兵を動かすこともできたのでは?」
「あー、今回は原因が不明だったからねぇ。恐らく禁足域に原因があるとは踏んでいたんだけど。憶測だけで挙兵するわけにもいかないし、なにより禁足地だったことが厄介でね」
「といいますと?」
「彼の地は獄炎龍の怒りを買わぬために、1000年程前から立ち入りを禁止された場所だからね。大軍を率いて踏み入るなんてもってのほかなんだよ」
エン爺の怒りを買わないため?
「エン爺?昔何かやったの?」
「む?1000年程前にか?はて?当時の王とはほとんど交流もなかったが?その当時であれば、我と交流があったのは人の男が一人とエルフの女が一人だけだったはずだが?」
1000年前の人すごいな。単身でエン爺に会いに行ける猛者が二人もいたのか。
「公爵家に伝えられている伝承によると、当時王家に不満を持っていた貴族たちが獄炎龍の力を借りてクーデターを起こそうと画策し、獄炎龍の怒りを買って灰燼に帰したという話が残っているのだけれども」
「あー、あ奴らか……。我の寝床まで大勢でやってきて酒を進めてくるので、途中まで気分よく飲んでいたのだが、急に武器を向けてきたので返り討ちにしてやったまでのこと。その後、当時の王家の使いの者が謝罪に来たが、気にするなと伝えたし、別に国に対して怒ったわけではないぞ?」
なるほど。
自分勝手にもエン爺を都合よく利用しようとして返り討ちに合った反王家派の人たちが原因で、今後バカなことをして怒りを買う者が現れないために当時の王家の人が周囲一帯を立ち入り禁止にしたってことか。
「というか、エン爺は既にこうして自由にうろついていることですし、禁足地はもう解放していいのでは?」
「……そうですね。スズヤ殿がそう言っていただけるのであれば」
ん?なんで俺の意見ありきみたいにいうの?
「おい。いいのかよ?」
「ん?何がですか?ギルマスさん?」
どういうこと?
二人ともなんで俺に聞くの?
禁足地の扱いなんて王家が判断することじゃないの?
「エン爺が龍の巣を離れて自由にうろついてることを国が認めるってことは、お前がエン爺の主だって国に知られるってことだぞ?」
「はっ!?やっぱなし!!禁足地解放反対!!」
獄炎龍を従魔にしたなんて知られたら絶対に面倒毎に巻き込まれる!
目立つの反対!
「お前な……。目立つことの何がそんなに嫌なんだ?獄炎龍とドライアドを従えるなんざ、狙っても出来ることじゃない英雄的所業だろうが?なんなら今すぐSSランク傭兵に推薦してやってもいいぞ?どう考えても既に世界最強のテイマーだろ?」
「結構です!俺はどこにでもいる一般人ですし、二人を力で従えているわけでもないのに勘違いされて、偉い人や怖い人に狙われるのが嫌なだけです」
「これまでのお前の話を聞くと、どこを切り取っても一般人じゃねぇんだが?というかその二人がお前を守ってる時点で、お前を害せるような存在なんて世界中探しても数えるほどしかおらんぞ?」
「その数えるほどしかいない相手からも狙われないという保証がなければ嫌です!!国の偉い人とか悪徳貴族に知られたら拉致監禁されそうですし!」
俺は争いごとは勘弁なんです!!
過ぎた力を持つと知れたら絶対変な奴が寄ってくる!!
フリーゲル王国になんて知られたら大変なことになる!!
「私も一応この国の偉い人の一人なのだけれども?私はいいのかい?」
「エクレール公爵様は傲慢な典型的貴族って感じが全くしませんし、なんとなくいい人そうなので大丈夫です!!」
獄炎龍を怒らせないように挙兵を避けて、名前も伏せたうえで個人的に地震の原因の調査依頼をだして平和的解決を望むような人が悪人とは思えないしね。
「ふふっ。信用してもらえてるみたいでなによりだよ。確かに君がいうような権力と富に目が眩でいる悪徳貴族は少なからずこの国にもいる。だが私は、生まれや身分だけで貴賤上下を付ける者は本物の貴族とは思えなくてね。民の支えなしには貴族だけではなく、王といえども生活は成り立たない。だから貴族として生まれた以上、支えてくれている民のために行動すべきと私は思っているよ」
うん。この人はやっぱり信用してよさそうだ。
どこぞの糞王とは大違いだな。
フリーゲル王国の王に、エクレール公爵の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「ただ、信用してもらっているところを悪いのだけど、出来れば禁足地の開放には協力していただけるとありがたい」
「何か理由があるのですか?」
「ちょっとね……。個人的な理由になるのであまり強くは言えないのだけれども」
「それを聞いたら引き返せなくなるとかありませんよね?」
「ははっ。仮にそんな物騒なことを私が考えていたとしても、君の後ろの二人がそれを許すはずがないからね。そんな命知らずなことを考えたりはしないよ。……そうだね。色々と根回しも必要だし、込み入った話になるので日を改めて相談させてもらってもいいかな?」
「それは構いませんよ」
「できる限り君の情報は秘匿すると約束するから、獄炎龍が龍の巣から離れたということだけは報告をしてもかまわないかい?」
「ええ、それだけならばエン爺が従魔になったと分かる人もいないでしょうし、問題ありません」
「ありがとう。では準備が整ったら、後日、君が泊まっている宿に使いの者を向かわせるね。一応言っておくと、この相談は傭兵としての君にではなく、商人としての君に対する相談になるかな?」
ふむ?つまり相談内容はエン爺やライアの武力を目的としたものではないと。
商人としての俺?
ってことはボードゲーム絡みなのかな?
それ以外に商人らしいことで目立つことをした覚えはないしね。
「わかりました」
その後、エクレール公爵はギルマスと挨拶を交わし倉庫を出ていった。
ひとまずこれで、龍の巣の調査依頼。
ラーヴァピスキスの買取。
エン爺の報告という大きな内容は解決した。
その後、道中で龍の牙が討伐した魔物を解体と買取に出し、エン爺の存在を隠してラーヴァピスキスの討伐についてどう扱うかの相談をした。
結局、龍の牙がラーヴァピスキスを討伐したことにしてもらうことに。
エン爺の存在を明かすわけにはいかないので代わりに名誉を請け負ってもらった。
アレクは最後まで抵抗していたが、他の三人の説得と、代わりに俺からマジックバッグを送ることをギルマスに聞かれないようにこっそり耳打ちするとアレクも渋々了承。
ポシェット型の小さなマジックバッグを4つと、俺が使っているのと同じ大きなものを1つ龍の牙にプレゼントした。
というのも、冷感シャツなどを個人で保管したいという女性陣からの希望が入ったからだ。
長年連れ添った仲間とは言え、肌着を共同荷物として扱うのは流石に抵抗があるよね。
購入してみてわかったけど、鞄系はどれも収納機能が付いているらしい。
みんなそれぞれ好みのポシェットを選んだが、どれも収納機能が付いていたからだ。
ただし、大きな鞄にしか保存効果は付与されていなかった。
ラーヴァピスキス討伐の名誉を請け負ってもらうので、マジックバッグだけでなく買取金額の半分を渡すというも、やはり拒否された。
仕方が無いので道中で討伐した魔物の素材の買い取り代金は全て龍の牙に受け取ってもらうということで合意。
もとから俺もライアも最初にロックイーターを細切れにした以外、一切手を出してないし、龍の牙が貰うべき報酬だよね。
龍の牙はラーヴァピスキスの討伐の功績でAランクへの昇格が決定した。
傭兵ギルドを出るときはギルマスに送ってもらい、受付で各自依頼達成の金貨100枚と、俺とライアは追加で金貨100枚を受け取った。
最後に、傭兵ギルドを去り際、ギルマスに宿暮らしじゃなくて家を借りることを強く勧められた。
というのも、エン爺もライアも見る人が見ればただものじゃない雰囲気をしているから、とても目立つということらしい。
「目立ちたくないのなら、もっとまじめに隠す努力をしやがれ!」と怒られた。
そんなこと言われても強者の雰囲気とか俺にはわからん!!
所持金 金貨5211枚 銀貨4枚 黄銅貨4枚 青銅貨2枚
ここまで、1章「龍の巣編」をお読みいただきありがとうございました!
次章からは新都市開発編が始まります。
続きも読んでいただけると嬉しいです。




