20話 獄炎龍
銀に輝く防災頭巾を被り、真っ黒なベストを着こみ、珍妙な集団となった俺たち6人は火山窟の探索を進め、ついに最奥の広場の前に到達した。
先に広間の内部を確認したエレナが左手を横に伸ばし、後続のメンバーの静止を促す。
そして振り返ったエレナの顔は引きつった表情をしており、口元で人差し指を立て、音を立てないように促し、目線で部屋の内部の確認を促した。
俺たちはエレナの様子から何か危険な相手を発見したのだと察し、音を立てないようにしつつ岩壁に隠れながら、そーっと奥の広間をのぞき込む。
するとそこにいたのは体長20mほどはあろうかという巨大な赤い龍だった。
全身に真っ赤な鱗を身にまとい。
頭には1mほどあろうかという捻じれた立派な赤黒い色の双角。
体を丸めて眠っているが、その圧倒的な存在感は生物として越えられない壁の高さを、見るものすべてに感じさせるものであった。
これが獄炎龍……。
デカイ!
やばい!
怖い!
こんなのの調査っていったい何をどう調査するんだ!?
寝てるのを確認できたからもう撤退でよくない!?
音を立てないようにジェスチャーで、獄炎龍は寝てるから 刺激して起こさないように もう帰ろう!とアレクに訴えかける。
するとアレクも即座に同意し、激しく頭を縦に振るとジェスチャーで、すぐに この場を 撤退しよう!と返してきた。
エレナもマリアもガイもそれを見て激しく首を縦に振る。
そして全員で踵を返して洞窟を去ろうとしたとき、ゴゴゴゴゴゴ!とこれまで以上に激しい揺れが地面から伝わってくる。
メンバーの中では最も地震に慣れているはずの俺ですら、立ってるのがやっとの大きな揺れ。
周囲を確認すると天井から大きな落石がいくつも降り注いできていた。
まだ龍の牙の面々は地震に戸惑って落石に注意が向いていない。
すぐさま俺は声に出して注意を促した。
「ライア!!ツタで落石から皆を守って!!ガイさんも大盾を上に!!他はガイさんに密集!!」
指示を出すと、我に返った皆はすぐさま俺の指示に従い、二人の活躍で奇跡的に落石による被害を回避。
暫くそのままじっと待機していると揺れも収まり、ホッと一息つくも、落石なんかよりもヤバイ存在のことを思い出し、ハッとして俺らはギギギギと油の切れた機械が稼働するような様子で首を回し、後ろを振り返った。
すると落石の直撃を受けて目を覚まし、ゆっくりと起き上がる獄炎龍の姿がそこにあった。
獄炎龍は俺らの姿を目にすると、鋭い目つきで睨みつけ、口を開く。
『……貴様ら。我の寝込みに忍び寄り襲おうとするなど、余程の命知らずか?それとも蛮勇の類か……?』
「ち、ちがいます!俺らは決して怪しい者では――」
『黙れ!!どこからどう見ても怪しい恰好をしおってからに!』
あっ。そうだった!
俺ら全員、銀色の防災頭巾と黒ベストの怪しい集団だった!!
「おいおい……。これかなりまずい状況じゃね?」
「ひっ!獄炎龍が怒ってる……」
「話を聞いていただける雰囲気ではありませんね……」
「うむ……」
『知れ者どもめ。消し炭にしてくれようぞ!』
獄炎龍はそう告げて口を開くと、口に真っ赤な炎が収束し始めた。
「やばい!ブレスが来るぞ!!ガイ!正面で盾を構えてくれ!マリアは魔法でガイの補助を頼む!ライアさん!手を貸してくれ!!」
ライアはアレクにそう言われ、アレクの指示に従って手を貸していいか確認するかのように俺の顔を見てきた。
俺は静かに頷きで答える。
ガイが盾を構え、その前方にライアが生やしたツタの壁、そして全体をマリアの防御魔法が覆う。
『ほう?ドライアドを従える者がいるのか?面白い。だが植物の壁を用意した程度で、我が炎を防げるはずがあるまい。くらえ!フレイムブレス!』
獄炎龍はこちらに向けて炎のブレスを解き放った。
植物の壁は炎に焼かれ、すごい速度で焼け落ちてゆく。
ライアは焼けるたびに必死で植物のツタを生やし続けているが、見るからにツタの生成が追い付いていない。
このままではまずい!
何かないか!?
【ふるさと納税】で氷を購入する!?
いやそんなの焼け石に水だ!
全員の耐性を上げまくる!?
でも食事をとってる余裕も時間も無い!
何かないかと必死でマジックバッグの中に手を突っ込み、状況を打開できそうな物がないか、中身を漁る。
すると先ほど購入したが危険と判断したアイテムの存在を思い出した。
そうだ!あれなら使えるかも!?
早速取り出したのは冷却ハンディファン。
元は小さな風を送り出す快適グッズだが、【ふるさと納税】を介して購入した時に、冷却ハンディファンに返礼として付与された能力は【即時冷却】【冷却付与】と【凍結付与】。
この機能が本物ならきっと可能性はあるはず!
すぐさま冷却ハンディファンを構えた俺は、ライアが必死で維持しているツタの壁に向けてスイッチをいれる。
ブイィィィン!という風切り音と共に、緩やかな涼しい風が植物の壁に向けて流れ始めた。
そして一気に周辺の空気が冷却されていく。
「少しだけ温度は下がったけど、ダメだ弱すぎる!!」
アレクが叫ぶ。
確かにこのままじゃ厳しい。
でも、このハンディファンは1~100まで風量を変更できる。
もっと風量を上げれば!!
俺は一気に風量調節ボタンを連打し、風量を100まで引き上げる。
すると、とてつもない冷気を纏った強風が冷却ハンディファンから発生し、ライアが作り出したツタの壁に向かって吹きすさび始めた。
「うおわっ!?」
とんでもない風で後ろに吹き飛びそうになる俺。
しかし、アレクとエレナ、そしてマリアが吹っ飛びそうになる俺の背中を支えてくれた。
皆ありがとう。
冷却効果を帯びた強風はツタの壁を越え、迫りくる獄炎龍の真っ赤なブレスまで急激に冷却していく。
『むっ!?なんだその冷気は!?我のブレスまでも無効化して押し返すだと!?』
獄炎龍は炎のブレスを冷気の風で押し返されつつあることに驚きを見せていた。
そして一瞬ブレスが緩んだところで、一気に冷気の風がブレスを押し返していった。
「いけえええええ!!!」
『ぬおおおお!これは凍獄龍の奴のコキュートスブレスか!?』
獄炎龍の炎のブレスと冷却ハンディファンの冷却を纏った風が打ち消し合い、広間は薄っすらとした白い霧につつまれた。
これでひとまず話を聞いてもらえる状況を作り出せたかと思い、獄炎龍に話しかける。
「聞いてください!私たちは怪しいものではありません!ここには地震の調査で来ただけです!」
『ほう?地揺れの調査とな?』
おっ!今度は話を聞いてくれそうな雰囲気!
「ですので獄炎龍さんの眠りを妨げるつもりも、獄炎龍さんを害するつもりもありません!」
『ふむ?確かに敵意は感じられぬな』
「では――」
『しかし、貴様らの使う不思議な力に興味が沸いた。弱点であるはずの炎に対抗できるほど強力なドライアドを従え、凍獄龍のブレスを模した魔道具を操るなど、人が持つには過ぎたる力。その力の底を我が見極めてやろうぞ!!』
えぇぇ!
なんかさっきよりやる気に満ちてないですか!?
力を見極めなくていいです!!
力とか求めてませんから!!
『行くぞ。我が全力のブレスを凌いで見せよ!!』
獄炎龍は先ほどの真っ赤な炎のブレスとは違い、真っ青な炎を口に集中し始めた。
これって絶対やばい奴!!
伝説の龍の全力の攻撃とかシャレになってない!!
何が力を見極めるだよ!!
脳筋!!
さっきのブレスはどうにか、このハンディファンで打ち消せたけど、流石に次は……。
ふと右手に持つハンディファンに目を向けた。
そういえば、鑑定した時に冷却モードというモードが存在していたことを思い出した。
そうだ!さっきは通常のモードだった。
ってことは冷却モードなら!?
「みんな!俺の背中を支えてほしい!」
「任せろ!」
龍の牙全員で俺の背中を支え、ライアはみんなの体をツタで地面に固定してくれた。
「よし、一か八か、やってやる!」
『準備はよいか?いくぞ!ヘルフレイムブレス!』
獄炎龍は青白い高温のブレスを解き放った。
こちらも冷却モードを最大の50にしてスイッチをオン。
すると、周囲の水蒸気が一瞬で結晶化するほどの冷気を纏った風が正面に向けて放たれた。
先ほど同様、俺は後ろに吹き飛ばないように必死でハンディファンを両手で前に向け、体を支えるのは皆に任せる。
青白い炎のブレスと凍結する風がぶつかる。
すると高温のブレスまでも冷却ハンディファンが巻き起こした風は凍らせつつ進み、周囲にキラキラとしたダイヤモンドダストを巻き起こしながら獄炎龍に迫っていく。
そのまま完全に獄炎龍のブレスを相殺し、口元を凍結させてブレスを封じ込めることに成功した。
その瞬間、ピシッという音が鳴り、冷却ハンディファンに大きな亀裂が入り、冷却モードは強制終了した。
『んがぁっ!?よもや我が本気のブレスまでをも凍り付かせるとは……。ふんっ!』
獄炎龍は歯を食いしばり、バキンッ!と凍結した口もとの氷を砕き割った。
『我の本気までも抑え込むとは、お前は一体何者だ?』
「へへ……。ただの商人ですって……」
疲れ切った体を皆に支えられながら俺はそう答える。
『ふ、ははは!ドライアドを従え、凍獄龍をも超える冷気まで操る商人か!!これは愉快!!』
「ははは……。気に入ってもらえたなら何よりです。それで、俺らのことは信じてもらえましたか?」
『うむ。あのまま冷気を放ち続けられていれば、我も無事ではすまなんだ。それをしなかったということは敵意が無いということだろう。少々気が立っておってな。勘違いで急に攻撃して済まなかったな人の子らよ』
しなかったというより冷却ハンディファンが壊れたから追撃出来なかったんだけども。
ってか気が立ってたから勘違いで攻撃?
ほとんど八つ当たりじゃん!!
「……何はともあれ、分かってもらえたなら良かったです」
それにしてもどうして2万円もしないくらいで購入した冷却ハンディファンにこれほどの機能が付いてたんだ?
高価なほど返礼として強力な能力が付いているものとばかり思っていたけど、違うのかな?
う~ん?
機械だからとか?
いやいや、それなら空調ベストも凍てつくほどの寒さになる機能がありそうだけど、そうじゃないし。
これまではやばい能力が付いてても、それは効能が良すぎるとか便利過ぎるって意味でのやばさであって、使うと危険な機能まではついて無かった。
冷却ハンディファンは冷却モードを最大にして使用したらすぐに壊れたけど、その効果はすさまじかった。
この違いはなんだ?
ん~~~~、わからん!
『つかぬことを伺うが、商人というのであれば色々な商品を取りそろえれおるのであろう?見たところお主はマジックバッグを持っておるようじゃし』
「え、ええ。それなりには?」
一目見ただけで俺の鞄がマジックバッグだと分かるのか。
凄いな獄炎龍。
『そこでじゃな?一方的に攻撃しておいて、こんなことを頼むのは気が引けるのじゃが……』
なんだが急に獄炎龍さんの歯切れが悪くなったな。
頼み事ってなんだろう?
大商人クラスの人じゃないと龍が欲しがるような物なんて持ってないと思うんだけど。
俺は商人といってもエセ商人ですよ?
過度な期待は困るんですけど。
『酒を持っておらぬか?』
「酒、ですか?」
どんなものを要求されるかと思って身構えていたら、案外普通であっけに取られてしまった。
『も、もちろんただとは言わん!対価は支払うぞ?我の鱗をくれてやろう。ほれ、取っておけ』
そういって背中から鱗を一枚剥がし、ポンと俺に投げ渡してきた。
「おわっと。重っ!?」
たった一枚の鱗でありながら大きさは80㎝ほどあり、重さは10kgはあるだろうか、俺は支えきれずに後ろに倒れそうになり、ライアがツタで俺の体を支えてくれた。
「生きた獄炎龍の鱗!?」
「ふぇっ!?」
「自然に剥がれ落ちたものではなく、生の鱗……。伝説級以上の素材ですね……」
「うむ……」
たしかにこれほどの龍鱗ともなればかなりの価値なんだろうけど、今は大量に酒を購入する資金が無いぞ?
「そういわれましても、獄炎龍さんほどの体躯を持たれる方が満足できる量の酒は流石に……」
【ふるさと納税】を使えばある程度の酒は購入できるけど、一度戻って依頼報酬を受け取ってからまたここにくる?
うーん。流石に面倒……。
『ふむ。それもそうか。これならどうだ』
そういうと獄炎龍の体が光を帯び。
徐々にその体が小さくなっていき、人型を模すと光が収まってゆく。
そこに現れたのは深紅の長い髪をなびかせた渋い男性。
額には短い角が2本、そして龍の姿の時にも体表を覆っていた鱗と同じ色の鱗を纏った立派な尻尾を携えている。
さながら竜人といった姿をした、武人のような風格の壮年男性であった。
見た目こそ精悍な壮年男性だが、口調はどこか好々爺然としていて、若干ちぐはぐな印象を受ける。
「人化するのは久々だが、うまくいったようだな」
獄炎龍は自分の体の変化を確認し、満足げな顔を見せた。
「人が満足できる程度のお酒ならこの場でも用意可能です。では和解も済んだことですし、食事の用意でもしますか」
「「「「さんせーい!」」」」
所持金 金貨25枚 銀貨4枚 黄銅貨4枚 青銅貨2枚
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