19話 最後の確認
火山窟の奥へと進んでいくと呼吸をするたびに喉が焼けるような熱さを感じるようになってきた。
かなり装備や食事で暑さは軽減できているはずなのに、酷暑日に雲一つない日向のアスファルトの上を歩き続けているような、そんなしんどさを感じる。
はぁ、はぁ。流石に暑すぎる……。
フレイムスライムとファイアリザードは稀に出現する程度で、戦闘もほとんどないにもかかわらず、皆明らかに焦燥していた。
流石に何か対策しないと、判断が鈍った状態で危機が迫ったら事故になりかねないな。
歩きながら【ふるさと納税】のリストを眺める。
すると一つ試してみたいものが目に留まった。
そこにあったのは冷却ハンディファン。
この熱気の中で普通のハンディファンを使用したらサウナの中で仰ぐような物だと思い、ハンディファンのことは数日前から頭に浮かんではいたのだが、購入するつもりはなかった。
しかし、冷却ハンディファンならどうだろうか?
こちらの世界に渡る際に、アイテムにはその機構にあった能力が返礼として付与されることを考えれば、冷風を送り出す機能があるのではないか?
だって名前に冷却ってついてるし!
皆の焦燥具合を考え、見通しの良い広間に到着したので、少し早いが休憩を提案する。
ひとまず冷製パスタと、デザートとして冷凍フルーツ、そして少しでも涼めるようにフルーツシャーベットを提供。
龍の牙とライアが食事に夢中になっている間に、さっそく先ほど見つけた冷却ハンディファンを1つ購入。
そしてリストの近くにあった冷却空調ウェアも試しに1つ購入した。
すると俺が新しいアイテムを購入しているのに気が付いて、マリアさんが目を輝かせながらの背後からのぞき込んできた。
「今度はどんな魔道具ですか?」
魔道具というか元は普通の快適グッズなんだけどね。
「ちょっと暑さ対策出来そうな商品の買ってみた。一応鑑定してみるね」
返礼でどんな危険なオプションが付与されているとも知れないので、早速鑑定で確認。
・冷却ハンディファン 1万5千円
スクロールホイールで風量は1~100まで無段階調整が可能。細かな調整ができ、お好みに合わせて快適な風を楽しめます。
冷却プレートは-26℃冷却。
冷却モード搭載。
※冷却モード時は最大50段階まで調整可能です。
【瞬間冷却】
【冷却付与】
【凍結付与】
むむ。ファンの風に冷却付与はありがたいけど、凍結付与……?
これ使ったら逆に凍えるんじゃ?
火山窟で暑さ対策しようとして凍傷になったり、氷漬けになりました!とかってなると流石に笑えないぞ。
これは扱い方を間違えると危険だからみんなに渡すのは止めた方がいいか。
火山の噴火だとか、余程のことが無い限りこれは封印だな。
あっ。凍結ってことは食材とか討伐した魔物を凍らせて運ぶのに使えたり……?
使っているところを想像してみると、誤って仲間を凍らせる姿が思い浮かぶ。
……うん。やっぱ封印で。
・冷却空調ベスト 7万8千円
夏の暑さの悩みを解決!
接触冷却&空調機能で火照った体もクールダウン。
【冷却付与】
【熱耐性・特大】
【熱傷治癒】
こっちは不穏なオプションは無さそう?
でも冷却付与が凍えるほど寒くならないかが少し不安だな。
それに冷却空調ベストは1つ金貨8枚弱と非常に高価なのがなぁ。
人数分そろえるとなるともう予算がギリギリ……。
帰りのことも考えると、ある程度は残しておきたいし、これ以上高価な品物を買うのは厳しそう……。
うーん。
顎に手を当てて悩んでいると、既にマリアがローブを脱いでシャツの上に冷却空調ベストを着こみ始めていた。
あっ!ちょっと!まだ安全確認が!!
「はぁ~♪この服凄いです……♪服の中から体に直接冷たい風が……♪気持ちいい♪先ほどまでの暑さが嘘のようです♪火山窟の中だというのに、まるでひんやり涼しい洞窟の中に居るように感じられます♪」
「なにっ!?俺にも着させてくれ!」
「マリアだけずるい!!私も!!」
「うむ!」
「えーっと、そうしたいのは山々なんだけど、一着金貨8枚くらいして、全員分購入しようとすると、もう手持ちが……」
「「「「買います!!」」」」
4人は目を輝かせて金貨を差し出してきた。
えぇ……?
龍の牙が自腹購入してくれたおかげで自分とライアの分を購入して何とか全員分の冷却空調ベストを揃えることが出来た。
うん。これはほんとにすごい。ベストを着ている部分だけじゃなくて、体全体に冷却効果が付与されている。
冷感シャツとの相乗効果で熱耐性も増して熱さを感じにくくなってるのも大きいな。
俺が機能を確かめていると5人は俺の後ろで横一列に並んだまま、とろけそうな顔で涼しさを満喫していた。
うん。さっきまで焦燥しきっていたけど、これで問題なさそうだね。
ライアは冷却空調ベストもだけど、フルーツシャーベットもとても気に入ってくれたみたいで何よりだよ。
問題なのは俺の所持金だな……。
ここに来るまでに、既に手持ちの金はほとんど消費してしまった。
残りの金貨は40枚を切っている。
今回の依頼を達成したところで、得られる金額は金貨200枚。
道中討伐した魔物はマジックバッグに収納してるけど、それらの素材を売却しても補えるか疑問だ。
うん。完全な赤字だ。
トルネさんが製造販売を進めているボードゲームが上手く軌道に乗ってくれていれば多少の収入は見込めそうだけど、街に戻ったら他の金策も考えないといけないなぁ。
ってか火山窟暑すぎだよ!
【ふるさと納税】のチートアイテムを装備して、チート食事で毎回バフをかけなきゃ耐えられない暑さって普通の人じゃ絶対探索不可能だよねっ!?
魔物の強さはそれほどでもないらしいけど、これってBランクの龍の牙だけじゃ絶対調査不可能だったんじゃ?
禁足域だから傭兵ギルドでも火山窟の情報が得られてなかったのかな?
暑さ対策も整ったので、休憩を終えて再び火山窟の奥へ足を進める。
既に火山窟に侵入して数時間は足を進めている。
外から見た火山の大きさからいって、そろそろ最奥に到達してもよさそうなものだけども。
「左前方の溶岩から何か来る!」
エレナの察知にかかったのはまたしてもファイアリザード。
しかし、今回現れたのはなんと3体。
龍の牙が前を固め、慎重に動きを見極めようとする。
するとファイアリザードはこちらに向かってくるのではなく、そのまま左後ろの通路の方へ走り去っていってしまった。
あれ?運が良かった?
そう思っていたが龍の牙の皆の顔色は芳しいものではなかった。
「今のファイアリザード、様子がおかしかったよな」
「うん。まるで何かから逃げていたみたい」
「ファイアリザードはCランクの魔物です。そんな魔物が慌てて逃げだすような魔物が溶岩の中に……」
「うむ……」
直後、ゴゴゴゴゴ!と再び大きな揺れが。
それもこれまで感じていた揺れより格段に規模がでかい。震度5程度はあろうかという激しい揺れだ。
「皆さん!身をかがめて壁面に身を寄せてください!この規模の揺れだと洞窟の天井が崩れ落ちてくる可能性があります!!」
慌てて皆に落石から身を守るように指示を出し、肌で感じた地震について考える。
今回はほぼ真下から激しい揺れを感じた。
震源はやはりこの火山?
後ろを振り向くとライアは若干震えながら地面を見つめていた。
「ライア。大丈夫?」
「……やっぱり下で何かぶつかってる」
プレート同士が当たる音でも聞こえてるのかな?
いくら植物の魔物って言っても、そんな地下深くまで感じ取れるようなものなのかな?
それに地震にしては揺れの時間がかなり短く感じる。
獄炎龍は地下にいて、地下で暴れているのか?
また大きな揺れが起こる可能性を考えると早めにこの火山窟から脱出した方がよさそうだな。
それと暑さ対策だけじゃなく、地震の対策もしておかないと……。
壁に身を寄せるだけじゃ完全には落石を防げないし、ガイさんの盾とライアの植物操作だけじゃ一度にみんなを守り切るのは難しい。
【ふるさと納税】で地震対策グッズを眺めていると良さげなアイテムが目に留まる。
防災頭巾だ。一つ2万円弱なので6人分購入可能な範囲。
さっそく1つ購入して鑑定。
・防災頭巾 1万8千円
燃えにくい素材でできているので、火災が起こった際、頭や顔の保護に有効です。
約1kgの物が2.5mの高さから落ちてもその衝撃は50%以上吸収されます。
【耐火耐熱・大】
【衝撃吸収】
うん。火山窟自体が崩落したら流石にどうしようもないし、気休め程度かも知れないけど。
これで多少の落石や崩落なら安心かな。
早速、人数分を購入して配布する。
若干視界は悪くなるかもしれないけど、洞窟を進む間は全員に被ってもらおう。
全員銀色に輝く三角頭巾と黒ベスト姿の異様な集団の姿を傍から見た姿を想像するとちょっと変な宗教集団に見えなくもないけど、背に腹は代えられない。
見た目より身を守る方が大事だ。
そして今後の危険度を鑑みて確認しておきたいことがある。
「皆さん。確認してもいいですか?」
「ん?」
「先ほどと同等の規模の地震がまた起こった場合、大規模な落石や、場合によっては洞窟自体が崩落する危険性があると思われます。崩落に巻き込まれるリスクを承知したうえでこのまま調査を続行しますか?」
飽くまでも俺は同行者。
だから俺はリスクを提案するだけ。
依頼を受けたのは龍の牙だ。
つまり進退を決める権利はアレクにある。
「確かにこのまま進めばその危険性は高いだろう。だが俺は危険を押してでも原因を見つけ出したいと思ってる。でもこのまま放っておくと、ファーランドに住む住民は常に大地の揺れに怯えながらの生活を余儀なくされるだろ?俺は一傭兵として、この国も思う民の一人として国の危機を放って帰る選択肢はない。スズヤさんが言うように当然リスクは高い、無理についてきてくれとは言わない。ついてきてくれる奴だけでいい、俺に命を預けてくれないか?」
アレクが皆の前で頭を下げた。
それを見て龍の牙の3人は顔置見合わせて頷いた。
「何をいまさら。危険な橋を渡るのは今回が初めてじゃないじゃん!」
「そうですね。バジリスクに囲まれて石化されかけた時に比べるとまだましですかね?」
「仲間は見捨てない」
「みんな。ありがとう……。スズヤさん達は今回無理を言ってついてきてもらってるし、ここまで散々助けてもらったからここからは俺ら龍の牙に任せてくれて構わないぞ」
確かに獄炎龍なんて規格外の龍がいるかもしれないところになって、本音を言うと絶対近づきたくないし、すぐにでも帰れるなら帰りたいよ。
でも、ここまで来て、龍の牙だけに任せて自分だけ逃げ帰るってのは流石に違うよね。
うん。俺だって覚悟を決めてやるよ!
「いえ、ここまで来たわけですし、最後までお供しますよ。それに俺の食事バフがなくなると、冷却空調ベストがあるとはいえ、また暑さにやられちゃうかもですよ?」
「スズヤさん……。ありがとう」
所持金 金貨27枚 銀貨4枚 黄銅貨4枚 青銅貨2枚
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価をいただけると励みになります。
誤字脱字等ありましたら、お気軽にご報告いただけると嬉しいです。




