16話 熱さ対策
「やああああ!」
エレナが気合を込めてストーンゴーレムに斬りかかり、肩の関節を器用に切り離した。
大きなストーンゴーレムの右腕がズゥゥゥンと音を立てて地面に落ち、砂煙を巻き上げる。
「ナイスエレナ!あとは任せろ!!」
アレクは大剣を右肩に担ぐように構えつつ飛び上がると、身体ごと回転を加えながらストーンゴーレムの空いた右わき腹に斬り込んだ。
するとストーンゴーレムは腹の部分から真っ二つになり地面へ崩れ落ち沈黙した。
「ふぅ。意外と余裕だったな」
「へへへ~♪このナイフのおかげだねっ!」
「ああ、そんな小さなナイフなのにストーンゴーレムの腕を一撃で切り落とすとか流石にビビるわ」
「関節を狙ったけど、切った感触すらほとんど感じなかったから、胴体とかも普通に斬れると思う」
「マジかよ……。流石能力付き魔剣ってところか」
ストーンゴーレムって岩だよね?
魔剣云々はともかく、刃物で岩を切るって時点で、二人とも俺からしたらやばいんだけど?
アレクの大剣って鉄製って聞いたけど?
魔剣でもない鉄の大剣でストーンゴーレムを一刀両断するって……。
近くの岩に腰を下ろして一息入れつつアレクがぼやく。
「それにしても熱いな……」
あれから2日程足を進め、ついに火山地帯に入った俺らは、激しい熱気の歓迎を受けていた。
そろそろ用意してたあれの出番かな?
事前に用意していた耐熱グッズを取り出してみんなに配布する。
冷感シャツと冷感タオルをそれぞれ1枚。
それとフルアーマーを着ているガイには鎧の中に着込んで背中から体を冷やせるひんやりリュック。
あとは熱中症対策に経口補水液だけど、これは緊急時以外はいいか。
女性陣はテントを建てて中で着替え、その間に男性陣は外で着替えを済ませた。
「なにこれー!!めっちゃ着心地いいし、涼しぃ~!!」
「はぁ~♪こんな肌着があるなんて♪」
「おい!エレナ!マリア!シャツも凄いけど、ガイのリュックに触れてみろよ!!」
アレクはガイが背中に背負ったひんやりリュックに顔をぴったりとつけて心地よさそうな顔を示した。
それにつられてエレナがひんやりリュックに手を触れる。
「えっ!?何々!?わっ!なにこれ!めっちゃ冷たい!!マリアもほら!ガイの背中に抱き着いてみて!!」
「そ、そんな抱き着くなんて!?」
「いいからいいから!気持いいぞ!」
エレナとアレクに背中を押され、マリアはガイの背中に無理やり誘導される。
そして顔がひんやりリュックに触れた瞬間。
その冷たさに抗えずマリアはガイの背中に身を寄せた。
「はぁ~♪とっても幸せです♪」
そして困り顔で照れるガイと、その背中に身を寄せて気持ちよさそうな顔を浮かべるマリアを見てニヤニヤする悪ガキ二人。
そんな二人の様子に気が付いたマリアは慌ててガイの背中から離れて取り繕った。
「……はっ!?ち、違います!今のはそういう意味ではなくてですねっ!!」
「はいはい!」
「ごちそうさまで~っす!」
「もう!二人とも!!」
そして3人の追いかけっこが終わり、冷静になったところで再び龍の巣に向けて皆が歩み始めたその時。
大地が激しく揺れた。
おっ?震度4くらいはありそうか?
平気な顔でそのまま足を進めようとするも、竜の牙の面々もライアも震えてしゃがみ込んでしまっていた。
流石にこの規模の地震が定期的に起きるのは危険か?
火山の近くにいるときに大地震が起きて火砕流が発生したら一たまりも無いよね。
うーん。流石に地震を止める道具なんてないしなぁ。
取り合えず、出来るだけ低い場所を避けながら火山を目指すしかないか。
「……なぁ。どうしてスズヤさんは大地が揺れても平気なんだ?」
アレクは不安そうな顔のままそう尋ねてきた。
流石に少しだけ地震について説明するか。
日本は地震大国で、震度3~5程度の地震であれば特に被害も無いので慌てず冷静でいられること。
そして日本で知り得た地震についての話をしてみた。
火砕流の危険性についても事前に説明しておく。
「――なるほど。それであんなに冷静でいられるのか」
「でもこの世界には神も魔物も居るみたいだし、魔法もあるから俺の世界の常識だけで地震を知ったつもりになるのは危ないと思うよ。ただ、どんな状況でも冷静に対処できて動けるような心構えがあれば、緊急時にも迅速に対応できると思うから、地震を感じてもパニックに陥らずに冷静に判断できる余裕を持てるといいかもね」
ま、俺の場合、地震は平気だけど魔物が出たらパニックになるんですけどね。
「そうだな。仮にもSランク冒険者を目指してるんだ。大地が揺れただけでビビってたらダメだな。スズヤさんのおかげで大地の揺れが完全に未知のものじゃないと知れて少し冷静になれた気がする」
「そうだね……」
「そうですね。未知とは怖いものですからね……」
「うむ」
「俺の世界には魔法もないし、神は居るのかいないのかも分からなかったから、未知を既知に変えるための技術が発展してたんだよね。俺の世界でも数百年前までは地震も津波も、大地の神の怒りだとか海の神の怒りだとかって言われて恐れられていたんだ。でもそれらが実際はただの自然現象だとわかり、事前に対応したり対策を打てば被害を最小限に減らせると証明されて今に至ってるから。地震の原因が魔物なのか自然現象なのかはまだ分からないけど、原因さえわかれば対応できると思うよ」
「おし!俺は地震の原因を見つけて恐怖を克服してやる!」
「わ、わたしも!」
「未知を既知に変えるという考え方。素晴らしいですね♪」
「うむ」
「んじゃ次の地震が起こる前に出来る限り龍の巣に近づいておこう。あっ!低い場所は避けながら進むよ。そういえば、ライアは火山地帯でも平気?無理してない?」
「ん。熱いの嫌い。でも冷たいののおかげで平気~」
ライアは冷感シャツと背中のひんやりリュックのおかげで意外と快適そう。
よかった。
植物の魔物だからちょっと心配したけど大丈夫そうかな?
「ただ」
「ん?」
「熱すぎると、植物すぐに燃えちゃって力出せない」
「そこは無理しないで大丈夫だよ。もともと龍の牙が全て戦闘は請け負うって話だからね」
「ん。任せる」
その会話を聞いて4人は一瞬、ピクッと体を硬直させた。
「ま、まぁ。余程のことが無ければ?ライアさんの手を借りなくても?問題ないぜ?」
おい、アレク。目が泳いでるぞ。
「私が危ないときは助けて!ライアちゃん!」
「わたしもよろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「ん。任された」
「あーーー!お前らだけずりぃぞ!!」
「まぁまぁ。もともと危ないときはライアの力を借りたいって話だったから。そこは大丈夫」
※ ※ ※
龍の巣最奥の広場にて。
巨大な体躯をもち、全身に深紅の鱗を身にまとう、頭に赤黒い大きな二本の角を持つ竜が、地震の揺れを感じて目を覚ましていた。
『全く、騒々しい……。我の眠りを妨げる不届き者め……』
所持金 金貨85枚 銀貨5枚 黄銅貨4枚 青銅貨2枚
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ブックマークや評価をいただけると励みになります。
誤字脱字等ありましたら、お気軽にご報告いただけると嬉しいです。




