第33話(最終章第8話):感染症の再来―『新種ウイルスの襲来』とチーム完全防衛
~我が家を襲う突然のバイオハザード
0600(マルロクマルマル)。
リビングにて、私は体温計の液晶画面数値を見て
動揺しながらも冷静に判断した。
「……数値、39.2度。バイオハザード警報、発令」
目の前で、長男・リクがぐったりとソファに横たわり、
「うう……」
と微熱にうなされていた。
昨夜から続く突然の高熱。
保育園経由で侵入してきた未知のウイルスによる
「感染症の再来」である。
かつて、ワンオペ育児の最中に子供が発熱したときは、
文字通り地獄のような阿鼻叫喚の混乱が巻き起こった。
仕事を休めない夫、一人で看病と家事をすべて背負い込んで
疲弊しきった私――
あの頃の我が家は、ウイルスという名の敵襲の前に幾度となく
崩壊寸前まで追い詰められたものだ。
「葵(司令官)、状況はどうだ?」
さっきまでスーツ姿だった夫は、すでに動きやすい私服姿に身を包み、
手には濡れタオルと経口補水液のボトルをしっかりと装備していた。
(今日は出勤を急遽取りやめ、有給を取ってくれたのね…)
「最悪よ、あなた・副官。リクが発熱ダウン。
このままでは(プリンセス)メイにも感染するかも。
これまでの予防体制を上回る、過去最大級のバイオ危機よ」
私の言葉に、副官は慌てるどころか、かつての頼りない一般兵の面影を
完全に消し去った一級参謀の鋭い眼光を返した。
「了解した。これより我が家は、個別撃破ではなく
『チーム完全防衛体制』に移行する。
俺にすべてのスケジュール調整と看病の指揮を任せてくれ、司令官葵」
「……頼もしいわね、副官。
その言葉、そのまま採用させてもらうわ」
私は深くうなずき、直ちに司令部から各員へ役割分担の通達を出した。
「これより我が家の総力を挙げた『防衛オペレーション』を開始する。
まず、副官は『主席看病班』としてリクおよびメイの体調管理、水分補給、
および氷枕の換装任務に専念すること。
次に、私(司令官・葵)は全体の統括および感染拡大を防ぐための
『国境検疫(徹底的なアルコール消毒と換気)』を担当する」
「まかせてくれ。
会社の方にはすでに緊急のリモートワークおよび看護休暇の申請を完了している。
我が家の防衛が最優先だ」
副官はテキパキと動く。
かつては「俺が休むと仕事が……」
と及び腰だった男が、今や家庭内の危機において司令官と対等に肩を並べる
最強のパートナーへと進化していた。
さらに、今回はなんと「次世代兵士」自身も防衛戦に参加する。
熱が少し下がってきたリクが、ふらふらと起き上がりながら言った。
「ママ……ぼく、うがいと手洗いはちゃんとするから……。
それに、メイにうつさないように、ぼく自分の部屋で
大人しくマスクして籠城(隔離)するよ」
「……リク。君、いつの間にそんな高度な感染症対策の知識を身につけたの?」
「ふっ、パパがこの前
『手洗いはウイルスを撃退するバリアなんだぞ』
って教えてくれたんだ!」
リクは誇らしげに胸を張り、自分で自分のエリアに
消毒スプレーをシュッと吹きかけた。
かつては片付けすら嫌がっていた我が家の長男が、
国を守るための衛生兵として見事に成長を遂げている。
「メイちゃんも、おにいちゃんのおくすり、いっしょに応援する!」
下の子であるプリンセス・メイ(長女・三歳)も、いつもなら
「おやつくれ!」
と暴動を起こすところを、今日は真剣な面持ちでタオルを持って
兄の額を拭こうとしていた。
「メイ、ありがとう、偉いわね。
でもメイにもうつっちゃうといけないから離れていようね。
メイのその協力体制が、我が家の感染拡大を防ぐ最大の防壁よ」
私はメイの頭を優しく撫で、ウイルスの侵入を完全にシャットアウト
するための「特別隔離エリア」をリビングの一角に構築した。
かつてなら私が一人で、てんてこ舞いになり、
睡眠不足と疲労で免疫力が低下して自分まで発熱するという
最悪のバッドエンドを迎えていたはずだ。
しかし、今の我が家は違う。
夫が看病を担い、長男が衛生管理を自覚し、
私が全体を冷静にコントロールする。
まさに、隙の無い「チーム完全防衛体制」がここに完成していた。
◇
数日後。
我が家の作戦室には、かつてのピリついた緊張感が
嘘のように、穏やかで平和な空気が戻っていた。
リクの熱はすっかり下がり、
「お腹減ったー!」
といつもの元気な爆音を取り戻してリビングを駆け回っている。
メイも感染することなく、元気にブロック遊びに興じていた。
リビングのソファに腰掛け、私は冷めたコーヒーではなく、
温かいハーブティーを一口すすった。
「……ふう。新種ウイルスの襲来、完全制圧完了ね。
我が家の防衛網、どこにも綻びはなかったわ」
私の言葉に、隣に座った夫副官がふうっと息をつき、満足げに笑った。
「ああ。以前なら俺もただオロオロするだけで
お前を一人で苦しめていたが……
今回は家族全員が自分の役割を完璧に果たしたな。
まさに、我が家史上最強のチームプレイだった」
家族の絆とチームワークは何物にも負けない最強の防衛力であることを、
私たちは改めて確信した
(最終章第8話 終わり)
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