第32話(最終章第7話):資金繰りの透明化―『お小遣い制度』という経済システム導入
~新たな財政出動の危機~
午前0600(マルロクマルマル)。
我が国の作戦室にて、私は視線を
テーブルの上に積み上げられた数々の空き箱と、
一冊の「軍事予算帳(家計簿)」に向けていた。
「……またしても、予期せぬ財政出動(無駄遣い)が発生したわ」
私の目の前で、長男・リク・ザ・デストロイヤーが、
先週末にゲットしたばかりの
「変形合体ロボット・超銀河ゼータ(三代目)」
を満足げに振り回している。
彼は昨日の買い物の際、スーパーのお菓子売り場にて
『地面に伏して大泣きするという高度な心理戦
(床ジタバタ・アタック)』を仕掛け、
我が国の厳しい財政防衛網を突破してこれを強奪――
もとい、購入させたのだ。
「葵司令官、またやられたのか?」
背後から声をかけてきたのは、我が国の副官の夫である。
彼は出撃前のスーツ姿でコーヒーを啜りながら、
リクの持っている高額な玩具と私の険しい顔を交互に見つめた。
「ええ。これまでのシステムでは限界よ。
リク・デストロイヤーは
『欲しい=即座に親にねだれば手に入る』
という甘い認識を持っている。
このままでは我が国の兵站 (家計予算)が破綻しかねないわ」
私は冷徹なトーンで言い放ち、コーヒーカップを置いた。
「これより我が国は、次世代育成の経済改革として
『定額小遣い制およびマネーリテラシー向上計画』
を全面導入する」
「お小遣い……?ぼく、それをもらったら、
もっとおもちゃが買えるの?」
私の宣言を聞きつけたリクが、目をキラキラさせながら
すっ飛んできた。その足元では、相変わらず
『地雷散布』
が展開されていたが、私は華麗な回避機動でこれをスルーする。
「甘い幻想を抱かないことね、リク。
これから我が国が導入するのは、資本主義の厳しさ
を学ぶための『労働対価型・経済システム』よ」
私はテーブルの上に、ピカピカに磨き上げられた
100円硬貨を数枚並べた。
「これより君には、我が国のインフラ維持
(お手伝い)を担当してもらう。
玄関の靴並べで10円、リビングの簡易清掃で20円、
新聞の回収で20円。
日々の任務を遂行することで初めて
『給与(お小遣い)』が支給される仕組みだ」
リクは並べられた硬貨と、私の眼光を交互に見つめ、
ゴクリと唾を呑み込んだ。
「……お菓子や新しいおもちゃが欲しければ、
自分で働いて貯金しなきゃいけないってこと?」
「その通りよ。
欲しければ自分の労働力と引き換えに資金を稼ぎなさい。
他力本願による無計画な財政出動は、これより一切禁止とする」
「なるほど、なかなかにシビアだが理にかなった経済改革だな」
夫副官が頷きながら、経済コンサルタントの如く腕を組んだ。
「ガキの頃から労働と報酬の因果関係を叩き込んでおくのは、
社会に出てからのリスク管理としても非常に有効だ。
ちなみに、俺の肩たたき任務にはいくら支給されるんだ、
葵司令官?」
「副官の肩たたきは、福利厚生の一環として無償奉仕の義務範囲よ。
予算の不正流用は認めないわ」
私の冷徹なツッコミに、副官は
「ですよねー」
と苦笑いを浮かべた。
そのやり取りの傍らで、下の子である
プリンセス・メイ(長女・三歳)
が、ちゃっかりと『精神汚染』を私に向けながら、
「メイちゃんも、おしごとしたい!おかねほしい!」
と経済特区への参入をアピールしてきた。
「あなたにはまだ早いけれど……そうね、
リビングのぬいぐるみ整頓任務なら、
特別に『おやつ引換券』の支給を許可しましょう」
メイは
「やったぁ!おやつだぁ!」
と大喜びでぬいぐるみの回収を開始し、
我が家の労働生産性は一気に向上したのだった。
◇
それから数日後。
我が国の作戦室の一角には、牛乳パックで作られた
手作りの『国家第一貯金箱』が鎮座していた。
リクは、毎日こつこつと靴並べや雑巾がけの任務をこなして
稼いだ硬貨を、ジャラリと貯金箱に投入していた。
「ふふーん、これで今週末は、欲しかった恐竜フィギュアの
半額分くらいまで貯まったぞ!」
彼の表情には、他人にねだるだけの時とは違う、
自らの労働で富を築いた『資本家の誇り』が満ち溢れていた。
リビングのソファに腰掛け、私は冷めたコーヒーを
口にしながらその様子を静かに見守る。
「……順調ね。
我が国の財政赤字は完全に解消され、
次世代のマネーリテラシーも順調に向上しているわ」
隣に座った夫副官が、優しく微笑みながら
私のカップに温かいお代わりを注いだ。
「ああ。子供に金の価値を教えるのは親の仕事だが、
ここまで徹底的な経済特区を作り上げる
葵司令官の手腕には毎度脱帽するぜ」
外の世界では様々な物価高や経済変動が報じられているが、
我が国という盤石の国家体制においては、今日も堅実で平和な
資本主義のシステムがしっかりと機能しているのであった――!
(最終章第7話 終わり)
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