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第30話(最終章第5話):文化交流の危機―『子ども同士のお泊まり会』という未知との遭遇

~持ち込まれた未知の外交案件


作戦室リビングにて、私は視線を一枚の連絡帳――

いや、隣国(友人宅)から送られてきた『極秘通達文書』に

向けていた。


「……子ども同士の、お泊まり会、か」


 私はコーヒーカップを手に取り、すっかり冷めきった液体を口に含む。

ワンオペ育児という名の第一防衛線を制圧し、

夫を副官へと昇格させて以来、我が国が直面する脅威は

さらに多様化していた。

今回はついに、他国の領土(友人の家)へ次世代兵士を派遣するという、

高度な「文化交流および単独外交」の案件が持ち上がったのだ。


「ねえ、葵・司令官。

朝からまた一段と難しい顔をして、どうしたんだ?」


 背後から声をかけてきたのは、我が国の副官・夫である。

彼はすでにスーツのジャケットを羽織り、出撃準備を整えながら

テーブルに近づき、険しい顔の私が手にしている『極秘通達文書』

(連絡帳)を覗き込んだ。


「見てみなさい、副官。

我が国のデストロイヤー(長男・リク、五歳)が、

今週末に同盟国であるユウト君の邸宅へ

『お泊まり外交』に行きたいと主張しているのよ。

親の同伴なしで、敵地……いや、他国の家庭ルールに

単身で飛び込むというのだから、

これは我が国の歴史における重大な外交試練よ」


私の言葉に、副官は


「お泊まり会か……」


と腕を組み、懐かしむような、あるいは冷や汗をかくような

複雑な表情を浮かべた。


「懐かしいな。

俺がガキの頃は、友達の家にお泊まりするだけで一

大冒険だったが……うちのリクの精神力で、

他国の厳戒態勢(家庭の独自ルール)

に耐えられるのか?」


「そこが最大の懸念事項よ。

我が家の防衛基準と、他国のセキュリティ基準は全く異なる。

あいつが向こうのルールを無視して暴走すれば、

我が国の外交信用に関わる国際問題(大迷惑)

に発展しかねないわ」



ちょうどその時、

「おはよーーーっ!」

と元気な怒号を上げながら、長男・リク(ザ・デストロイヤー)

がリビングへ突入してきた。

その足元には相変わらず昨夜の残骸である

地雷散布レゴ・フィールド』が転がっていたが、

私は見事な回避機動でこれを華麗にクリアする。


「リク、ちょっと来なさい。

週末の『お泊まり外交』に関する事前通告を行う」

「やったー!ぼく、ユウトくん家にお泊まりするんだ!

ゲームし放題だよね!」


満面の笑みで飛び跳ねるリクに対し、

私は冷徹かつ厳格なトーンで言い放った。


「甘い。他国への単独潜入をなめてもらっては困るわ。

我が国の代表として赴く以上、

以下の『三原則』を厳守しなさい」


私は指を三本立てた。


「一、他国の領土内(友達の家)では、

我が家の勝手なルールを押し付けないこと。


二、食事の際、好き嫌いでボイコット

(イヤイヤ・ストライキ)を発動せず、

出された補給物資は残さず完食すること。


三、就寝時刻が来たら速やかに作戦行動を終了し、

睡眠という名の補給を怠らないこと。


――以上の基本条約を破った場合、

我が国は直ちに緊急回収班(お迎え)を派遣し

、以後一か月の出禁処分とする」


リクは私の鬼気迫る(あるいは冷徹な)オーラに気圧され、


「うっ……わ、わかったよ……がんばる……」


と冷や汗を流しながら敬礼のポーズをとった。



「まあ、そう厳しく言ってやるな、葵・司令官」


夫・副官が優しくフォローを入れるように、

リクの頭をポンと叩いた。


「要するに、よそ様のお邪魔にならないように、

いつもより少しだけお利口さんにしていればいいんだ。

困ったときは、相手の親御さんにちゃんと

『ありがとうございます』と

『ごめんなさい』の

外交辞令を使うんだぞ」


「……ふっ。副官の言う通りね。

礼儀作法という名の最低限の防壁さえ構築しておけば、

外交摩擦の大半は回避できるわ」


 そのやり取りの傍らで、下の子である

プリンセス・メイ(長女・三歳)

が、愛くるしい『精神汚染あざと・スマイル』を

私に向けながら、


「メイちゃんも、おともだちのおうちでおとまりしたい!」


と乱入してきた。


「ダメよ、あなたにはまだ早い。

あなたのお泊まり外交は、まずオムツという名の

補給物資が完全に不要になってからよ」


私の一言に、メイは


「むーっ!」


と頬を膨らせて抗議の「広域音波」を発しそうになったが、

副官がすかさずお気に入りのぬいぐるみで気を逸らして

事なきを得た。


――我が家の危機管理能力は日々向上している。



週末の土曜日。

 玄関先で、ピカピカのリュックサック

(着替えと愛用の恐竜パジャマを搭載)

を背負ったリクが、少し緊張した面持ちで立っていた。


「……よし。身だしなみチェック、異常なし。

これより、リクの単独お泊まり外交に向けた出国を許可する」


私の言葉に、リクは深くうなずき、玄関のドアを開けた。


「いってきまーす!」


 トコトコと友達の家へと駆けていく小さな背中を見送りながら、

私は玄関の扉をそっと閉めた。



 リビングのソファに戻り、私は冷めたミルクティーを口にする。


「……ふう。家の中にリクがいないと、

なんだかリビングが広くなったように感じるわね」


私の呟きに、隣に座った夫・副官が温かいミルクティーのカップを

差し出しながら微笑んだ。


「ああ。いつもなら『おやつくれ!』『公園行くぞ!』と

暴れ回っているからな。でも、こうやって外の世界に出て

経験を積んでいくのも、次世代育成の重要なステップさ」


 外の世界という未知の荒波に飛び込んだ我が国の小さな戦士。

彼の初めての単独外交がどうなるか少し気掛かりではあるが、

親として見守るべき時はしっかりと見守る。


 副官(夫)との共同統治体制の我が国(家)は、

今日も確実に次のステージへと歩みを進めているのだった―!



(最終章第5話 終わり)

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