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第28話(最終章第3話):独立国家の誕生―『自分の部屋』という領土主張

~我が国における領土問題の勃発


午前0600(マルロクマルマル)

 我が国の作戦室リビングにて、

私はいつものようにコーヒーを啜り、

冷徹な思考を巡らせていた。

だが、今朝の空気はどこかピリピリとした緊迫感に

包まれている。


 事の発端は、

昨夜遅くに我が国の最高会議(リビングでの家族会議)で

提出された、ある「過激な要求書」にあった。


「……独立宣言、か」


私は手元の紙きれ――

いや、長男・陸(リク・ザ・ディストロイヤー5歳)

がクレヨンで殴り書きした


『じぶんのへやがほしい』


という血判状のような要望書を見つめた。

 五歳にして、ついに自らの「領土」を欲しがり始めたのだ。

リビングという共同統治区画から離れ、

自前の個室(独立国家)を構えたいという。


「司令官、どう対応しますか?

あいつ、昨日の夜から自分のぬいぐるみを勝手に

陣地・二階の空き部屋に移動させ始めていましたよ」


 背後から声をかけてきたのは、我が国の『副官ケンタ』――

夫である。

かつては


「子供の言うことだから適当にあしらっておけばいい」


などと呑気なことを言っていた男だが、

今の彼は一級の参謀として、

家庭内の領土再編リスクを冷静に分析していた。


「放置すれば、我が国の防衛体制に

深刻なセキュリティーホールが生じるわ。

自分の部屋を持つということは、

自らの領土の安全保障――

すなわち『片付けと自主防衛』の責任を

すべて自分で負うということよ。

甘い考えでは統治などできない」


私はコーヒーカップを静かに置き、

冷徹な視線を二階の階段へと向けた。



「よし。

これより我が国は、次世代育成の一環として

『子供部屋の独立および領土再編計画』

を発令する」


 我が国の司令官として、私は全軍に通達を出した。

空き部屋となっていた二階の洋室。

そこへ赴くと、すでにディストロイヤーと、

その後をついて回るプリンセス・メイ(長女・三歳)が、

室内に無数のオモチャを散乱させて


「わーい!ぼくのくにだー!」


と盛り上がっていた。


「待て、リク。

そこはまだ正式な領土として承認されていない」


「えっ、だってぼくのへやなんでしょ?」


「甘いわ。

自分の部屋を欲しがるなら、まずはその足元を見なさい」


リクの足元――

そこには、見事に散らばったレゴブロックや

プラスチックの剣が、まるで領土を守るための

バリケード(あるいは対人地雷)の如く敷き詰められていた。

そう、我が家の名物スキル

地雷散布レゴ・フィールド』である。


「この散乱状態のまま独立国家を名乗るなど、

治安維持の観点から絶対に認められないわ。

自分の部屋が欲しいなら、

まずこの混沌とした治安の悪い地域を、

自らの手で完全制圧(片付け)しなさい」


私の冷徹な宣告に、リクは


「うぐっ……」


と言葉を詰まらせた。

しかし、一度「自分の部屋」という甘い蜜を味わった

彼のプライドは、ここで引き下がることを許さない。



「よし、分かったよ!

ぼくがこのくにをきれいにすりゃいいんでしょ!」


 ディストロイヤーは戦闘モードに切り替わり、

床に散らばったオモチャの回収作業を開始した。

だが、そこはまだ五歳児。

箱に詰め込もうとしては別のオモチャをバラ撒き、

あっという間に要塞の崩壊――

もとい、さらなるカオスを生み出す。


「おっと、リク。

そこのロボット兵器は

『ロボット格納庫(青いプラケース)』

に分類しなさい。

敵味方の区別がつかなくなるぞ」


 副官ケンタが絶妙なタイミングで介入し、

分類ボックスの配置を指示する。

かつては自分が散らかす側だった男が、

今や子どもたちの教育係として見事な

『副官支援スキル』

を発揮している。

私は心の中で、副官の家事・教育スキルが

さらにランクアップしたのを確認した。


「パパ、これどこにしまうの?」


「お、プリンセス・メイも手伝ってくれるのか?

えらいぞ、それはピンクの箱だな」


下の子であるメイも、兄の真似をして

精神汚染あざと・スマイル』を封印し、

せっせとぬいぐるみを回収していく。


我が家の次世代たちは、

着実に「自主防衛の意識」を芽生えさせていた。



午後1400(ヒトヨンマルマル)

 数時間にわたる激しい内政改革(片付け)の末、

二階の空き部屋は見違えるほど綺麗に

整理整頓されていた。

床の地雷は完全撤去され、

本棚には絵本が整然と並び、

中央には小さなベッドが誇らしげに置かれている。


「……よし。

我が国における第二領土、

『リク&メイ防衛区』

の独立を承認する」


私が厳かに告げると、

リクはピカピカになった自分の部屋を見渡し、

満面の笑みを浮かべたやったぜ!

とガッツポーズをする。


「やったー!ぼくのくにだ!

だれもはいっちゃいけないんだからね!」


「ただし、防衛区内の治安維持――

つまり毎日の片付けを怠った場合、

我が軍は直ちに武力介入(強制撤去)

を行うからそのつもりでね」


「うっ……わかったよ!」


その日の夕方、自分たちの部屋で

仲良く遊ぶ子どもたちの笑い声が

二階から聞こえてきた。

リビングのソファに戻り、

私は再び冷めたコーヒーを口にする。


「……ふう。

子どもたちが自立していくのは頼もしいことだけど、

リビングから彼らの足音が減ると、

少しだけ静かすぎる気もするわね」


 隣に座った夫・副官が、優しく微笑みながら

私のカップに温かいコーヒーを注ぎ足した。


「何言ってるんだ、葵・司令官。

これからの戦いはまだまだ続くんだろ?

子どもたちの独立は、我が家(国)の防衛体制が

次のフェーズに進んだ証拠さ」


 夫・副官の言葉に、私はフッと小さく笑った。

我が家(国)の生活スペース(領土)は広がった。

 しかし、親としての戦いと絆は、

今日もこうしてしっかりと結ばれているのだった。



(最終章第3話 終わり)

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