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第25話(第2章最終話):全軍休戦―『参謀のクーデター』

作戦開始時刻、土曜日午前0830(マルハチサンマル)。


 突発的な高熱という我が国最大の危機から数日。

私の熱は完全に下がり、

体調も万全の状態へと回復を果たしていた。


「ふぅ……すっかり体調も戻ったわね。

よし、溜まった家事を片付けないと!」


 私はエプロンを固く結び、

気合十分でキッチンへと出撃(スクランブル発進)した。

……しかし。


「――な、なんですって……!?」


キッチンに踏み込んだ瞬間、私の足がピタリと止まった。


 そこに広がっていたのは、想像を絶する光景であった。

シンクには水滴ひとつ残っておらず、

ステンレスがピカピカに磨き上げられている。

リビングを見渡せば、おもちゃは美しく整頓され、

床は拭き掃除まで完了して光り輝いていた。


 ベランダからは、お日様の匂いがする

ふんわりと乾いた洗濯物が完璧に畳まれて整列している。


そして何より――。


「あ、ママ起きてきた!

パパと作ったお味噌汁、おいしいよー!」


「メイちゃんも、おにぎり作ったのー!」


 ダイニングテーブルでは、

要人二人(リク5歳長男 & メイ3歳長女)が、

夫と一緒に笑顔で朝食を囲んでいたのだった。


「だ……参謀……これ、一体……!?」


呆然と立ち尽くす私に、

参謀(夫・ケンタ)はゆっくりと立ち上がり、

不敵な笑みを浮かべた。


「フッ……遅かったな、司令官(葵)」


「え……?」


夫は白熱する日差しを背景に腕を組み、堂々と宣言した。


「――これより、朝倉家共同参謀・ケンタによる

『平和的クーデター』

を全軍に発効する!!」


「クーデター……!?」


「そうだ!本日、我が朝倉家司令部は全軍休戦(全家事停止)とする!

司令官・葵に対し、労働基準法を上回る『完全強制休日権』を付与する!

司令官のキッチンおよび全家事エリアへの立ち入りを禁ずる!」


「な……なんですってーーー!?」


 驚愕する私をよそに、夫は私の肩をやさしく抱き寄せ、

リビングの極上マッサージチェアへとそっと座らせた。


「熱は下がったとはいえ、病み上がりの体に無理は禁物だ。

今日は俺が一人で子どもたちを連れて遊びに行くし、

夕飯も全部俺が手配する。

葵は一日中、ここで好きな本を読んで、

好きな紅茶を飲んで、ゆっくり休んでくれ」


「で、でも……私だけ休むなんて……!」


戸惑う私に、夫は穏やかで、しかしどこまでも力強い眼差しを向けた。


「『当事者』だからこそ、言ってるんだよ」


「……!」


「葵が倒れた時、痛感したんだ。

俺が今までどれだけ葵の負担に甘えていたか。

そして、二人で協力して家事を回すことが、

どれだけ家庭を明るくするかをね。

俺はもう、君に一人で戦わせるようなヘボい参謀じゃない」


 夫の手から差し出されたのは、

湯気が立ち上る淹れたてのハーブティーであった。


「司令官。

今日くらい、俺の『クーデター』に大人しく従いなよ」


 その温かい一杯を受け取った瞬間、

私の胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。


 かつては「手伝ってやる」

と上から目線で言い放ち、買い物一つで迷子になり、

義母の小言に黙り込んでいたあの夫が――。

今や、自らの意思で家事を完璧に回し、

私を思いやり、対等なパートナーとして

この家を守ってくれている。


「……報告します」


 私はハーブティーのカップをぎゅっと抱きしめ、

ふっと目を細めて小さく笑った。


「……新米兵士(夫)が予想以上の戦果を挙げ、

司令官の座が脅かされています。」

(……ふふっ、たまにはこの『クーデター』に屈するのも、悪くないわね)


「へへっ、だろ?今日の朝倉家は、完全平和外交だ!」


 窓から差し込む温かな光の中、要人たちの無邪気な笑い声と、

夫の頼もしい笑顔が広がっていく。


 かつて孤軍奮闘のワンオペで絶望していた我が家は、

いまや固い絆で結ばれた『最強の夫婦同盟』へと

生まれ変わっていた。


 二人の司令官が歩む、笑いと涙に満ちた家庭改革の物語。

その第2章は、最高の笑顔とともに、

見事なフィナーレを迎えたのだった――。



(第2章完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました

『第2章:夫婦同盟・内政改革編』

はこれにて完結といたします。

次回は最終章

『第3章:次世代育成・未来への継承編』

を予定しております。

みなさんの温かい応援のおかげで、

第2章を無事に描き切ることができました

心より感謝申し上げます。


―― 作者:うつりゆく心持ち

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