第2話:夕刻の補給戦――スーパーの半額シール争奪戦
午前中の家事と幼稚園の送迎という 2大ミッションを完遂した
次に私を待ち受けていたのは、 夕刻の最重要作戦――
『夕食食材の補給戦』であった。
時刻は1630(ヒトロクサンマル)。
私が足を踏み入れたのは、 近隣最大の戦略拠点『スーパー・マルハチ』。
店内にはすでに、同じ志を持つ 熟練の戦士(主婦・主夫たち)が
静かな殺気を漂わせながら回遊している。
「ふっ……みな良い顔をしているな」
買い物カートを握りしめ、 私は戦場(店内)の熱気を感じ取る。
今日のメイン作戦は、 高騰する物価の波を跳ね返すための
『半額シール獲得ミッション』だ。
我が家の家計という名の国家予算は、 昨今の物価高により常に緊迫した状態にある。
ここで国産牛、または上質な刺身パックを 55%オフ(半額)で奪取できれば、
今夜の食卓の士気は跳ね上がり、 予算の防衛にも大きく貢献できるのだ。
「ターゲット捕捉……精肉コーナー、奥」
私は気配を消しながら、 精肉エリアの物陰へと潜入した。
そこには、黄色いラベル貼付銃を 手に持つ店員さん――
コードネーム『シール貼り係店員さん』が 降臨していた。
彼・彼女こそが、この戦場の絶対的な支配者。
彼・彼女の動向ひとつで、パック肉の価値が 一瞬で無制限に変動するのだ。
周囲の戦士たちが、さりげない素振りで 店員さんとの距離を詰め始める。
あからさまに群がれば警戒される。
全員が「たまたま今、鶏胸肉を選んでいます」 というフリをしながら、
間合いを測っているのだ。
高度な心理戦(キツネとタヌキの化かし合い)。
「……来た!」
店員さんの手が動く。
ピピッ。ピピッ。 貼られていく『30%OFF』のシール。
(甘い……! ここで飛びつくのは新兵だ)
私は動じない。 本当の戦いは、このあとの『半額』で訪れる。
店員さんが一度バックヤードへ下がり、 5分後に再び現れた。
その手に握られたシール銃の色が変わっている。
赤と黄色のツートンカラー――半額シールの合図だ!
店内が一瞬で静まり返り、 ピンと張りつめた緊張感が走る。
店員さんが『国産黒毛和牛・半額』のシールを パックに貼り付けた、
その瞬間――!
「もらったー!」
横から素早く伸びてきた手が、 黒毛和牛を奪い去った!
ライバル戦士(近所のベテラン主婦)の見事な電撃作戦!
「くっ……速い! だが、私の本命はそこではない!」
私の真の狙いは、その隣にあった 『豚肩ロース(大容量パック)』だ!
今夜のメニューは豚の生姜焼き。
子どもたちが大好きなスタミナメニューであり、
明日のお弁当の作り置き(予備戦力)にも回せる 最強のマルチプレイヤー!
店員さんの手が豚肩ロースへと伸びる。
ピピッ! 眩しく輝く『50%OFF』の文字!
「確保――!!」
私は音もなく間合いを詰め、 洗練された無駄のない動作で
パックをカートへと回収した。
タイムラグ、わずか0.5秒。 完璧な補給作戦の遂行である。
「ふぅ……作戦成功だ」
籠の中の半額シールを見つめ、 私は密かに勝利の笑みを浮かべた。
しかし、戦場(日常)は私に 勝利の余韻を浸る時間すら与えてはくれない。
ポケットの中でスマホが激しく振動した。
幼稚園からの緊急入電(SOS)だ!
『あ、朝倉さんの保護者様ですか? リクくんが、お友達とジュースの
貸し借りで 大泣きしてしまいまして……』
「――何だと!?」
前線(幼稚園)で新たな局地戦が発生!
私は半額の豚肉を抱え、 レジへとダッシュを開始した。
専業主婦に、終戦の文字はない。
次なる戦場へ向けて、私は今夜も走り続ける――!
(第1章 第2話 終わり)
第2話もお読みいただき、ありがとうございます
スーパーの半額シール争奪戦、 皆様も一度は体験したことがあるのでは
ないでしょうか…(私だけかも…)
シールを貼る店員さんが現れた時の あの独特の緊張感、
たまらないですよね
(でも、ここで騙されちゃダメですよ。いくら安くなっても
要らないものは要らない!って当初の買い物計画を貫徹する
強い信念を持って買い物という「狩り」に臨まないと!)
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