第19話(第2章第6話):台所占拠事件! 夫の『男のこだわり料理』という暴走
作戦開始時刻、土曜日午前1100(ヒトヒトマルマル)。
物価高との講和条約(財政改革)を成功させ、
調子を上げていた参謀(夫・ケンタ)。
しかし、この「自信」と「家事への慣れ」が、
我が『朝倉家共同司令部』に思いもよらぬ内部暴走を
引き起こすこととなった。
休日、参謀がキラキラとした目を輝かせながら、
両手に巨大な買い物袋を抱えて帰還した。
「葵!今日の夕飯は俺に任せてくれ!参謀として、
我が国の食卓に革新をもたらす
『スパイスから育てる本格極上スパイスカレー』を作る!」
腕まくりをし、やる気満々で腕を振るう参謀。
(……スパイスから……?いやな予感がするわ……)
私が買い出しのレシートを確認した瞬間、背中に冷や汗が走った。
【購入物資レシート】
・カルダモンホール、クミンシード、コリアンダーパウダー等(12種類)
・高級国産牛すね肉(特大ブロック)
・謎の輸入ホールドマト缶&特殊ハーブ
・計:1万2,800円
「――ちょっと待ちなさい、参謀!!!」
私は思わず叫声を上げた。
「な、何なんだこの一食分の食材費(1万超え)は!?
前回の『インフレ講和条約』で削減した努力を
一回の夕食で吹き飛ばす気なの!?」
「ふふふ、甘いぞ司令官。
本物の味を追求するには、初期投資が必要なのだ!
革命には多少の犠牲がつきものだろ!」
すでに「料理研究家」のゾーンに入り込んだ参謀には、
私の冷徹な制止(コスト警告)が届かない!
そして1500(ヒトゴーマルマル)。
参謀による『キッチン完全占拠(独立宣言)』が強行された。
コンロの上には見慣れぬホールスパイスが炒められ、
家中を強烈なエスニックの香りが包み込む。
パチパチとはじける油、飛び散るスパイスの粉末、
コンロの周りに積み上げられるボウルや鍋の山――!
「うおー!クミンの香りが立ってきたぞー!
玉ねぎは飴色になるまであと40分炒める!」
作業開始から3時間。
要人たち(リク5歳長男 & メイ3歳長女)が
「お腹すいた〜」
「パパ、まだ〜?」
とぐずり始めた。
「参謀!状況を報告しなさい!
18時までの夕食提供ラインに間に合うの!?」
「くっ……スパイスの抽出に時間がかかっている!
焦るな、極上のものは時間がかかるんだ!」
(……ダメだわ。完全に『作戦目的』を見失っている……!)
家庭における料理の目的とは、
「限られた時間と予算の中で、
家族全員が栄養のある美味しいご飯を食べる」こと。
今の参謀は、「己のこだわりと自己満足を満たすこと」に主眼が置かれ、
キッチンを完全に私物化(内政の私物化)していたのだ!
放置すれば、夕食の遅延による子どもたちの暴動(ギャン泣き)と、
ギトギトに汚れたキッチンの後始末(二次被害)が確定する!
「――これより、参謀の暴走に対する
『介入(共闘)作戦』を開始するわ!」
「な、なんだと!?」
私はエプロンを締め、占拠されたキッチンへ突撃(スクランブル発進)した!
「参謀!あなたのスパイス調合は素晴らしいわ。
だが、工程の管理(工程管理)が破綻している!
肉の煮込みは圧力鍋を使って時短!
子どもたちの辛さ調整用にルーを2分割
(子供用&大人用)するわよ!」
「あ……!圧力鍋……!その手があったか!」
「そして、あなたが油を飛ばしながら炒めている横で、
私が並行してコンロ周りの拭き掃除とボウルの洗い物を片付ける
(リアルタイム・クリーンアップ)!」
「葵……!!」
司令官の介入により、停滞していた調理プロセスが
3倍のスピードで回り始めた!
参謀が煮込みに集中する傍ら、私が子ども用の
甘口アレンジとサイドメニューのサラダを素早く手配。
◇
1815(ヒトハチヒトゴー)。
「完成だ……!朝倉家特製・極上スパイスカレー!!」
テーブルに運ばれたカレー。
スパイスの深いコクと、ホロホロに崩れる牛肉。
子どもたちには甘口のリンゴピューレを加えた特製カレー。
「おいしいー!パパのカレー、お店みたい!」
「おかわりー!」
要人たちの歓声が響き渡る。
一口食べた私も、その出来栄えの高さには認めざるを得なかった。
「……悔しいけれど、味は完璧ね、参謀」
「へへっ……だろ?でも……ごめん葵」
参謀はピカピカに拭き上げられたキッチンを見つめ、
苦笑いを浮かべた。
「俺、料理に夢中になりすぎて、予算も時間も後片付けも
全部葵に押し付けるところだった。
『当事者』として料理を作るなら、片付けや予算も含めて
コントロールしなきゃダメだったな……」
自分の暴走と失敗を素直に認めた参謀。
「ふふっ、分かればいいのよ。
それに……たまの休日に、こんな美味しいカレーが食べられるなら、
たまの『暴走』も悪くないわ」
「葵……!
よし、次は予算3000円以内で作れる極上カレーを研究するぞ!」
「それは頼もしいわね。楽しみにしているわ、参謀」
台所占拠事件は、夫婦の共闘と互いの歩み寄りによって、
最高の成果(絶品カレー)とともに収束したのだった――。
(第2章第6話終わり)
お読みいただき、ありがとうございます
作品をお気に召していただけましたら、
【ブックマーク】や【評価】で応援していただけると
嬉しく思います




